04
エレベーターを降りると大きなワゴン車が止まっている。
黒にネオン字でラブウィッチーズのロゴが大きく書かれた窓のないワゴン。
それに乗り込む。
中に入るとスタイリストとメイクの人・・・・
てきぱきとわたしたちの衣装やメイクを調える・・・
そう、わたしたちの戦いはライブと同じ。
常にビデオで撮影されている。
そして編集されてDVDとして発売される。
敵は基本的には捕らえるだけだけど、場合によっては殺してしまうこともある。
卑弥香さんが国家に認めさせたんだけど、基本的には正当防衛の延長ってことらしい。
研修所で習ったんだけど、いまいちよくわからない。
自分の身を守るためなら、相手を殺してしまっても大丈夫ってこと???
そんな感じだ。
作戦内容のビデオが流れる。
基本的には愛莉さんとわたしが魔獣をひきつけて、
沙耶香さんがウィザードを捕らえるって作戦。
作戦担当の人がCGを使いながら説明する。
特にわたしと愛莉さんは敵を公園から出さないことにも注意しなくてはならない。
一般人に被害がおよばないようにする。
これが第二の目的。
それと、ウィザードを捕らえたら魔獣使いは無理に追いかけなくてよい。
作戦内容を頭に叩き込む。
その間、愛莉さんと沙耶香さんはずっとしゃべっている。
画面なんて見ていないし、作戦なんてぜんぜん聞いていない感じ。
大丈夫なの?この人たち。
ワゴンが止まる。
目的地に着いたみたい・・・
スライドドアが開けられ、
わたしたちは外に飛び出す・・・・
騒然としている公園・・・・
何人ものスタッフがあわただしく動き回っている・・・
カメラの準備をする人・・・・
敵を食い止めている人・・・・
スタッフの中にも相当な実力者がいるらしいけど・・・・
スタッフはみんな同じ制服とヘルメットで、表舞台に出ることはない・・・・
「ご苦労様、あとは任せて・・・」
沙耶香さんが、敵の前にいるスタッフの肩をポンと叩く。
そのあとに続く愛莉さん・・・・
わたしも愛莉さんに並ぶようにして歩く・・・
戦闘もショーのひとつだって教えられている・・・
観客はスタッフの張ったロープの外にいる・・・
「我々は刃根麻衣を出すことを要求する。さもないと。ん」
ハンドマイクでしゃべっている男。
年齢は30くらい・・・・
黒いフレームの眼鏡・・・・
長髪に痩せた身体・・・・
服もネルシャツに刃根麻衣のTシャツ・・・・
頭に鉢巻まで巻いている・・・
漫画に出てくるオタクの典型的なパターン・・・
こいつがウィザードの桂木だ。
「バラエティチームか・・・わたしが会いたいのはおまえらじゃないんだ・・麻衣ちゃんをだせ。」
沙耶香さんと愛莉さんを指さす。
「それから・・・あとのは・・・・」
眼鏡のフレームを持ち上げながら、手帳をめくる・・・・
「新人の海崎美月ちゃんじゃないかぁ」
眼鏡の奥から細い目でわたしを睨む・・・・
正直・・・きもい・・・・
ジロジロと品定めするようにわたしを見る・・・
やめろっ・・・・
「ハハハ・・・デビュー戦というわけだな。わたしは桜沢美那子のユニットに入ると思っていたのだが・・・」
わたしも入りたかったよ。
それから、眼鏡は携帯をいじり始める。
「いいだろう。現在、ラブウィッチーズ新人人気ランキング1位、ラブウッチーズ人気ランキング5位・・・人気急上昇中の新人のデビューだ。思う存分戦ってやろう。」
サイト見てたの?新人ランキング1位だったの?
わたしたちの人気投票はネットでリアルタイムに行われている。
嫌なやつだけど、人気ランキング1位は嬉しい。
「では、先生がた、むちゃくちゃにやっちゃってください。美月ちゃんは捕らえるだけね。」
闇の中から4人の男が現れる。
そして、その前に魔獣たち。
そう、彼らの力だ。
巨大なカマキリとムカデ・・・・
ゴリラみたいな獣人。手には剣と楯を持っている。
あとは西洋の鎧に身を包んだ武者・・・
「べつに俺たちはどうでもいいんだが、雇われた身だからな」
ひとりの中年男が言う。
「じゃあ、仕事にかかりますか」
腰を上げる禿げた男・・・・
「傭兵か・・・・」
携帯にメールが入る。
チラッと見ると、彼らのことが解析できたみたい・・・
過去の事件とか細かく書いてあるけど、そんなの見てる暇ない・・・
とりあえずランクだけ確認・・・
ランクB・・・・
ウィザードがランクBだったから・・・・
魔獣使いとしては強い方だ・・・
「こいつら、強いよ。気を抜くなよ!」
沙耶香さんが緊張気味に言う・・・・
戦闘モード・・・・
「うん・・・・」
沙耶香さんがカマキリに・・・
ゴリラに愛莉さんが対峙する・・・・
そしたら・・・・
わたしは?
必然的に中央の大ムカデの前に・・・・
待ってよ・・・
こんなの・・・・
わたし・・・虫・・・めっちゃ苦手だし・・・・
特に足の多いの・・・
わさわさと動く足を見てるだけで、めまいがする。
でも、カメラがわたしに構えられると、そんなことは言ってられない・・・
練習したポーズを作る・・・・
ロッドで宙に円を描く、7つの色とりどりの玉が現れる。
上半身を起こして、攻撃の機会をうかがう大ムカデの前に対峙する。
やっぱ脚が多いのダメェ・・・
逃げ出したい気分を必死で抑える。
「レインボーシュート!」
空間に浮いている玉がひとつづつムカデに向かって飛び出す。
赤・青・黄・橙・紫・緑・ピンク
そう、玉は弾丸となって敵を襲う。
それもわたしの思ったとおりの弾道を描く。
わたしの一番初歩的な技。
とりあえず、相手を確かめる時にこれを使う。
でも、小さな玉はすべて弾き飛ばされる。
ムカデの身体は固い鎧みたいになっているみたい・・・
なんのダメージも受けずにわたしを見下ろすムカデ・・・・
そういえば、魔獣学の講義でやったことある。
昆虫系の魔獣って基本的にAランクに位置づけられる。
知能以外の部分、動きの早さ・パワーどれをとっても最高の部類に位置する。
それだけじゃなくて、鈍いところも武器。
脚の一本くらいとれても、戦闘意欲を失わないらしい。
最初からこんなのに当たっちゃうなんて。
それも、わたし虫が苦手だし。
でも、わたしはラブウィッチーズの一員。
逃げるわけにはいかない。
ムカデがいきなり攻撃をしてくる。
大きな身体を倒して、わたしを押しつぶしにくる。
速い。
でも、わたしもスピードには自信がある。
横転して避ける。
すぐに次の一撃・・・
それもよけられる。
この程度なら大丈夫。
隣では先輩たちの戦いも始まっている。
足をひっぱるわけにはいかない。
ぎゅっと唇をかみ締める。
わたしのまわりを回りだす玉・・・・
そう必殺技しかない。
「レインボーイリュージョン!」
そう、玉を刃に変えて切り刻む。
多分、身体の節の部分は弱いはず。
色とりどりの玉が楕円形の軌跡を残して、ムカデの節にぶつかる・・・・
そう、シュミレーションではゴーレムでも切り裂いた刃・・・・
これで終わり。
わたしはポーズを決める。
でも、すべての玉ははじき返される。
どうして?
一瞬、呆然とする。
その後ろにムカデのしっぽがわたしを捉えようとしのびよっているのも知らずに。