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八 またまた、はだか踊り

 小牧城下で最初にその行列を見たのは、またも油屋の庄八である。庄八は、おそい昼飯をすませたところで、風にさそわれて通りに出てきたところだった。

「うん? ありゃ、なんだ」

 日は南の空のまんなかにかかったばかり。白日の下、ふってわいたように、さわがしい一団がやってくる。

 だんだん近づくのを見ると、はだかの男たちが桃を持ち、手足をふりまわしていた。

「あれ。またか。踊っとらっせるなあ。やっぱりまた、みんな、はだかんぼだがや。ということは、先頭の、いっとうやかましいのは」

 信長である。

 このまえと同じくすっぽんぽんのぽんで、しかも、こんどは昼日中である。手足のリズムに合わせるように、股ぐらにぶらさがったものが、振り子のようにさかんに揺れている。それも太陽の光をあびて堂々と。

「あちゃー、タヌキでもあるまいに。しょうがにゃあなあ」

 庄八はもうなにも考えずに、さっさと着ているものを脱ぎにかかった。さすがにお日さまの下、すこし気恥ずかしくもあったが脱いでしまえばふっきれた。庄八はすっぽんぽんのぽんになって、また信長たちの一団に入った。

「あれ、はだか踊りがはじまっとるぞ」

「お、待っとったがや」

「やろまい、やろまい。みんなで踊ろみゃあ」

 おなじみの松さや菊さ、薬屋の熊公などは、お日さまの下だろうとかまわず、われ先にはだかになった。町衆はまたしても女も子どもも老人も、すっぽんぽんぽんになって信長や家来衆たちに桃をもらい、踊りにどんどん加わった。

 往来は、前回の夕刻とちがい、買い物客や行商人など城下以外の者たちでにぎわっていた。そこをはだか踊りがねり歩きだしたので、みんなびっくり。

「これがはだか踊りかあ。話には聞いとったけど、ほおお、えりゃあもんだて」

 見てあきれる者、飛び入りで参加する者、おもしろがってはやしたてる者、さわぎに乗じて往来に店をひらく者など、町をあげての大さわぎとなった。

 その気配は、小牧に通じる街道をはるばるやって来る旅人たちにも届いた。旅人たちは常々、はるかに小牧山をながめてはこう言うのが常だった。

「あれが信長どのの城か」

 しかしきょうは、城の方角に目を向けたとたん、城下のあたりからただならぬ気配が感じられた。さわぐ声と熱気がいっしょになって町から立ちのぼっていた。小牧に近づくとともに声がしだいに大きくなってくる。どんな城下町でも、ついぞ聞いたことのない熱いものを感じさせる声だった。

「なんだろう」と東から来た僧侶が言った。

「なんでっしゃろ」と、これは京から下ってきた旅役者。

「ちょっと行ってみようぜ」と仲間をさそうのは、東のほうからの流れ者。

「見に行こや、ありまへんか」と、これは堺から来た商人だった。

 東から西からやって来た旅人は、それぞれ、ちょっと遠まわりをして小牧へと足をむけた。小牧の城下町に足を踏み入れるや、はだか踊りが目に飛び込んできた。

 男も女も、子どもも年寄りも、みなすっぽんぽんのぽんになって踊っている。桃をほおばる合間にかけ声を発したり、やかましく叫ぶ者もいる。

「なんだ、これは!」

「なんでおます」

「なんやねん」

 見ている旅人たちも、つい、いっしょになってさわぎたくなった。実際、着物をぬいで踊りだす者もいた。

「これは、すげえ!」

「すごおますな」

「どえらいこっちゃ」

 小牧の城下町のさわぎは、彼ら旅人の口をとおして西へ東へと伝えられた。

 そのうわさを聞いて、ひと旗あげようとする者らが、小牧にぞくぞくと集まるようになった。にぎわいは人を呼び、さらに小牧はにぎわうようになった。

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