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九 伝助の報告

 それから数日後のある日のこと。信長は城下のにぎわいを見おろしながら伝助の報告を聞いていた。このたびのはだか踊りの一件について取り調べを命じておいたのである。

「やはり御園町あたりで大きな葉っぱが何枚も見つかっております。前回と同じくキツネの吉五郎のしわざだと町衆はうわさいたしております」

「このたびも紹巴じょうはがあらわれおったが、またも、ゆくえ知れずか」

「なにやら派手なかぶりものをした男を、村はずれで目た者がおります。杉の木立にまぎれて、それっきりとか」

「よっぽど化けやすいとみえるな、紹巴は」

「それよりも町衆は、殿がまたはだか踊りをなされたことに心を動かされ、たいそうよろこんでおります。人寄せになって商売繁盛この上ないそうで」

「そうか。けがの功名であるな。わしも、町が栄えるのを願うておる。こうなるとキツネめ、どうしてくれようかのう。わしをコケにしおったが、町を活気づかせてくれてもおる」

「しかし町衆も、殿がキツネに化かされておると知っておりますゆえ、このまま、のさばらせておくのもいかがかと存じまする」

「して、その吉五郎とかいうキツネ、そもそもなにものであるか」

「はあ。なんでも、もう何百年もこの小牧山をすみかにしてきたキツネだそうで、親分キツネを吉五郎と呼んでおるようです」

「ほう。この小牧山におったのなら、わしらがやって来たことで追い出されたわけか。それをうらみに思って化かしおるのだな」

「しょせんキツネゆえ、おおかた、そんなところかと」

「それで、キツネどもの仲間は何匹くらいおるのだ」

「聞くところによると、ざっと三十匹とか」

「うーむ、そんなもんか」

「小牧山だけなら、そのくらいだそうで。しかし、それぞれがなかなかのキツネ。化けるのはもとより、人を化かしたり、馬にも乗るそうでございます」

「なにい、馬に! キツネのぶんざいで」

「これは、東の山あいの村から、桃を売りに来た者が申しておったのですが、先ごろ行商人が、馬をつらねて桃を買いにまいったそうにございます。かごを馬の左右にふり分け、そこへ桃をどっさりと入れて帰ったということでございました」

「べつにおかしくはないではないか。行商人が桃を買っていっただけであろう」

「それが、あとでお金の袋を見ると、大きな葉っぱがまぎれこんでおったということでございます。行商人に売った金額だけ足りなかったそうで」

「なに、葉っぱが。うーむ、さてはあのときの桃は」

「城下にもあらわれおるようにございます。馬をひいて、かご細工やら瀬戸物を、どっさりと買いこんでいったようで。やはりお金のなかに葉っぱが」

「かごや茶碗など、キツネがなににするのであろう」

「おそらく、また人を化かすのに用いるのでございましょう」

「キツネどものすみかは、やはり二宮山のあたりであろうな。あそこから馬に乗って城下まで来おるのだ」

 信長はもういちど城下を見おろした。あらためて見てみると、町が大きくなっているような気がした。

「五郎左衛門、町を広げたか」

 伝助の背後にひかえている武将のひとり、丹羽長秀に信長はきいた。

「はい。楽市・楽座令を布いたうえ、税を下げたこともあって、店を出したい商人がふえてございます。近在はもとより東国や京などからも参りますゆえ、新しく町をつけ足しておりまする」

「それに、殿」とほかの武将が口をはさんだ。

「はだか踊りがたいへんな評判で、小牧の町の名が遠国にまで知れわたったようでございますな」

「それもキツネのおかげというわけか」

 きれいにととのった町は通りに人があふれ、いっそうのにぎわいを見せていた。町はずれには芝居小屋もかかっている。

 町のにぎわいを見て信長は口元をゆるめた。

「うーむ、しょうがないのう。まあ、しばらくようすを見るとするか。たかがキツネだ。われらがムキになることもあるまい。それより、犬山の動きはどうなっておる。われらに味方する者らは何人になった」

 話はいくさのことになり、キツネのことは今回はおかまいなしとなった。

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