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四 はだか踊り

 小牧城下で最初にその行列を見たのは、油屋の庄八である。庄八は夕飯をすませたところで、一服するために表に出てきたところだった。

「うん? ありゃ、なんだ」

 西の空には、日がほんのりと暮れ残っていたが、その明るみからわいてきたように、さわがしい一団がやってくる。だんだん近づいてくるのを見ると、男たちがめちゃくちゃに手足をふりまわしている。

「ああ、踊っとるんか。どっかで祭りでもあったんかしらん。おやあ。はははは。みんな、はだかんぼだがや」

 庄八は口をあけて笑いかけて、あ、と息をのんだ。

「ありゃ信長さまじゃにゃあか」

 ど、ど、ど、と足音が、すさまじい勢いでせまってきた。庄八はとりあえず、道のわきにひかえた。

「おうい、そこの者。ひかえんでもよい。踊れ踊れ。いっしょに踊れ」

 一団の者たちが庄八に呼びかける。信長配下の武将たちだ。武将たちのあられもないすがたに、庄八はどうしたものかと考えた。

 見なかったことにしよう。庄八はあらぬほうを見てとぼけようとしたが、信長が大きな声で呼びかけてきた。

「そこの油屋の者、なにをいたしておる。いっしょに踊れ。おうい、みなも出てまいれ。踊れ踊れ。犬山は上首尾じゃ。踊れ。みなで踊り明かそうぞ」

 なにごとかと、まだ戸をあけたままの家々から、男も女もとび出てきた。みな、武将たちがはだかなのでびっくりし、目はまん丸、口はぽかん。ふだんから、信長はとっぴなことをするので有名だったが、まさか、はだか踊りとは。

 庄八は、けさ見た信長軍の、勇ましいすがたを思い出した。しかし今や、なんというありさま。庄八は見ているのが耐えられなくなった。そして叫んだ。

「おう、みんな、踊ろまい!」

 庄八は決心して着物をぜんぶぬぎ、もちろん下ばきも取って、すっぽんぽんのぽんになった。そして、武将たちのあいだに入っていった。それを見て、表に出てきた町衆もみな、男も女も着物をぬいで、踊りの列に加わっていった。町衆のだれもがあまりの光景に頭が混乱し、庄八の行動についつられてしまったのだ。

 はだか踊りの一団は、こうして町の衆をひきこみながら、油屋町から京町へ、西から東へと町を横断し、さらに東から西へ、新町、鍛冶屋町と、南下しながら町じゅうをねり歩いていった。

 御園町から善光寺にさしかかったころには、もう町衆がぜんぶ表に出てきていた。うかれて踊る者、まわりではやしたてる者。にぎやかなこと、このうえなかった。

 庄八は踊りのまんなかにいて、ヘトヘトになっていた。はじめこそ、はずかしさでいっぱいだったが、しだいに楽しくなってきた。ふわふわ、ふわふわと体が宙にうかんでいるように軽くなった。

「はだかで踊るのもけっこうええもんだがや。やってみるもんだて」

 それは町衆のだれもが感じたことだった。

 いっぽうで、信長はじめ武将や足軽たちは、御園町あたりでふっとわれに返っていた。

「わ、なんだ、これは。みんな、はだかの、すっぽんぽんのぽんではないか」

「殿、お待ちを。町衆に命じてなんぞお召し物を」

「ふふ。まあ、よいわ。なんだかわからんが、町衆がよろこんでおる。このまま踊りつづけようではないか」

 信長は前にもまして、いっそう声をはりあげて踊りまくった。家来の武将たちも、いきおいにまかせて踊るほかなく、やけっぱちで手足をふりまわし、調子外れの節まわしで声を荒げて歌った。

 御園町あたりで庄八たち町衆は、武将たちの頭からひらひら舞い落ちたものがあったのを見のがさなかった。それは、青々とした大きな葉っぱだった。葉っぱが武将たちの頭に一枚ずつのっていたのである。

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