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蒼いマフラー、なびかせて ①

『X-サイボーグ』。


 それはかつて世界の危機を幾度も救い、人々から『救世主』とさえ呼ばれた9人の戦士達。



 さかのぼること数十年前…東西冷戦真っ只中の1960年代。

 アメリカとソ連が睨み合う水面下で…そのどちらにも組まぬ第三の勢力が存在していた。

 その名は…『シュバルツガイスト』。


 ドイツ語で『黒い幽霊』を意味するその組織が、何時、どのような経緯で成立したのか。

 今となってはそれを知る者はいない。

『ナチスドイツの残党』だという者もいれば、『異星人の地球侵略組織』だという者も居るし、『超古代文明の末裔』だという者も居る。


 その正体に関しては謎としか言いようがないが、はっきりしているのは彼ら『シュバルツガイスト』が、同時代の米ソ両国…いや、世界のどんな国よりも、進んだ科学技術力を有した組織だったということだ。


 改造人間(サイボーグ)兵士の開発、ロボット技術の軍事転用、レーザー光線兵器の実用化、人工衛星を介した電子通信網の確立…本来ならば、21世紀にならなければ実現不可能な筈のテクノロジーを、シュバルツガイストは冷戦の時代に既に実現させていた。


 その技術力を行使してシュバルツガイストは世界各地の戦争や紛争の裏で暗躍し、最終的には米ソ両国すらも下して世界を支配しようとしていたのだと言われている。


 そのシュバルツガイストの野望を阻み、世界と人々を救った者達こそ…件の『X-サイボーグ』達だった。


 元々『X-サイボーグ』達は、シュバルツガイストの次世代型最新鋭改造人間(サイボーグ)兵士のプロトタイプとして世界各国から拉致され、各人の意思を無視して改造人間(サイボーグ)にされた人々だった。


 しかし、改造人間(サイボーグ)開発の責任者だった科学者『ヨセフ・パブロフ博士』がシュバルツガイストの実態を知って反抗を決意し、パブロフ博士の手引きにより9人は脱走。

 その時より、彼らはシュバルツガイストへの地球上唯一の対抗勢力として、シュバルツガイストに対するレジスタンス活動を開始したのだ。


 時に東京の街中で、

 時にベトナムのジャングルで、

 時に北極海の孤島で、

 時に中東の砂漠で、

 時に地底の大空洞で…


 人間でなくなった悲しみと怒りをバネにして、長く苦しい戦いを繰り返したX-サイボーグ達の尽力により、1975年、ついにシュバルツガイストは壊滅し、X-サイボーグ達の長い戦いの日々は終わりを告げた。


 しかし、戦いを終えたX-サイボーグ達を出迎えたのは、『勝利の凱歌』や『拍手喝采』などではなく、『非難の嵐』と『疑いの眼差し』だった。


 敵であるシュバルツガイスト-米ソ以上の科学技術と世界規模の影響力を有した組織-が居なくなった事で、世界中の人々がX-サイボーグ達-米ソ以上の科学技術と世界規模の影響力を有した組織をたった9人で壊滅に追い込み、一人一人が一国の軍隊にも匹敵する戦闘力を有した民間人の集団-を危険視し、『巨悪が居なくなった事で、今度は自分たちにその人を超えた力を向けるのではないか?』と疑い始めたのだ。


 もちろん、X-サイボーグ達もただ手をこまねいていた訳ではない。


 1976年、国連本部において全世界同時生中継による正式な会見を行い、『自分たちは世界の敵などではなく、平和の守り手である』と世界中の人々に訴えた。


 しかし、それでも人々からの疑いは晴れる事はなく、1977年、国連の全加盟国の決定によりX-サイボーグは『チームの解散』と『治安維持活動並びに軍事的干渉の禁止』を言い渡された。

