55 剣皇マリナ
「王子、美月いえ姫は渡しません。
王女に相応しく育ってます」
細い目の綺麗な女の人。卑弥香社長くらいの年齢かな。
でも、闘気みたいなものはない…
「これは剣皇マリナ…
あなたに美月を任せたのは間違いでした」
魔獣王は女の人を睨む。
そういえば、美月のお母さんの名前はマリナだったっけ…
美月の部屋に飾ってあった2ショットのフォトフレーム…
そこに写ってた人…
それで、どこかで見た感があったんだ。
メイド姿の女が美月を正憲に預ける。
たぶん、ステルスジャイアントに持たせているのか、美月が宙に浮く。
「師匠…いえ、マリナ…
美月姫と戦いましたが。全然ダメでした…
あなたが育てたとは思えません…」
「そう…
わたしはちゃんと育っていると思うけど…」
「あの厳しい師匠の言葉とは思えませんね。
魔法斬の基礎さえ出来ていません。
剣技も全然です」
「魔法斬は騎士の技です。
姫が覚える必要はありません」
「それにしても…弱すぎます。
これでは自分の身さえ守れない」
「そうかしら???
わたしは先代女王さえ持たないものを持っているように思えます。
変にわたしが手を加える必要はありません。
美月が自分で育てていく力です」
「しかし、騎士も連れていない」
「そうね。これからね。
でも、騎士候補はもう見つけました。
それも、2人もね」
マリナさんはわたしと倒れているユウヤを見る。
「あなたの場合は才能がなかったから努力を強いるしかありませんでした。
まあ、あなたは努力する才能はありました。
それもすごいことです」
「たぶん、あなたはこの平和な世界で衰えたんです。
わたしを鍛えてたときと違う」
「そう思うの?」
「姫には姫の役割がある。
王国を再興しなければならないんです。
それには王子の力だけじゃなくて、姫の力が必要なんです」
「まだ、若いわね。わたしはこのままでいいと思うんだけどね。
姫は枠にはまらないほうがいいわ」
「やっぱり、昔の師匠じゃないです。
今の師匠には姫は任せられない」
「ふうん、じゃあ試してみる?
わたしが昔と違っているのか」
「師匠には昔のような闘気はないです。
剣鬼とまで呼ばれた剣皇マリナの迫力がね。
今のあなたなら私でも倒せる。
氷刃のヴェロニカ、行きます」
ヴェロニカは騎士剣を抜く。
そのヴェロニカの剣に合わせるように、静かにマリナは前に進み出た。