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第九話 魔王様、魔王城の侵入者を面倒臭がる

戦闘シーンあり。

グロくはないと思うんですが、苦手な人はご注意下さい。

 累々と横たわるのは、様々な姿を持つものたちだ。

 大型の猫のような、しかし猫にはあり得ない牙と頭に一つの角を持ったもの。少し歪な人の骨が鎧を着こんだもの。鎧だけというもの。包帯だらけのもの。トカゲと人間のあいの子のようなもの。

 魔族たちが、うめき声を上げてごろごろと転がっていた。


 その中に、二つだけ立っている影があった。

 一人は女だ。


「ふん。歯ごたえがないわね」


 女が細く高いヒールで側のトカゲを踏みつけた。空気の抜けるようなうめき声が上がる。


 ピカッ。ゴロゴロゴロ……ドカァァアン。


 魔王城の窓から蒼白い閃光が城内を照らす。閃光は女と、もう一つの影を一瞬だけ、鮮明に浮かばせた。

 光が消えてから、間髪を置かずに雷鳴が辺りを揺るがす。


 女はほぼ、人間と同じ姿かたちをしていた。

 違うのは背中の黒い翼と、尻から生えている尻尾である。どちらも黒く、体毛も鱗もない。


 女の黒いドレスの胸元は大きく開いていて、溢れそうなほどの豊満な胸を包んでいる。両側には大胆なスリットが入り、白い太ももが覗いていた。

 豊かな黒の巻き毛、猫のように吊り上がった瞳。赤い唇が艶めかしい美女である。


「仕方ないでしょ~。こいつら三下ばっかりだし」


 もう一つの影である男が、軽い調子の言葉を発する。


 切れ長の垂れ目で銀の長髪を緩やかに束ねている。優し気で整った顔立ちをしているが、浮かべている笑みは少し軽薄そうだった。


「おい、そろそろ代われよ」


 大型の猫のような男が、ヒールで踏まれているトカゲにぼそっとささやいた。


「待て。もう少しぐりぐりされてぇんだよ」


 ひそひそとトカゲが返す。細いヒールをめり込ませたトカゲの頬は、なぜかほんのりと赤らんでいた。


「もう少しじゃねぇよ、後がつかえてんだよ」


 もぞもぞと床に転がるものたちが動いた。


「ああ、あの高慢な態度がたまんねぇ」

「俺も踏まれたい」

「よし、俺もう一回かかっていって殴ってもらうわ」

「ずりぃよ、俺も」


 床に転がっていたものたちが、次々と体を起こし始めた。

 女の猫のような目が冷たく細められる。


 冷たく蔑むようなその目に、女を囲むものたちがぞくぞくと身を震えさせた。歓喜に。


「あの目最高!」

「罵ってぇっ」


 雄叫びを上げて、我先にと女へ飛びかかる。


「はいは~い。そこまでね~」


 が、女に群がったものどもが、まとめて吹き飛んだ。女の側に控えていた優男の仕業だ。


「ぐあぁぁあっ!」

「なんで男に~っ」


 吹き飛ばされて空中を舞っていたものたちが、どうでもいい叫び声と共に、どさどさと落ちた。


「本当にどうしようもないクソ雑魚どもだこと。やっぱり私の相手になるのはサナトしかいないわね」


 ふんと鼻を鳴らした女がヒールで床を踏みしめた。カツンと高い音が鳴り響き、スリットの入った黒いドレスをなびかせて歩き始めた。男も、女の後を追う。


「クソ雑魚呼びもイイ……」


 彼らの後に残されたのは、床に転がった魔族たちだけだった。



****



 カッ。ガラガラ、ピシャアアァン。


 稲妻が刹那の間だけ真っ白に染め、一呼吸を置いて響く轟音が瘴気に満ちた空気を震わせる。


「お帰りなさいませ、魔王様」


 魔王城の自室。タオルに仕込まれた転移魔法で帰ってきたサナトを、待ち構えるようにオセが出迎えた。

 そんなオセに、サナトの片眉が跳ね上がった。この側近がわざわざ出迎えたということは、何かあるのだろう。


「お帰りになった早々ですが、魔王様。侵入者にございます」


 サナトの予想通りにオセが切り出した。


「侵入者くらい、勝手に誰かが相手をするであろうが」


 かぶっていた農帽を取り、つなぎも脱いで魔王の黒い服に袖を通す。


 魔王城はそもそも、侵入者を受け入れるような作りになっている。攻め込まれないような造りの人間の城とは違うのだ。

 