『違反した場合は、テロリストとして扱う』という一文を添えて。


 事実上の引退勧告に対して、X-サイボーグ達はバラバラに離散することとなった。

 勧告を受け入れて一般人として暮らし始めた者。

 国連の管理下に入る事と引き換えに活動を認可された者。

 PTSDを発症し、治療施設に入った者。

 引退も国連の管理下に入る事も拒否し非合法活動を開始した者…。


 かくして、世界の危機を救ってきたヒーロー達は、守ってきた筈の人々によって表舞台から消え去ることとなったのだった…。





 それから時は流れ…

『シュバルツガイストの陰謀』も、『X-サイボーグの活躍』も、懐かしい昔話となって久しい21世紀。

 世界は歪で微妙なバランスの上で、『表向きの平和』を保っていた…。



 ☆☆☆



 深夜の大都会。

 天まで届きそうな摩天楼の立ち並ぶ街中。


 月明かりよりもまぶしいネオンの明かりを避けながら、彼は…X-サイボーグの一人・X-4th/アルベルト・エミヤはビルの屋上から屋上へと飛び移りながら移動していた。


 仲間達が次々に表舞台から姿を消す中でX-4thは引退も国連のエージェントになることも拒み、たった一人で『悪』との戦いを続けていた。


 マフィアやギャング、麻薬の密売人、銀行強盗やヤミ金融…『悪』とは言っても、シュバルツガイストのような巨悪とは比べるのもおこがましい程の小物ばかりだったが、それでも『悪』であることには変わらない。


 彼にとって、シュバルツガイストもマフィアも『悪』という意味で同じ存在だった。

 違うのはただ使用する武器の威力のみ。


改造人間(サイボーグ)となった自分には戦いしかない』。


 そう思ったからこそ、彼は仲間達が表舞台から去る中でたった一人で孤独な戦いを続けていた。


 連戦に次ぐ連戦で、かつては明るいオレンジ色だった戦闘服は所々薄汚れ、首に巻かれた地面まで届く程長く真っ青だったマフラーは見る影もなくボロボロになり、背中までの長さに短くなってしまった。


 それでも彼は戦い続けた。


 例えたった一人になろうとも、守ってきた人々から嫌われようと、自分には悪との戦いしか道は無いのだと思ったから…。


 その夜、彼は自分でも驚く程の勢いである場所に向かっていた。

 場所はとあるマンションの一室。


 その部屋の住人が窓から突き落とされて殺されたのだという。


 最初に聞いた時、X-4thもよくある殺人事件だと思っていた。

 だが、その被害者の名前は彼にとって家族よりも馴染みがあるものだった。


 シャーリー・リンク。


 それはX-サイボーグの切り込み隊長『X-2nd』の本名だった。


 同姓同名の別人かもしれないと考えつつも、彼は殺人現場へと足早に急いだ。

 自分の予感が外れていることを信じて。


 息切れ一つせずにビルの屋上を飛び回った末に、X-4thは件の殺人現場…正確には現場の部屋があるマンションの目の前にあるビルの屋上に到着した。


 X-4thはそのまま走りの勢いを殺さずにジャンプし、空中でくるくると前回転しながらガラスが粉々に割れた窓のある一室へと飛び込み、まるで忍者のように音もなく着地する。


 浅黒く日焼けした顔を挙げると、獲物を狙う猛禽類のように鋭い目で荒らされた部屋を見回す。

 部屋に入り込んだ月明かりに照らされて、彼のオールバックにまとめられた白い髪が宝石のように輝いていた。


 X-4thはズボンのポケットからペンライトを取り出すと、薄暗い部屋を照らしだした。

 警察が捜査した後ということもあり、リビングのめぼしい場所からはは証拠品らしき物は失くなっていた。


 X-4thは寝室へと移動する。


 高級そうな調度品で飾られたリビングに対して、寝室にはシングルベッドとベッドテーブルの他には衣装箪笥しか家具が置かれておらず、シンプルな内装をしていた。


 さっそく衣装箪笥を調べると、X-4thはある違和感を感じた。


 その衣装箪笥の外側の横幅と内側の横幅は一致しなかった。


 試しに、衣装箪笥の中にかかっていたハンガーの一つを針金に戻して物差しの代わりにしてみると…彼の思った通り、明らかにその衣装箪笥の内側は外観よりも10cmは狭まっていた。


 X-4thは一旦衣装箪笥の中に入れられていた衣服を全て出してから改めて衣装箪笥の内側を調べると、右上の隅にまるで隠れるように小さなボタンのようなものが配置されていた。


 試しにそのボタンを押してみると…衣装箪笥の壁がスライドし、X-4thが着用しているものと同じオレンジ色の改造人間(サイボーグ)用戦闘服が姿を現した。


「!」


 自分の予感が的中してしまい、X-4thは呆然となる。


 衣装箪笥の二重底の裏には、オレンジ色の改造人間(サイボーグ)用戦闘服の他、青いマフラーにX-サイボーグの共通装備であるレーザービームガンのホルスター、X-2ndの専用装備だった狙撃用ライフル、そして額縁に入れられたX-4thやX-2nd自身も含めたX-サイボーグの仲間達全員が写った写真等が隠されていた。


「…」

 それらを板張りの床に広げると、X-4thの目には静かな怒りの炎が宿っていたのだった…。

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