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天国

作者: 高菜わさび


「すみません、予約してないんですけど?」

「いらっしゃいませ、鈴木様。はい、大丈夫です、準備しますので、少々お待ちいただけますか?」

鈴木正直すずき・まさなおには、最近行きつけのマッサージ屋さんがある。いや、マッサージ屋というか、格好よく言うと、サロンだ。

何しろ、仕事で疲れているので、とりあえず詳しい話は、マッサージしながら、したいと思う。

「準備ができましたので、お着替えの方をお願いします」

この店の名前は「サロン・ドゥムン」名前の由来は、ガムランという民族音楽に使われる楽器のことらしい。

「お着替え終わりましたか?」

「はーい」

ガチャリとコインロッカーを回し、ブレスレットになっているキーを、腕にはめた。

遠くから、ガムランの音が聞こえる。

外の音は聞こえない、この建物は昔は歯医者だった洋館という奴だが、所々にリフォームされているようだ。

ボンヤリとした明かりの中、マッサージ用の椅子に座る。

いわゆる足を乗せるフットレストに、足を預けて、後は彼女に任せる。

マダムと呼んでも、マドモアゼルと呼んでも、失礼に当たりそうな、不思議な女性、彼女がこのサロンのオーナーで、正直恐ろしいほどのマッサージの腕をお持ちだ。

チャポン

アジアな感じがする木の桶に、自分の足は招待される。

温度も絶妙だ。

ぬるま湯より、お湯に入ってますよってわかる、少し高めの温度。

「足を触らせていただいて、お湯の温度を決めております」

まさか、そこまでやってくれているとは!確かにそうすれば、ぬるま湯より、若干高い温度になるよな。

彼女の指が、足の指の間に入り、広げられて、足をしっかりと洗われる。

「少し、お疲れですね」

「わかりますか?」

「わかりますよ、足を触ると、少し固い部分が多いですもの」

このだるさが、どうすっきりするのか楽しみだ。

右足から、タオルにクルマレる。

足のマッサージはだいたい左足から始まるのは、心臓の関係からだ。

タオルで足を来るんだ後、足を洗った木の桶を片付ける。

順番としては…

マッサージチェアに座る

     ↓

  マッサージチェアを倒す

     ↓

  フットレストに足を預ける

     ↓

  足を洗うための木桶来る

     ↓

  フットレストから足下ろす

     ↓

  木桶に足を入れる

     ↓

  足洗われる

     ↓

  足をタオルに巻かれる

     ↓

  フットレストに足を置かれる


本番はこれからだ!

このオーナーは、マッサージだけをする人ではない。

何というか、トータルで体を健康にさせるというか、いや、健康じゃないか、気分爽快にさせてくれるのだ。

「では始めます」

そう言われたら、俺が犬なら、尻尾を振っていただろう。

ギュッ

いきなり足の指を開かれた。

さっきも現れたとき、指を開かれたのだが、開かれた。

気持ちがいい。

何かが伸びていく。

グッ

しかし、足の指の根元を、オーナーの指が押すと、痛みが走った。

「左目ですね、鈴木様は右目より、左目の方がお疲れです」

「左目だけ、乱視なんですよ」

そういうのが、マッサージされると、バレてしまうのが、ある意味恥ずかしいわけですが。

この後気持ちいいんで!

クイ

足の指に、オーナーの指を挟まれて、曲げ伸ばされた。

伸ばされたまま五秒停止。

そして指を抜くと。

ドクンドクン

血が回ってくるのがわかった。

スゲー

あんたスゲーよ!

おおっと、あまりの凄さに言葉使いがおかしくなった。

スッ

今、不意に呼吸が深くなった。

フー

そして吐く。

すると不思議なことにリラックスモードに入っていった。

なんて説明すればいいのだろう、二度寝するって気持ちいいじゃないですか、あんな感じ。

それで、足の固くなったツボを丁寧にもみほぐされるのだ。

仕事で凄く大変で、仕事終わらないんじゃないかと、そんな気にさえなる。それが溶ける。

たまに、イヤになるじゃないか、何もかも、何やっているんだろうかなって思う瞬間。

努力って何なのだろうな。

変な話なのだが、ここでマッサージを受けていると、そういういつもは目を背けてしまう問題について、考えてしまうのだ。

意外と、解決できちゃう問題で、悩んでいたんだなとか、そういうのがわかる。

「お腹から、呼吸してください」

そんな声が遠くから聞こえてきた。

スー

「先に吐いてください」

ハー

「そして吸ってください」

スー

「呼吸は大事です、呼吸がしっかりしている人は内臓が強いですね」

ちょっとした事に、直さなければならないことがあって。

「あっ、そういえば朝食の内容変えたんですよ」

「あら?」

「適当に食べないで、気をつけるようになったんですよね」

「偉いじゃないですか」

誉められると、うれしいのだ。

久しぶりに誉められたって言うか、大人になってから、きちんと誉められたことなくて、オーナーから誉められた瞬間。

あれ?

すげぇ嬉しい。

ここは天国「サロン・ドゥムン」

天国の場所は教えれない!     

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― 新着の感想 ―
[良い点] 場所、教えてほしー!!
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