 基本的に魔族たちは、統率なんてものは皆無である。好きな時に好きな場所にいるのが魔族だ。

 しかし魔族たちは好戦的なものが多い。大抵のものは侵入者を心待ちにしている。

 そのため、特に持ち場など取り決めていないが、勝手に自分の場所に陣取って魔王を倒しに来る人間を待っているのだ。

 だから侵入者など日常茶飯事だった。


 ただ、いつ来るか分からない人間をずっと待っているほど堪え性のないのもまた、魔族である。

 手持無沙汰になると適当に喧嘩を始めたり、人間界に遊びに行ったりしてしまう。そういう時は、侵入者があっさりと魔王の間にやってくることになるのだ。

 どうせ今回もそれなのだろう。サナトはハンガーに掛けていたマントを羽織り、金具をかちりとはめた。


 しかし、それにしては騒がしい。


 魔王の間の外では、魔界の風物詩である雷の音と気合の入った声や悲鳴、何かがぶつかる音などが聞こえてくる。


 勇者などと戦うこともあるため、魔王の間は広く頑丈だ。サナトがいるのはその魔王の間の最奥。来たものを見下ろせるよう、高くしつらえられた壇上である。

 そこには禍々しい見た目の王座、王座の後ろには重厚な赤のカーテンがかかっていた。この裏には本棚とクローゼットがあり、カーテンは生活感の目隠しも兼ねていた。ちなみに、枯れたダイコの植木鉢やジョウロも大事にここへ仕舞っている。

 魔王の間は、サナトの自室兼、謁見の間なのだ。


「恐れながら魔王様。マーヤー様がおいでなのです」

「またか」


 マーヤー、という名前を聞いた途端、サナトはげんなりとした。なるほど。オセがサナトを待っていた理由がはっきりと分かった。

 実のところ、オセは強い。サナトが留守にしていても、オセが勇者をあしらえてしまう程。わざわざこうして侵入者の報告などせず、誰かが侵入者と戦うか、他の魔族が手に負えなくともオセが出ればいいのだ。


 しかし、あのマーヤーが来たのなら話は別である。なにせ彼女はサナトでないと駄目なのだ。


 一気に気分が下降するのを感じながら、サナトはオセが畳んだつなぎと農帽をクローゼットに仕舞い、カーテンを閉めた。

 そこへ、計ったかのように魔王の間の扉が開く。


「久しぶりね、サナト」


 カツンとヒールを響かせて、マーヤーが魔王の間へ入ってきた。後ろには側近の男が付き従っている。


「何を言う。この間会ったばかりだろう」


 不機嫌を隠そうともせずにサナトは唸った。オセが一礼をして、後ろに下がる。


「何の用だ」

「ふん。この私が出向いたのよ。用なんて決まっているでしょう」


 マーヤーが片手で黒い巻き毛を払う。すると風もないのにドレスの裾がはためいた。彼女の瘴気と魔力が渦となって空気を動かしているのだ。


 カツン。


 またヒールが高い音を立てた。同時に、彼女の姿がかき消える。


「お前を倒しに来たのよ!」


 次の瞬間、サナトの左側へマーラーの白い足が現れた。右足を軸に回し蹴りを放ってきたのだ。黒いドレスがめくれて、白くむっちりとした太ももと、美しい曲線を描く足がサナトの眼前に迫る。


「ちっ」


 サナトは無造作に左手を上げた。なんなく細い足首を掴む。

 が。


 シャァン。


 澄んだ音色を立ててマーヤーが砕け散った。黒い小さな破片となって辺り一面に飛び散る。そのまま空中に四散せず、ぴたりと止まった。

 一度止まった破片が一斉にサナトめがけて飛んできた。無数の鋭く尖った先端が光を放つ。


 一つ一つがナイフのようだ。あれに串刺しにされたらハリネズミになるだろう。

 回避するならマントで払えばいい。

 が、サナトの手がマントに伸びるよりも破片が刺さる方が速かった。


 ザシュザシュザシュ。


 無数の破片がサナトの胸、腹、喉、眉間、両手両足へと突き刺さる。貫通した先端がサナトの背面から顔を出した。


「無様ね、サナト」


 マーヤーが今度はサナトの背後に立っていた。後ろから両腕をサナトの首に絡める。


「いかにお前でも」


 マーヤーの爪がサナトの首に食い込んだ。すでに喉を貫いている破片と共に皮膚を破り肉を裂き、骨まで達する。


「これで終わりよ」


 貫いただけだけでは足らないと、マーヤーがさらに力を込めた。首が体から完全に分断される。

 いかな魔王とて致命傷である。


「あーっははははっ。やったわ。ついにサナトを倒してやったわ」


 魔王城に高笑いが響いた。

すいません!!予約投稿間違えたーーーっ!!

書きかけでおかしかったと思います。改稿しました!申し訳ありません。


ブクマや評価、誤字報告など、本当にありがとうございます。


次話は水曜日になります。



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