09
ワゴンは、わたしのマンションにつけられる・・・
本部横のマンション・・・
それは私たちの寮となっていた。
養成所の時と違って個室ですごく広い部屋・・・・
10階は同期の部屋になっていて・・・
隣が胡桃、向かいが希美と栞になっていた。
やっと昨日片付いたばかりの部屋・・・
長い一日だったデビューと初めての現場・・・・
部屋に入るとすぐにリビングのソファーに倒れこむ。
でも、自分が夢にまで見た道の第一歩・・・・
心地よい疲れかもしれない・・・・
その時、ドアベルが鳴る・・・
だれっ・・・
わたしは立ち上がって、キッチンのビデオカメラを見る・・・・
胡桃が手を振ってるのが見える・・・・
やっぱり、完全セキュリティのこのマンション・・・
胡桃くらいしかない・・・・
話したいことがたくさんあった・・・
聞きたい事もたくさんある・・・
わたしがドアを開けると胡桃が飛び込んでくる・・・
ついでに希美と栞まで入ってくる。
「お菓子もってきたよっ」
お菓子のいっぱい入ったビニール袋をテーブルに置く。
希美と栞はジュースを置く。
「どうだった」
「うん、もうクタクタ」
「こっちも・・・・」
「でも、美耶子さんと仕事できるからいいじゃん」
コップとかお皿とかを用意する。
「でも、完全に体育会系のノリ。挨拶から始まって、今日も顔見世だけかなって思ったら、即トレーニング。それも半端じゃないの」
「うーん、そうなんだ」
美耶子さんならありそう。でも、もともと体育会のノリの胡桃が音を上げるなんてどういうトレーニングなの?
わたしはダベってただけだけど、ユニットによって全然違うみたい。
栞と希美は勝手にテレビをつけて、勝手にネコ型ロボットのアニメのDVDを見ている。
何しに来たんだ、こいつら。
2人を見てるだけで、こっちのユニットの雰囲気もわかる。
「美月って、今日は大活躍だったらしいじゃん」
「えっ・・・・」
「メールみたよ。美月って雷を操れるんだ」
わたしも携帯を見る。
ビデオ付きのニュース・・・・
ラブウィッチーズの今日の活動記録・・・・
ビデオを見ると、ムカデを倒したとき、ウィザードを倒したとき・・・・
ウィザードの映像を見ると、あの少年は映っていない・・・・
黄色い光の玉が映っているだけ・・・・
あの子・・・他の人には見えないの・・・・
声も入っていない・・・・
「うん・・・まあねっ」
いくら胡桃でも信じてくれないよ。
栞と希美が口げんかし始める。
だから、こいつら何をしにきたの?
「優菜はグラビア撮影らしいよ。さっきメールきてたから」
「そうなんだ。」
グラビア組も忙しいみたい。
「で、なんでみんなこの部屋にきたの?胡桃はわかるけど・・・」
「うん、ここが一番かたずいてそうだから・・・わたしの部屋なんて寝るとこもないし」
「もしかして?こいつらも?」
「そうみたい・・・・」
「・・・・」
「でもさぁ、美月、今度スタッフが来て片付けてくれるらしいし・・・」
それまで、ここにいるの?
栞・希美のけんかがエキサイトする。
どうやら、お菓子の取り合いが原因らしい。
いつもなら、優菜が彼女たちをまとめてくれるんだけど・・・・
「うるさぁい。けんかやめろぉ!」
希美と栞が驚いたようにこっちを見る。
「いい子ね」
冷蔵庫から惜しいけどとっておきのプリンを取り出す。
たしか2個あったはず。
わたしの大好物なんだけど・・・・
お皿の上に乗せて、スプーンを添えて、彼女達の前に・・・・
栞と希美は顔を見合わせる・・・・
「どうぞ・・・」
大人の笑顔で・・・・
たぶん、優菜がするみたいな。
希美は相変わらず無表情で・・・
栞は満面の笑顔を浮かべて・・・
お皿を引き寄せる・・・
まあ、これで大丈夫だろう・・・
胡桃に向き直って、テーブルに座る・・・・
わたしたちは、いつものようにとりとめもないおしゃべりを始めた。