25 空知天膳
春香と私は、前に進む。
他のところはまだ戦闘中…
わたしたちが先に、あの怪獣に乗り込む。
たぶん、強敵は3人だけ…あとはあの怪獣使いだけ…
その前に一人の男が、進み出る。
あの人…みたことある。
たしかファンタジーパークで、悪役を演じていた人…
ドクター空知だ。
わたしたちのビデオの撮影の出演してくれた有名な俳優さんだ。
「あっ…」
「こんにちは。また会いましたね」
「こんにちは。あの時はどうも」
わたしの黒歴史のひとつだ。わたしはビデオの撮影を本当の戦いと勘違いして、機械を壊したりして…
とにかくLOVE★WITCHESに語り継がれるバカな大失敗だった。
今考えても、恥ずかしくて顔が赤くなる。
「空知さんですよね。俳優さんの」
春香も会話に割り込む。
「春香ちゃんだよね。昔、共演したの覚えている?」
「覚えてます。空知さんの演技って、すごかったから」
「ありがとう。でも春香ちゃんの演技もさすがだったよ。天才子役って言われてもたいしたことのない子もいるけど、本物だったね」
「ありがとうございます。空知さんにそう言ってもらえると嬉しいです。
それで、なぜこんなところに?」
「そうそう、一般人は避難してください。ここは危険です」
空知さんの役であるドクター空知は相手をどこかに飛ばす力を持っていたけど…
それはテレポートする機械の力であって、空知さんの力ではない。
わたしが騙されたくらい迫真の演技だったんだけど、空知さんになんの力もない。
「いえ、ちょっと仕事でね」
「撮影ですか?でも中止してください。他のスタッフはどこに?」
「わたし一人だよ」
「それじゃあどうして?」
「美月さん、あの時の力…覚えてますよね…
あれが機械の力なら、その機械は実用化されているってことですよね。
じゃあ、なぜ戦いで使わないんでしょうか」
「えっ?それは試作品で、まだ…」
「そういうふうに言ってもらったんです。あのテレポートの機械はハリボテです」
「まさか…」
「それが、私自身の力。魔獣ラプラスの魔です。空間を自由に操ることが出来る力。
あなたがたの中にもそういう力を持った魔女がいましたよね。
しかし、あれは児戯に等しい」
わたしと春香は空知から離れようとする。
「わたしは空知天膳。魔獣王十二使徒のひとり…
姫を迎えに参りました」
大仰に礼をする空知。まるで、舞台で騎士を演じるかのように…
「姫って…まさか…」
わたしは、春香を見る。
「いえ、あなたですよ。海崎美月さん…ちょっと失礼」
後ろから声がする。
振り返る間もなく、わたしの首筋に衝撃が走る。
わたしは、そのまま暗闇の中に落ちていった。