07
愛莉さんが金槌を振り回す・・・・
だんだん大きく長くなっていく鉄槌・・・・
それと動きも速くなっていく。
でも、鎧武者は避け続ける・・・・
それも、かわすとかいうより瞬間移動するっていうのが正確かも・・・・
消えては他のところに現れる・・・・
まるで、もぐらたたき・・・・
「すばしいっこいねっ。この魔獣・・・」
「魔獣?」
マントの男は愛莉さんにたずねる。
「そう、そいつ。逃げ回るしか能がないの?」
「そいつ・・・あぁ・・・黒騎士ランスロットことか?」
「そう、そいつ」
「魔獣ではない。わたしたちは彼のことを魔神とよんでいる。」
「逃げるだけの魔神ね。時間を稼ぐのにちょうどいいわね。」
挑発する愛莉さん。
でも、息が上がっている。
「逃げるだけではない。」
魔神の動きが止まる。
剣を抜く魔神。
愛莉さんの挑発成功かも。
力勝負に持ち込む作戦だ。
愛莉さんは鉄槌を思いっきり振り下ろす。
粉砕っ・・・・
そう見えただけ・・・・
黒い魔神は剣の切っ先で鉄槌を止めている・・・・
鉄槌にありったけの力を込める愛莉さん。
黒騎士は軽々と受け止めてる感じ・・・
そして、鉄槌に亀裂が走る・・・・
粉々に砕け散る鉄槌・・・・
粉砕は愛莉さんの方・・・・
その場にうずくまる愛莉さん・・・・
そう、魔獣を壊された魔獣使いと同様に・・・・
「大丈夫?」
愛莉さんをかばうように立ちはだかる沙耶香さん・・・・
「あんまり、大丈夫じゃない」
「休んでなよ。すぐに片をつけるから」
そう、ブラックホール・・・
あれなら、いくら強くても関係ない・・・・
鞭を振ると黒い空間が現れる・・・・
バチバチと電気を纏いながら飛ぶ黒い球体・・・・
でも、あの瞬間移動を捕まえられるの?
わたしの想像に反して、鋼鉄の騎士はじっと動かない・・・・
剣を構えてブラックホールを待っている・・・
「吸い込んじゃうよ。逃げても無駄だけど」
鞭を振って左右に球体を揺らせる・・・・
球体は当たる必要がない。
近くに届けば、すべてを吸い込んでしまう。
少しくらい逃げても意味がない。
それにだんだんと大きくなっていき、吸い込む力は増していく。
まさに最強無敵の技。
「我らに切れぬものはなし・・・」
マントの男が言う。
「なに?」
沙耶香さんの顔に動揺が走る。
騎士にブラックホールが近づいた瞬間。
騎士は剣を振り下ろす。
ブラックホールが真っ二つに割れる・・・・
「友の剣は空間さえ切り裂く。」
次に左右に払われる剣・・・・
ブラックホールは4つに裂かれる・・・・
そのまま空間は閉じていく・・・・
「くっ・・・」
その場で立ちすくむ沙耶香さん・・・・
でも立っているのがやっとって感じ・・・・
強すぎる・・・・
でも、黒い騎士はそれ以上の深追いはしない・・・・
愛莉さんと沙耶香さんの前に立ちふさがるだけ・・・・
「まだ、仕事は終わっていない。」
次はわたし???
あの黒い玉が通じるの?
沙耶香さんでも勝てないのに・・・・
「そうですよ。先生。この小娘を捕らえてください。先ほどの謝礼以外にボーナスも払いますから。」
強い味方を得てテンションがあがるウィザード・・・・
「謝礼?これのことか?」
懐からお金を取り出すマントの男・・・・
それを空に投げる・・・・
風にお札が舞う・・・・
「ふん、しかし、小娘一人だ。わたしが特別に相手をしてやろう」
宙を指で指す電人桂木・・・・
それを振り下ろすと、その動きにあわせて雷が落ちる・・・・
わたしはそれを避ける・・・・
次のいかづちがわたしを襲う・・・・
こいつ当てるつもりはないの?
こんな攻撃でわたしを倒せると思ってるの?
