21 希美VS前鬼
希美は大剣を横に持って走り出す。
これが、希美が正統な継承者である大導寺流剣術だ。
もともと、騎馬と戦うための力…馬の足を斬る剣術だったらしい。しかし、現代の魔法戦では騎兵の活躍する場はない。
当然、希美の剣術は時代おくれのものとなる。しかし、その剣法は進化を遂げてきた。自分より巨大な敵と戦う剣術へと。
それに、希美は現代の天才剣士である麻衣先輩の剣術を学んでいる。
デビューしたときと比べても、その剣術は迫力を増しているのがわかる。
その、対巨人の剣術が地を這うように前鬼の足を狙う。
巨大な敵は足を狙う、これが定石。
地球の重力から考えて巨大な敵ほど足がもろい。
そして、足を崩せばその巨大さの有利さは半減する。
地を這うような大剣、それは巨人にも有効。
前鬼はその剣に避けるために飛び上がる。
3メートルくらいの巨体にしては、軽やかな動き。
さっきの御札みたいなのから出てきたから、軽いのかな?
鋭い爪で希美に襲いかかる。
希美も素早くそれを避ける。それも人間業ではない。自分の体重より重い剣を振り回しながらも、それに引きずられることなく、自由に動ける。
本当であれば、大剣に振り回されるのが関の山なのに…
逆に前鬼の腕を斬りつける。
前鬼もその腕を素早く退く。この巨人と幼女は互角の勝負。
希美は小太刀も使うが、この敵には小ワザは通用しない。
とにかく、力対力で正面から戦う。
でも、希美は一子相伝の大道寺流後継者。栞とこの子のような古来の技には様々な奥義がある。
希美の目は、この強敵にも怯んでいない。なんらかの勝機を見出そうとしている。
大きな鬼と互角に戦う希美。でも、鬼の実力も本物。いままで、この鬼以上に大きな敵はいたけど、それは大きさのみが武器。前鬼は大きな身体の不利を感じさせない。武道の達人の動き。繰り出す攻撃は、どれも鋭い。いままで戦ってきた敵とは全然違う。これが、LOVE★WITCHESが以前手こずった最大の敵、魔獣王の仲間なんだ。
前鬼のパンチは、地を砕き大きな穴を開ける。蹴りは風圧を伴い、その真空が希美の頬を切る。それほどの鋭い攻撃。
希美の剣も負けてはいない。そのパンチやキックを受け止め、弾く。
あとは体力勝負。
しかし、それは希美が不利。小さな身体で大きな剣を振り回すんだ。だんだん、疲れてくるのはわかっている。
希美の肩が上下している。さすがにこれだけ動き続けるといくら希美でも疲れは隠せない。
それに比べ式神という存在の前鬼の攻撃は全く衰えない。
鋭い攻撃を休みなく繰り出す。
次第に防戦に回るしかなくなる希美。
胡桃は後鬼と戦っているし、栞は陰陽師を牽制している。
交替はできない。
巨人の腕が希美に襲いかかる。大剣を持ったまま避けるのはもう限界になっている。
余裕で避けていたのに、今は間一髪だ。
希美を前鬼の爪が襲う。受け止める希美の剣がすこし遅れる。
この戦いはそれが致命的となる。一瞬の隙が命取りとなる。
弾かれる大剣は宙を待って、希美の遥か後ろに突き刺さった。