22 胡桃VS後鬼
人間サイズの鬼の前にゆっくりと胡桃が出る。
半身になって構える。まるで、予測のできないすべるようなフットワークで胡桃距離を詰める。
胡桃は格闘技にかけてはLOVE★WITCHES一の実力者。
少しくらいのリーチの違いは関係ない。
そのスピードで相手の懐に入り込むと無敵の連続パンチ、ライトニングラッシュを見舞う。
その必勝の方程式で数々の強敵を葬ってきた。
慎重に距離を測る胡桃に対して、野獣のように身構える鬼。
構えとかはないが、隙があるわけではない。
鬼は、武闘家である胡桃の構えに、安易に手を出してこない。
こいつも格闘なれしていると考えたほうがいい。
ただの力押しをする魔獣ではない。
野獣のような構えから爪を振り下ろす後鬼。
胡桃は素早く身を引いて距離をとる。
胡桃の口の端がすこし持ち上がる。相手との間合いがわかったんだ。
胡桃がギュッと拳を握る。
ほのかに青く光り始める指出しグローブ。
その光はまわりの光を集めるように光を強める。
そのまま、相手の隙をうかがうようにフットワークを使って相手の懐に飛び込んでいく。
後鬼もその動きに素早く反応する。野獣の動きで爪を振り下ろす。
まるで爪が胡桃を擦りぬけるように見えるくらい間一髪で避ける。
相手の動きは胡桃に見えている。そうでないとこんなかわし方はできない。
大きく避けると攻撃体勢を整えるのが遅れてしまう。
胡桃は最低の動きで避け、前に出る。
後鬼も一撃では終わらない。二の手、三の手を繰り出してくる。
でも、胡桃の目にはたぶんスローモーションにしか映っていない。
格闘センスと拳に魔法を込める能力が胡桃の力だと思われているが、本当はこの目がいちばんの武器。
格闘技や拳に魔法を込める能力は研修所で持っている子もいた。
でも、一番相手の近くに踏み込まなければならない格闘系は武器や遠距離攻撃のわたしとちがって相手の攻撃を受けていたら務まらない。
すぐに相手の懐まで入り込む。それから相手のまわりを回るようにして隙をうかがう。
わたしたちのやっているのはボクシングじゃない。後ろに回り込んで相手を倒すのもありなのだ。
後鬼も正面に胡桃を捉えようと方向を変え、簡単には後ろに回り込ませない。
胡桃にここまで攻撃させない後鬼もそれだけ強いとも言える。
胡桃もすこし手を出し始める。距離を確かめるようなジャブ。まっすぐに右手を伸ばす。
青い光がまっすぐな直線を描く。
その残像しかみえないパンチのスピード。
相手の攻撃は当たらない。胡桃に比べたら大ぶりな攻撃を繰り出す。
普通は体勢が崩れるはずだが、野獣の動きで隙を作らない。それが反面トリッキーな動きとなって、胡桃の攻撃を躊躇させる。
でも、攻撃に転じなくても、胡桃は確実に距離を詰めていく。
まだ、ライトニングラッシュの距離じゃないけど相手の懐に入り込んだまま離れない。
相手の動きにあわせて動く。相手が出れば引く。引けば出る。
まるで相手とつながっているかのように一体化する。
社交ダンスのパートナーみたいに。
後鬼の爪が胡桃を襲う。
すこし大ぶりになった動き。
避けながらもその動きを胡桃は見逃さない。
そのまま、前に出る。もうそれは胡桃の距離。
胡桃はいきなりマシンガンのようにパンチを繰り出す。
無数のパンチが後鬼を襲う。ライトニングラッシュ。もうこうなると相手は反撃すらできない。
ただパンチを受け続けるだけ…
静止した後鬼はパンチに身を躍らせるだけ…
そして、フィニッシュのパンチが決まった途端、巨体は後ろに大きく飛ばされ、地面にバウンドした。