軽々と雷をよける・・・・
たぶん、遊んでいるんだ・・・・
桂木の顔に薄ら笑いさえ浮かんでいる・・・・
わたしはよけながら光球を呼び出す・・・・
男が手を振り下ろすと、わたしの出した玉を雷がつつむ・・・・
こんどの雷はその前と違って持続している。
光の玉を動かせない・・・・
あの黒い球も・・・・
「フフフ・・・・まだまだだな。あいつら2人がいないと軽いものだ。」
こいつこんなに強かったんだ。
DVDで見たときは単なるやられ役って思ってたけど・・・・
自分の力のなさがくやしい・・・・
「じゃあ、軽く気絶してもらおうか」
今度は本気の雷、スピードも半端じゃない・・・・
だめっ、やられる・・・・
そのとたん黄色い球がわたしの上に飛んでくる・・・・
雷を受ける黄色い球・・・・
他の球は野球のボールくらいなのに、
バスケットボールくらいになってる。
「な・・・なにっ・・・・」
ウィザードは狂ったようにわたしに雷を落とし続ける・・・・
それを全部黄色い球が受け止める・・・・
そのたびに大きくなる球・・・・
この球は雷を吸収するんだ。
よしっ、いけるっ・・・
わたしは立ち上がる・・・・
そう黄色い球で守りながら、体術で奴を倒す。
これしかない・・・・
たぶん、あいつ格闘とか弱いはず。
わたしは桂木に向かって駆け出す・・・・
「フフ・・・こういうのもあるんだがな」
男は懐から銃を取り出す・・・・
うそっ・・・・
わたしは足を止める・・・・
「手荒なまねはしたくないんだがな。足ぐらいなら打ち抜くぞ。」
汚い奴・・・・
その時、心の中で声が聞こえる・・・・
『ぼくを解放して・・・・』
えっ??????
誰っ?????
『ぼくを解放して・・・早く・・・』
頭上で黄色い玉が左右に小さく揺れる。
あなた・・・なの?
うなづくように縦に揺れる玉・・・・
「さあ、こっちに来るんだ」
勝ち誇ったようなウィザード。
「解放?」
『うん、心の中で祈るんだ。魔神トールを解放するって』
「魔神・・・トール・・・・」
「何をごちゃごちゃ言ってるんだ。恐怖で気でもふれたのかなぁ」
わたしは桂木に向かってゆっくりと歩く。
『わかんない・・・でも・・・・試すくらいなら・・・・心の中で願うだけ・・・』
『うん・・・届いてるよ・・・・』
わたしの心の声に反応する声。
わたしはコクンと首を縦に振って微笑む。
じっとウィザードを見上げる。
『魔神トールを解放する!!』
黄色い球が弾ける。
どんな魔神が現れるの?
目の前に金髪の男の子・・・・・
10歳くらい・・・・
この子が????
想像と違う魔神・・・・
「あとは任せといて」
男の子は振り向いてウィンクする。
キレイな顔・・・・
「なんだ。このガキは?」
ウィザードは目を丸くしている。
「ガキは嫌いなんだよっ」
すぐに怒りの表情に戻って、雷を男の子に落とす。
でも、男の子はそれを手のひらで受け止める。
「ふぅん。まあまあじゃん。両手で雷を操れるなんてね」
余裕の表情・・・・・
「でも、これくらいはしないとね」
男の子が天を指差す。
雷鳴・・・・・
雲が光って、空から本当の雷が落ちる。
ウィザードに向かって・・・・・
ウィザードはうろたえて場所を離れる・・・・
すごい音・・・・
ウィザードがさっきいた辺りに大きなクレーターができる・・・・
「久しぶりだからね。外しちゃった」
頭を掻く少年・・・・
「このガキっ」
拳銃を抜いて男の子に構える。
あぶないっ。
雷には強いのかもしれないけど・・・・
拳銃では。
銃声・・・・
わたしは男の子に駆け寄る・・・・
間に合わない・・・・・
命中する・・・・
でも男の子は倒れない・・・・
空間に小さな雷をまとった弾丸が止まっている・・・・
「ぼくにもこれくらいのことできるよ」
得意そうにわたしを振り返る。
ほっとするわたし。
ウィザードは狼狽する。
「こ・・・こいつ・・・邪魔しやがって」
でも、もう桂木には打つ手がない。
こいつの技はこれだけ。
男の子はウィザードを睨んで、天を指差す。
「動いちゃだめだよっ」
雷鳴・・・・
そして、空を切り裂くような雷がウィザードに向かう・・・・
少年の声に直立するウィザード・・・・
それをかすめるように落ちる雷・・・・
前髪が燃え眼鏡が弾け飛ぶ・・・・
後ろに尻餅を付くウィザード・・・・
それを両脇からスタッフが取り囲む・・・・
手錠をかけられ、素直にスタッフに従う桂木・・・・
「さてっ。あいつもかたずけるの?」
わたしを振り向いて男の子はマントの男を指差す。
片付けるって・・・・
愛莉さんや沙耶香さんでも歯が立たない人を?
でも、わかんない・・・・
どうするかなんて・・・・
沙耶香さんの方を見る・・・・
でも、何の指示もしない・・・・
わたしの方をマントの男が見る・・・・
なぜか満足そうな笑顔を浮かべて・・・・
なぜ???
そして、鎧の騎士と共に消える・・・・
一瞬で・・・・
「逃げたみたいだね・・・」
トールがわたしの方を見る・・・・
サファイアの瞳で・・・・
そして、わたしはその場に立ち尽くした・・・・
スタッフに戻るように促されるまで・・・・