29 Gの幽霊
「さて、あとはアンタだけね」
沙耶香さんが空中に浮遊するマントを睨む。
そのフードから2つの鈍い光・・・
まるで、幽霊ってこんな動きかも・・・
ゆらゆらと左右に揺れるだけ・・・
「人間じゃないわね」
沙耶香さんは鞭を構える。
それに呼応するように、
空飛ぶマントも両手に針のように細い刃を構える・・・
その刃も取っ手の部分はマントの中に隠れ・・・
あたかも、それが身体と一体のものみたい・・・
沙耶香さんが鞭を振る・・・
マントめがけて・・・
ふわりと避けるマント・・・・
そのまま、沙耶香さんの傍に飛んでくる・・・
刃が光る・・・
そのまま離れる2人・・・・
沙耶香さんは微笑む・・・
でもその頬に一筋の赤い線・・・
そこから血がにじむ・・・・
ぎりぎり避けただけみたい・・・・
でも、一回避けられたってことは、見切ったってこと・・・
さすが沙耶香さんだ・・・
沙耶香さんの微笑みはそう言う意味・・・・
何度も攻撃を受けるけど、
簡単に避ける・・・
大丈夫・・・
あとはブラックホールで・・・・
まあ、さっきの2人がやばすぎだったから、
次もって思ってたけど・・・・
空を飛ぶだけの能力みたい・・・・
「・・・2G・・・」
金属的な低い声・・・
何・・・もしかして・・・
この空飛ぶマントの声?
なんか身体が重くなる・・・
なんで???
「フフ・・・ファントムの能力は重力を操ること。
さっきの2人の技はオードブルにすぎません
今、ここの重力は2倍になっています」
白虎が解説する。
あっ、ってことは
私たちの動きが遅くなって・・・
んと・・・・
さっきまでぎりぎりでかわしてたけど・・・
もう、無理ってこと・・・
ファントムの動きは相変わらず・・・
沙耶香さんは鞭を重そうに振る・・・
それってやばいじゃん・・・
ファントムが沙耶香さんに襲いかかる・・・
さっきみたいな余裕じゃない・・・
転がってよける沙耶香さん・・
「・・・・3G・・・・」
ギーギーと金属的な声・・・・
また、身体が重くなる・・・・
立ってるのがやっと・・・
その私の手を誰かが引く・・・
大和だ・・・・
すぐ後ろに青龍さんもいる。
「こっちに来い・・・
青龍の能力は、自分の半径2メートルでは、
フォースの効力がなくなることだ。
だから、ここは安全だ。
いくら重力が強くなろうとな」
大和に引き寄せられると、
急に身体が軽くなる・・・
でも・・・・
沙耶香さんが・・・・
そう沙耶香さんも立ってるのが精一杯・・・・
だって、重力が3倍って、
わたしで言えば120kgくらいってこと・・・
って計算しないの!!
沙耶香さんは背があるから、もっとかもしれないし・・・
「ハハハ・・・
お前らもそこから動けない。
朱雀がやられるのをじっくり見物してな」
白虎は高笑いする。
「沙耶香さん!」
わたしは声をかけるだけしかできない。
光の玉もここでは出ないみたい。
「大和っ!何とかしてよ」
大和の胸を叩く。
「まあ、見てろよ」
大きな手がわたしの肩を抱く。
沙耶香さんを見ると這いつくっばってるけど、
目元に微笑みを浮かべている。
また、ファントムが襲いかかる。
その瞬間・・・・
「ブラックホール!」
沙耶香さんがファントムに向かって小さなブラックホールを出す。
えっ????
?????
何が起こったの????
目の前からファントムは消えてる。
沙耶香さんは立ち上がる。
それも簡単に・・・・
わたしも沙耶香さんに近寄ろうとする・・・
青龍さんの近くを離れて・・・・
さっきみたいな重力は受けない・・・・
「わたしの技を知らないの?
ブラックホールは重力の塊・・・
それを3倍にしたらどんなことが起きるかわかんないの?」
そうなんだ・・・・
目にも見えないくらい一瞬でファントムはブラックホールに吸い込まれたんだ。
沙耶香さんの前の床に大きな穴が開いている・・・
さっきまでそんなのなかったのに・・・
「まあ、わたしも力の調節にてこずったけどさ。」
クスッって笑う沙耶香さん・・・・
やっぱすごすぎ。
わたしたちは怒りに震える白虎に向き合った。