32 侵入(1)
さて、どうやって忍びこもうか?
魔獣城は海に囲まれている。
それから、サーチライトが動きながらまわりを照らしている。
たぶん、厳重な警備がひかれているんだろう。
空から?
たぶん撃ち落とされるのが、関の山。
海から?
船なんてないし、空から行くのといっしょ。
海に潜って…そんなスキルはないし…
美月なら、どうするだろう?
バカだから、泳いでいくとか言って、新たな能力を開花させるのかもしれない。
「およいでいくかぁ」
麻耶が準備運動を始める。ここにもバカはいた。
さすが、チーム美月だ。
なんとかなる、それが美月の考え方。
そして、それにいつもまわりが引っ張られてしまう。
研修所の時、級長はわたしだったけど、すべてが美月を中心に回っていた感じがする。
わたしがみんなと対立することを言っても、間にはいってなんとかしてしまうのが美月。
それも、だれも傷つけないで…
カリスマってわけじゃないけど、なんか不思議な力をもっているんだ。
だから、美月にあんなデタラメな能力が与えられているんだと思う。
だって、わたしがあの力のうちひとつでも持っていたら…
たぶん、みんなから孤立するだろう。
あの力は美月だからいいんだ。
こたつから出ずにテレビのリモコンをとるために、雷王を呼び出すみたいな、わけのわからない使い方をする美月だから…
その上、雷王を怒らせて、リモコンをとってもらえなかったり…
あんがい、わたしたちの時代になるころには、美月がリーダーになってたりして…
わたしも美月と同じように考えよう。
まあ、なんとかなるよ。
自分に問いかけて、チーム美月を見回す。
「フェンリル!」
ミイナが呼ぶ。影の中からジェシカというWILD★WITCHESのメンバーが現れる。
褐色の肌のスリムな子だ。
その子の身体が白い毛に包まれる。
まるで、まゆに包まれるように白い毛の塊となる。
そして、だんだん毛並みが整って普通サイズの狼になる。
狼少女だったの?この子?
「形態2」
ミイナが叫ぶ。
すると、狼はだんだん大きくなっていく。
この子の技は魔獣化だけではない。
前に戦った、あの怪獣サイズの狼。あれも彼女だったんだ。
狼はあの巨大サイズになる。
「さあ、乗って」
わたしたちはフェンリルの背中に飛び乗る。
「出発」
ミイナの合図とともに、大きな山は海に飛び込み、背中だけを出して魔獣城に向かって泳ぎ始めた。