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忍術使い

 不思議だった。

 小都香はさっき見たときと髪型を変えていた。

 髪型を変えた意味もわからないし、変える速度も速すぎた。忍術でも使ったのだろうか?

 小都香の形の良い頭の上にはお団子が左右に一つずつ結ばれていた。


 そのせいか彼女の雰囲気も少し変わったように感じた。より可愛らしさが増したような気がする。

 茶髪のショートヘアにお団子が二つ。

 なんだかチャイナドレスが似合いそうな髪型だった。

 いや、和服にこの髪型だからかえって可愛く見えるのか?

 とにかく良く似合っていた。


華やかな彼女を見て、さっきの騒動についての話はもうこれでお終いにしようと決めた。

「じゃあ、次からはもうやめてくれよ」

「えー、『靴男』くんとの戦闘はこれからは身千以が独占しちゃうの?」

小都香はつまらなさそうな様子でむくれる。


「小都香、うるさい!」

 小都香の頭に身千以の両腕が迫った。

「えっ、なに?」

 小都香は慌てた様子で身千以に顔を向ける。

身千以は小都香の頭上の両のお団子をわしゃっと掴んだ。


「あーっ」

 小都香が悲鳴を上げる。

「あの、お二人ともケンカに発展させるなよ」

 一応二人に釘を刺しておく。

 上位の『能力者』である二人が争ったらまずいだろうと危惧していた。


「身千以のバカ!」

 小都香のお団子は二つともほどけてしまった。

 が、それはそれで可愛い。

 でもお団子をほどくなんて身千以も酷いな。


「あなたが反省しないのが悪いのよ!」

 まるで母親のように身千以は小都香を叱りつけていた。

 しかし小都香はまだまだ元気だ。

 身千以の髪から竹の(かんざし)を奪い自分の髪につける。

 小都香は口も良く回る。


「そんなー。身千以だってこの人を無理やり連れてきたみたいなのにー。反省してないじゃん」

「それは別にいいでしょ、悪いとはちゃんと思っているわよ」


 小都香は身千以に対してケンカ腰だが、刀を抜いて本気で怒るようなことはなかった。

 どうやら二人はじゃれ合っているだけのようだ。

 しかしいきなり身千以が動きを止めた。

 そして真面目な口調で告げる。


「ストップ。ところで小都香」

「なーに?」

「実は私忙しいの。それでもしよかったら彼のことをバトンタッチさせてもらえないかしら? 村長のところに案内してもらうだけで良いのだけど」

「えっ、私が?」

「そうよ。どうかしら?」

「そうね。身千以が私のほどけたお団子をまた結び直してくれるというのならいいわよ」

 小都香は胸を張り、くいっと頭を上に持ちあげる。


「はいはい。もー、しょうがないわね」

 身千以は小都香の背後に回った。

 そして奪われた櫛を小都香の髪から取り上げ、手慣れた手つきでお団子を結い始める。


 彼女たちが交わす会話によると、どうやらお団子というのは色々な結び方があり、今回は一度三つ編みに髪をまとめてからそれを丸めて結ぶようだ。

 士鏡はそれをぼんやりと眺めていた。

 しかし身千以が士鏡のことを(にら)んできた。


「ちょっと志鏡! 乙女の身繕(みづくろ)いをジロジロ見ないでくれる」

「あ、はい」

 怒られた。着替えをのぞいたわけでもないのに、と思いながらも素直に顔を背ける。

 吸血鬼状態(ヴァンパイア・モード)になると女性を襲ってしまう分、せめて人間状態(ヒューマン・モード)のときの自分は女性に嫌われないように努めようと士鏡は心掛けていた。


 のどかな田舎の異世界の光景を見ながら待つ。

 30秒ほど経った。

「終わったわ」

 声に反応して振り返ると、身千以が満足そうに手をパンパンと払っていた。

「ありがとう~」

 左右の頭上に可愛いお団子を二つ装備した小都香は身千以に軽くハグする。

 身千以の胸に顔をうずめたあと、小都香はクルリと士鏡の方に顔を向けた。


 なんだ? と士鏡は身構える。

 小都香は悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「靴男の士鏡くん。【忍術】は手で印を結ぶだけじゃないんだよ」

「どういうことだ」

「私、可愛くなったでしょ」

「可愛くなる忍術でも使ったのか?」

「私、あなたのことが気に入ったわ。このお団子ヘアを見て私に惚れなかった男の子はゼロ人よ」

「髪型を変えるのが【忍術】だったのか」

「そうよ」

 隣で身千以がくすりと笑う。


「大嘘だけどね」

「ちょっと身千以! ばらさないでよ」

 小都香が可愛らしく立腹する。

 身千以はおかしそうに話し続ける。

「この子、オシャレをするのが苦手で髪型を変えることが最高のオシャレだと思っているのよ。士鏡にオシャレになった自分を見せたかったみたいね」


 小都香はクナイの柄で身千以をぽかぽか叩く。

「身千以だってオシャレ苦手じゃない」

「あっ、こら。コンプレックスをえぐるな!」

「お返しよ。これでお相子」

「相子って何? じゃんけんじゃないんだから」

「じゃあじゃんけんする?」

「いいわよ」


 意味不明なケンカをしている二人を見ながら、士鏡は意外に感じていた。オシャレが苦手? それは嘘だろ? お前たちみたいに綺麗に着物を着こなしている奴はいないぞ? めっちゃ可愛い。

