30 チーム美月
わたしはは飛び出すように廊下に出る。
右頬の痛み。それは叩かれたことに対する痛みだけではなかった。
美那子リーダーの切なさやみすみす美月をさらわれたことに対する自分への怒り。
やるせない思いがわたしの目を潤ませる。
リーダーは自分の立場があるから、わたしみたいにできない。
そこには、BLACK★WITCHESの麻耶が腕を組んで壁にもたれている。
わたしが前を通ると、顔をあげる。
この子も怪力だけが武器の二流のWITCHEだった。
でも、BLACK★WITCHESで宝具であるボクシンググラブを与えられてLOVE★WITCHESと渡り合った。
その途中で宝具に認められて、今はWITCHEとしての実力を認められている。
特に同じ宝具使いとして、愛梨先輩には特にしごかれているっていう話だ。
前にBLACK★WITCHESで一緒にいたときとは、顔つきまで変わっているような感じがする。
「行くんだろ」
麻耶はすれ違いざまにわたしにつぶやく。
「うん、行くよ」
「そう、じゃあうちも行くよ。
美月は親友だし、このまま正憲に舐められたままっていうわけには行かないしね」
わたしの同意なんて求めず、わたしの後ろについてくる。
麻耶もわたしと同じなんだろう。親友をさらわれた怒りをぶつけるところがない。
言葉をかわさなくても、お互いの気持ちはわかる。
わたしは振り向いて微笑みかけ、拳をコツンとぶつける。
しばらく歩くと、ロリータファッションの幼女。
北の魔女ミイナ。最近デビューしたWILD★WITCHESのリーダーだ。
激しいダンスと不思議な歌声でデビューしてすぐにランキングでLOVE★WITCHESやBLACK★WITCHESに迫っている。
といっても、ただの新人アイドルではない。東都を征服しようとした北の七人の魔女の一人。
すべてのWITCHESをあわせても、上位に入る実力の持ち主。
戦いでは白い聖女沙織さんに負けたんだけど、メデューサアイっていう、4人のユニットリーダーを石化させたというデタラメなまでの力を持っている。
体術でも、野生の獣のような変幻自在の拳法を使う。
敵にしたらめちゃくちゃ大変だけど、味方としてはこれほど力づよい子はいない。
「どこにいくの?」
「わかってるでしょ。美月を助けに行くの」
「じゃあ、わたしも行く。美月には恩返ししないとだめだし…お菓子とかくれるし…」
そう、美月の不思議な涙が石化した彼女をもとに戻した。
それだけではなく…どこに持っているのかいつでもお菓子を出してくる美月に餌付けされているのか、沙織先輩と美月のいうことだけはきく。
まるで、猫みたいな子だ。
それだけに、この子も美月がさらわれたことを許せないみたい。
北の世界の暴虐の王の一人、その巨大な闘気が外に漏れ出している。
「じゃあ、わたしも行く」
まるで遠足にいくかのように、トテトテとわたしの後についてくる。
わたしは無言でうなづいて、2人の前を外に向けて歩き続けた。
「おれもいくぜ」
前に、DEEP★BLUEのギターの子。ユウヤだったっけ。
有無をいわさず私たちの後をついてくる。
麻耶がユウヤの横に行って、話しかける。
そういえば、彼らは魔獣学園で美月と同級生だった。
見たことはないけど、かなりの実力者だって言う。
美月の求心力はすべてを惹きつける。
あの訳のわかんない力だけじゃない。この人を惹きつけることも私がかなわない点だ。
そういうわたしも、初めて会ったときからチーム美月だ。
アイドルにこだわったわけではない。美月の近くにいたかっただけだ。
たぶんみんなも同じ気持ち…
美月がほっとけないんだ。
バカでお調子者でどうしようもない子だけど、わたしたちにはかけがえの無い子。
それぞれ、考え方は違うけど、みんなの思いは同じだと思う。
わたしたちチーム美月の初陣だった。