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精霊王シリーズ

光の彼女はわからず、闇の彼はしっていた。

作者: 絆 蒼奈

これは、シリアスでいいのか……?


『精霊王の坐す場所』から読むことをおすすめします。たぶんこれだけでも……読める? かな。


私が生まれてからどれ程たったのだろう。


ふと、光を統べる彼女は思った。

少し前……実際は何十、何百年も前だが彼女たちにとって時間とは己を制限するものにはならない……水のが生まれたときにはなにも思わなかった彼女が、ふと、思った。


ここは、私の蒼空はとても、とても心地がよくて。

でも、なにかが……。

この気持ちは、なんと言うものなんだろう。


そう思った。


心が空っぽになるような。

そんな、感情の名を。

彼女は、精霊である彼女はわからない。


「ヒトに聞けば、この気持ちが分かるかな?」


でも……


と続けて思う。


精霊()のことを感じられるヒトはもういない。


と。


これが水を統べるものが生まれたときならばまだ精霊である彼女らを感じ取れるモノたち……いわゆる精霊使いと呼ばれるモノ……がいた。

いまはどうだ。

ヒトは精霊の恐ろしさを知らずに一方的に精霊を使役して酷使している。

それでも精霊王たちが動かないのは自分の眷属である精霊たちがやめてくれと必死になって止めているからだ。精霊たちは自分たちが酷使されていようとも、契約者を愛しているからだ。


「みんな、元気かな」


その呟きに返事は返らない。

彼女の眷属は少数しかいないことに加えて皆がニンゲンのことが愛しくてたまらない。だからたった一人、精霊王である彼女を除いてヒトと契約しているのだ。



「みんな。みんなが辛いなら、言ってね」

この世界総てを敵にまわしても、無傷で救ってみせるから。



彼女は自分の眷属たちと違ってニンゲンという種族を愛しているわけではない。彼女の愛は眷属である精霊、そして統べての精霊王に向かっている。

彼女と彼は神祖と呼ばれるほど力を持った精霊王。



精霊王たちのなかで彼女と、彼以外、古の時代を知らない。



「それでいいの」

あんな時代、知らなくて。




清らかな水が流れていた河には血が流れ。

長き戦乱で生命の源である大地は疲弊し。

暖かな炎は総てを燃え尽くす業火に。

柔らかな緑は水が血となり枯れ、焔に焼かれ燃えた。

総てを包み込む自由な風は総てを斬りつける鋭利な風に。

すべてが総てを憎みあう。




ヒトの世界の歴史にも、記録されてはいないだろう。

それほどの昔。



「それでいいの」

戦乱が終わり、盟友と歓びあおうとしたときに、闇の以外、世代交換していた哀しさなんて……。



光である彼女は黄金の髪を靡かせ、煌めく金の瞳を曇らせた。



この感情の名前がなんなのか、私はわからない。

わからない。わからない、わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。






わかりたく、ない…………。






わかってしまったら、彼を残して私は消えてしまう……。

それだけは、してはいけない。


彼が消えてしまっても構わない。

あの時代を知る、最後の一人となっても。








私は光。


人々の希望、そして命。それを具現化した精霊。





総てを、遠く、遠く、遥けき地まで見渡せる。


私の蒼空。


私の統べる、私の光……。

尊い、貴い、私の光。








いっそのこと、


希望という名の光を統べるものではなく、



宵闇に身を任せられたのなら、楽だったのかしら…………。





◇◆◇◆





俺が生まれてからどのくらい経ったのか。


ふと、闇を統べる彼は思った。

少し前に……実際は何十、何百年も前だが彼らにとって時間とは己を制限するものにはならない……水のが生まれたときにはなにも思わなかった彼が、ふと、思った。


ここは、なにも見えない漆黒の闇はとても、とても心地がよくて。

ずっと身を任せていたくなる。


俺は知っている。

光である彼女がなにを考えているのか。


彼女は知らない。

俺がその事に気がついていることを。



「間抜けなのは相変わらずか」



辛辣な言葉だが、その表情はとても柔らかく、優しげだった。

しかしその声に応える声はない。


彼に眷属である精霊はひとりもいない……いや、ひとりだけいた精霊はこのあいだ精霊使いのもとへと召喚された。


以前まではあった騒がしい声がないというだけでこんなにも寂しく感じるものなのだな。



「光よ……」



耐えなくともいい。

消えたければ、消えればいい。

我々は、感情に流されるようなものではなかったが……。いつからこんなにも感傷的になったのだろうか。



「…………」



遥か昔。

清らかな水が流れていた河には血が流れ。

長き戦乱で生命の源である大地は疲弊し。

暖かな炎は総てを燃え尽くす業火に。

柔らかな緑は水が血となり枯れ、焔に焼かれ燃えた。

総てを包み込む自由な風は総てを斬りつける鋭利な風に。

すべてが総てを憎みあう。




ヒトの世界の歴史にも、記録されてはいないだろう。

それほどの昔。




あれが、ヒトを、魔を、そして……精霊さえも、狂わせ始めた。


ヒトは精霊を、魔力を感じるものが極端に減り。

魔は本能に飲まれやすくなり、魔獣へと堕ち。

我々は感情を知り、緩やかに狂い出す。


しっている。しっていたさ。

そうなると。


俺が統べるもののことが分からないわけがない。




だが、しらない。


宵闇に紛れる髪に、漆黒の瞳をした彼は、その相貌を歪ませた。


それは矛盾した思い。

彼はそう気がついている。

ならばなぜ頑なにしらないと思い込もうとするのか。


それは、



「ぐぅっ……」



ヒトにはあり、精霊にないはずの心の臓の辺りを掴む。

その苦しみ方は尋常ではなかった。



「もう少し、耐えてくれ」

この体。



もうすでに限界だと、何となくだが感じ取ってはいた。

けれど、限界ということを悟ったとき、彼が最初に思ったのは、





『彼女をひとり、残すわけにはいかない』




狂い始めてしまった彼女を。

それは、彼女が、狂い始めた原因は、俺にあるから……。





俺は闇。



狂気と、安らぎを統べるもの。

感情(狂気)と、(安らぎ)を、統べるもの。



俺の統べる、俺の闇。

忌まれ、疎まれる、俺の闇。






もしも俺が闇ではなかったなら、








どんなに幸せだったのだろうか。

それは、彼にさえ分からない。

三人称で書こうと思ったのに……。

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