09 首長竜
アンシエント・ズーに飛ばされた4人。
栞、沙耶香さん、睦美さん、沙織さん…
出口に向かって進む…
いくら、太古の世界を再現しているとか、
ファンタジーパークでいちばん大きな施設と言っても限界があって…
動物園の中はいくつかのゲートに仕切られて、順路がついている。
4人の中で一番小さい栞…
まるで、動物園に連れてきてもらった子供みたいにはしゃぎながら、
みんなよりも少し前を行く…
栞がひとつめのゲートをくぐったところで、上から檻みたいなシャッターが降りる。
中に栞が一人取り残される…
栞がみんなを振り返る。
「さて…
再度ゲームの説明をしましょう」
ドクター空知が現れる。
「ひとりがゲートをくぐったら、
シャッターが降りる仕掛けになっています。
つまり…
戦えるのはひとりだけということです。
なぁに、
こちらも、魔獣は一匹づつしか出しませんよ。
ゲートは4つ…
すべてクリアーしたらあなた方の勝ちです。
しかし、ひとりでも負けたら…
ゲームオーバーとなります」
「御託はいいからさっさとはじめたら」
沙耶香さんが冷たく言い放つ。
「では……」
小さな山が向こうから近づいてくる。
その山に細く長い首。
そう、首長竜といわれる恐竜だ。
ブラキオザウルス…
全長は25メートル、体高は16メートル…
恐竜の中でもいちばん大きいといわれているものだ。
1歩1歩近づいてくるたびに地震みたいな地響き。
栞は恐竜の方に向きなおる…
余裕の表情…
たぶん、栞にはドッペルゲンガーがあるから、
敵が巨大であっても大丈夫…
恐竜は近づくと栞の前で威嚇するように吼える。
でも、首の長い恐竜っておとなしいんじゃなかったっけ???
木の高いところのはっぱを食べるために首が長くなったんじゃ???
だから、首長竜っておとなしい草食動物だと思ってた。
でも、目の前の恐竜はそんな感じじゃない。
あくまで、こっちを敵として捕らえてる目。
「言い忘れてましたが、
わたしたちはあなたがたの弱点を掴んでいます。
まずは…
栞さんの弱点は、その幼さにあります。
今からそれを証明しましょう」
空知はステッキを振り上げる。
それを合図に首長竜は栞に襲いかかる。
「ドッペルゲンガー!」
栞は幼い声で叫ぶ。
恐竜の前の空間に、全く同じ大きさの恐竜の影…
それが、だんだんと実体を形作っていく。
対峙する2匹の恐竜…
お互いに威嚇しあう。
その一方の頭の上に栞がジャンプして飛び乗る。
威嚇しあう恐竜。
お互いに頭をぶつけ合う。
栞は、恐竜たちの動きにあわせて、ひらりと舞い上がり、
恐竜の背中に舞い降りる。
ドッペルゲンガーは魔獣の法則を受ける。
巨大な魔獣ほど、栞は魔獣の近くにいなければならない。
恐竜たちはお互いに相手の喉笛に食いつこうとする。
お互いに相手の急所を狙う。
まるで指相撲のような攻防が続く。
「さて…
そろそろですね」
ドクター空知も余裕の表情。
1方の恐竜がだんだん押され始める。
それは栞の作った恐竜の方だ。
栞の顔にも疲れが見え始める。
たぶん、相手も人間なら精神力の勝負になる。
その意味で栞も負けないんだって思う。
でも、この場合、相手は機械だ。
疲れを感じる栞に対して、
機械の作った魔獣は勢いを衰えさせない。
ついに空知の恐竜が栞の恐竜の喉笛を捕らえる。
激しく暴れる栞の恐竜…
でも、逃れることはできない。
栞の恐竜のあがきはだんだん弱弱しくなっていく。
「しょせんコピーはコピーに過ぎません。
オリジナルには勝てませんよ」
余裕たっぷりの空知。
ついに栞の恐竜はコアを捕らえられたのか、
粒子となってはじける。
あとには勝利のおたけびをあげる空知の首長竜と
疲れてすわりこんだ栞の姿が残った。