「二人とも、俺が日本で見た誰よりもお洒落に見えるぞ。小都香のお団子ヘアもとても可愛い」

「うっ」

 小都香がみるもるうちに赤面してゆく。

「士鏡くんも中々の忍術使いのようね」


 身千以の表情も顔に紅葉を散らしたようだ。

「私がオシャレに見えているなんて」

 身千以は俯いて呟く。

「小都香の言う通り、この人は忍術使いだわ。ただの靴男じゃない。惚れちゃいそう」

「私たち気を付けないとね」

「ええ」

 

 おいおい、ちょっと褒めただけで顔を真っ赤にしてそんなに照れないでくれよ。

 と、士鏡は照れている美少女二人を直視することができず彼女たちに背中を見せていた。

 照れている彼女たちの姿を見ていると自分まで恥ずかしくなる。


 慣れなければけない。と思う。

 このような【規格外】の美少女たちを相手にすると、いくら自分が吸血鬼といえどもこの童貞みたいな照れ症が治るまであと半日ほどの慣れが必要だ。

 やれやれ。と士鏡は一人で首を振った。


 トントン、小都香がと士鏡の背中を叩いてきた。

「じゃあ私が村長宅まで案内してあげるわ、ついてきてね、志鏡くん!」

「わかった」

 小都香をみると、まだ顔にほんのりと赤みが残っているがほぼ平静を取り戻していた。さすが忍者だと感心する。

「じゃあ、私はこれで」

 そういって身千以もくノ一らしく綺麗な【無表情】をつくり、一人で村の入り口の門の方へすたすたと足早に歩いて行った。


 去って行く身千以の後ろ姿を目で追っていると。

「さあ、私たちも行こう!」

 と、小都香が服の袖を引っ張る。

「ああ」

 言われるままに小都香と並んで門の方へと歩き出した。

 それほど歩くこともなく、「到着!」と、小都香が元気に告げた。

 

 門の周辺は木製の背の低い柵で囲まれていた

 門は丸太を組み合わせて作られた戦国時代の小さな関所のような造形だった。

千恵(ちえ)さん『靴男』を連れてきたよ。中に入れて!」

 小都香が30台前半ぐらいの女性門番に声を掛ける。


 髪の長いその女性門番はむすっとした表情で士鏡のことを眺める。

「あんたが『靴男』かい。ちょっと私と手合わせ願おうじゃないか?」

(ねえ)さん、そりゃだめですぜ」

 もう一人の二十代後半ぐらいの男性門番が止めに入る。

「この坊主、『靴男』なんでしょ? きっと村のために貢献してくれますぜ。それなのに今ここで(つぶ)してどうするんすか」

「フン。入りな」

 女性門番は舌打ちし、片手で乱暴につっかえ棒の錠を外した。

 そして勢いよく足で蹴って扉を開く。


 中に入ったあと、歩きながら士鏡は一人で呟いた。

「いかつい門番だったな」

 それに反応して小都香が小柄な肩を少し震わせた。笑っているようだ。

「ふふっ、千恵さんはこの村でも指折りの『能力者』だからね。きっと『靴男』と手合わせがしてみたかったんだよ。私もその気持ちわかるな」

「『靴男』ってそんなに珍しいのか?」


 士鏡の問いかけに小都香はサクサクと聞き取りやすい声で答える。

「そうね。身千以がたった二か月で見つけたのが奇跡だと思うぐらい『靴男』『靴娘』は珍しいわね?」

「んっ? 『靴娘』? そんな人もいるのか」

「うん。たしか西の方に『制服姿の靴娘』が築いた王国があるはず」

「それホントなの?」

「うん。なんかその人は能力が強すぎて次々と敵を倒していく内に自分で王国をつくっちゃったみたい。その靴娘、圧倒的な強さと美少女ぶりで有名よ」

「へえー」

 そんな人物もいるのかと関心する。


 小都香は士鏡の横顔をちろっと見た後、歩きながら自然に会話を続ける。

「ところで草履男と下駄娘の仲が悪いという話は身千以に聞いた? 生まれつき弱いやつが多い草履男と、強い色で生まれてきやすい下駄娘は仲が悪いって」

「ああ、聞いたよ」

 そういえば道中、身千以はそんな話もしていたような気がする。


「じゃあ話が早いわね。あのね、村の人たちを見てみるとわかると思うけど、草履男たちも二十歳を超えたあたりからは自分の方が女より『弱い』という現実を受け入れられるようになるみたいなの」

「残酷な現実だからな。自分の弱さを受け入れるには成人するまで時間が掛かるってことか」

「うん」

 小都香は頷く。


「だから、まだ若い十代の草履男たちにはそれができなくて、何かと私たちに反発してくるのよね」

「なるほど、だから仲が悪いのか」

「ええ。私たちが反撃してちょっとやりすぎってくらい彼らをボコボコにしちゃうっていうのもあるんだけどね」

「・・・・・・」


「でも、草履男にも例外はいるわ。草履男が強く生まれてくる確率は低いというだけでゼロではないからね」

「確率論からいったらそうなるのか」

「うん。ほら、私の彼氏なんてレベル『藍』よ。上から二番目」


 そう言って小都香は前方を指さした。

 指の示す先には真面目そうな目つきの鋭い青年が立っていた。

「・・・・・・」

 小都香、彼氏いたのか。

 こんなの異世界じゃないだろ!

 クッソ!


「まっ、彼氏というのは『設定』だけどね。詳しい事情は色々あって言えないの」

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