ふたつのみち
人生の帰り道。あなたは同じ年、同じ月の末に産まれた。五〇を過ぎるともう人生は仕上げの道程に入るのだ。道が向こうへ続いている。
あの時あなたがくれた言葉をはぐらかさなければ今でも同じ部屋で笑って過ごせていたのだろうか?
「たった十五年、それだけで済んだ」
あの日あなたはそうつぶやき微笑んだ。だけどあの日からまた、十五の年月が流れてしまった。二つの精神の川。一つに合わさる奇跡、溶け合うような、他の何物にも代え難い一瞬は、永遠の景色を写していた。体と体。二つの、とるに足らないくらいの器を超すほどの衝撃を味わって、あまりに大きな幸福を、知ったがゆえの、境界線を越しすぎてしまったがゆえの罰を、受けているのだろうか。
郊外の、川沿いの道を歩いていく、川の向こうの黄昏まで遮るもののない景色、空にはふいにあなたの笑顔が浮かんでいて…………
「久しぶりね、もう50歳、互いに年をとってしまったわ」
「君は……全然変わらないね、まるで時を止めたように」
「何を言ってるのよ。私も、あなたも、もう人生を折り返した所じゃないの」
「そう、僕もそう思ってたところさ。やっと逢えた、実は、ずっと逢いたかったんだ」
「そう。私も会いたかった、かな?」
「ありがとう。実は、伝えたかったことがあるんだ」
「……そう」
そう言ってあなたはしばらく黙ってしまった。物憂げな表情で少しだけそっぽを向いてしまい、不安な気持ちが押し寄せていた。
「どのことかしら、話してみてよ」
あなたは結局そう言ってくれたんだ。
「あの時、とても嬉しかったよ、僕はいつしか君に恋していたんだ。ずっと待たせてごめん、そう思ってた。だけど、君の言葉にうまく返すことができなかった。そればかりか……」
「何を言ってるのよ」
あなたは強く言い返す。
「言葉なんて必要ないわ。あの時の感情、あなたと私の、二人の感情ははっきりと口に出さなくても手に取るようにわかるようなものだったの。言葉なんて、余計……」
「でも!」
導かれたように強く言い返した。
「……ごめん。だけど、結局、それまでと同じ時間をそれから送ることになった、今度は、側にいることすらできないまま……」
あなたは涙を浮かべているように見える。だけど、とても柔らかい笑顔を投げかけていた。
「違う。違う、違う! あなたと私の永遠はあったじゃない。でも、壊れてしまったのよ。あなたは別の道を行った、そして私も、別の相手と、違う道を歩んでいる。それが、あの時言った、私の言葉の答えだから」
「悲しいな」
「ええ……。でも感傷的にはならないよ、だって、それがこの、二人の人生なの」
「……うん。ありがとう……。今日、逢えてよかった」
「そうね。私も、かな」
そう言うと、君は黄昏に消えていた。
オレンジ色の道が続いている、ゆったりとした足取りで、新たな一歩を踏み出した。