17 悪ノ聖女
銀色の髪を振り乱しながら逃げる沙織さん。
襲いかかる恐竜たち。
それも驚くほどの素早さ。
そこにはただ狩る者と狩られる者の関係しか見当たらなかった。
「きゃぁぁ」
恐竜の爪が沙織さんの二の腕をかすめる。
白い腕に赤い線が走って血がにじむ。
でも、逃げ続ける沙織さん。
驚異的な身体能力で恐竜の攻撃をかわす。
でも、ただかわすだけ…
沙織さんに反撃の手段はない…
「あーあ、やっちゃった。
知らないよっ」
睦美さんが言う。
どういうこと????
「最悪だねっ」
沙耶香さんがはき捨てるように言う。
わかんないよ????
そのとたん、急に沙織さんが恐竜に向き合う。
恐竜たちは何を感じたのか動きを止めて沙織さんをうかがう。
「ハハハハハハハハハ」
沙織さんが上を向いて高く笑う。
何が起きてるの???
「上等じゃん。
おまえらみたいな下等生物がわたしに傷をつけるなんてさ!」
心なしか恐竜たちが怯えているような気がする。
「ひきちぎってやるよ!」
沙織さんが恐竜に飛びかかる…
でも、恐竜も沙織さんに噛み付こうとする。
その上あごと下あごを沙織さんがつかむ。
そのまま口をこじ開けるように…
いえ…
こじ開けるどころではない…
言葉のとおり引き裂こうとしている。
暴れる恐竜…
でも、笑いながら力を入れていく…
だんだん恐竜の口の端が裂けていく…
そして真っ二つに喉のあたりまで裂ける恐竜…
でも、恐竜の生命力は強い…
それとコアを壊されるまで魔獣は消えない…
まだ逃げようとする恐竜。
その尻尾を沙織さんが踏みつける。
「トカゲってさぁ。
尻尾切ったら尻尾だけ生きてるじゃん。
恐竜はどうなんだろうねっ」
尻尾の根元を踏んづけて、尻尾の先を思いっきり引っ張る。
ブチッ…
いやな音を立てて尻尾が千切れる。
「なんだぁ…
つまんねぇの。
うごかねぇジャン」
生命力の無くなった尻尾を放り投げる。
「いつ見ても、胸が悪くなるよ。
沙織の戦い方…」
睦美さんが眉をひそめる。
「ああ、普段が虫一匹殺せないから、
よけいにギャップがあるよね」
「普段は白い巫女。
でも、もうひとつの人格は悪ノ聖女って呼ばれるだけあるよね」
睦美さんと沙耶香さんが話している間も、殺戮ショーは続いている。
もう一頭の恐竜は目を潰され舌を引きちぎられている。
そして最後の一頭は、今、首を引きちぎられているところ…
ブチブチと嫌な音が鳴る…
コアを壊せばいいのに…
敢えて関係のないとこばっかり…
まだ一頭は生きてるみたい…
なまじシミュレーターで知性を与えられてるだけに、、
その表情は恐怖に彩られている。
本能的に動かない身体でも沙織さんから離れようとする。
それを冷静に見下ろす沙織さん。
唇の端をあげる。
じりじりと前に這う恐竜。
でも進まない。
沙織さんが尻尾を踏みつけているから…
「逃がさねえよ!
わたしの身体に傷をつけたんだからね」
沙織さんの踵が背中を踏みつける。
やばすぎだよ。
この人…
目が逝っちゃってるし…
「あんま時間がないよ。
そろそろ決めたら」
あきれたように沙耶香さんが言う。
「つまんねえの。
おい、もっと手ごたえのあるのだしなよ。
でねえと・・・・
おまえをぶっ潰しちゃうよ」
空知に悪態をつく沙織さん。
恐竜のコアのある胸の部分を踏みつける…
恐竜は塵となって消える。
その消える前の一瞬の表情はなぜか安堵につつまれていた。