16 斉天大聖
「さ…猿じゃん」
おどろくほどに猿だった。大きいわけでもなく。普通サイズの…
猿回しとかで使われそうな日本ザル。
コミカルに棒を振り回して、わたしに歯をむく。
拍手をしたくなるくらいの芸。
「美月、油断するんじゃないよ」
「ラジャ」
でも、そう言っても。猿だし。まあ、楽勝かな。
かわいそうだけど、簡単に片付けちゃおう。
わたしは光球を展開。猿に降らせる。
しかし、猿はすべての光の玉を躱してしまう。
「美月、真面目にやって。こいつらハンパないよ」
マントの男と戦いながら春香がわたしに叫ぶ。
「よくわかっているね。わたしはハマヌーン。魔獣王の12使徒の一人。
神使いと呼ばれる魔獣使いだ。
そして、わたしの相棒は斉天大聖。孫悟空と呼ばれる猿神だ」
マントの男が名乗る。
孫悟空って…あの最強のお猿。筋斗雲とか乗って魔王とか倒した…子分は犬と雉だったっけ?思い出せないけど…
やっぱり、こいつら。普通じゃない。神級の魔獣使い。それに魔獣の力と魔獣使いの力は比例するって言う。
魔獣が強ければ強いほど、魔獣使いも強いって研修所で習ったことある。
魔獣使いハマヌーンに対する春香。宝具使いの春香が軽くあしらわれているような感じ。
まるで、中国拳法の動き。猿拳っていうのか猿の動きを模した感じ。
変幻自在でとらえどころがない。
こっちは本物の猿。すばしっこくて光球を全て躱してしまう。
それだけじゃない。棒を振り回して攻撃をしてくる。
やばい。この棒。長さが変わってない?間合いがつかみにくい。
わたしは間一髪でよけることしかできない。
やっぱ、いままでの魔獣と違う。わたしも春香も押され始めているのがわかる。
獣は火が苦手。赤の球から炎の魔法を使う。
逃げる猿。やっぱ苦手みたい。
遠巻きにわたしを睨みながら指笛を吹く。いきなり現れる小さな雲。猿はそれに乗る。
これって筋斗雲ってやつなの?
「美月っ。そっちはやばそう。とりあえず持ちこたえて。
魔獣使いはただの拳法家。こっちを倒すほうがてっとりばやい」
春香が戦闘を分析する。そう、春香の判断はいつだって冷静。
「うん、春香、任せたっ」
防御だけなら、こっちはなんとかなる。
わたしは赤い球を中心に私の前に光球を集める。
春香は絶対にあいつを倒してくれる。
わたしはそれを信頼するだけ、目の前の猿を睨みつける。
あと、こいつを春香のところに行かせない。
足止めもわたしの役目。
「さあ、そろそろ本気を出すわ。
本当は宝具は魔獣相手の武器。
人間相手に使いたくないんだけど、そうも言ってられないみたい。
仕方ないわ。ビーナス覚醒!」
円月輪がまぶしい位に光りだす。
「呼んだ?相手はこいつ?ただの人間じゃない?この程度あんたが相手しなよ」
円月輪が言葉をしゃべる。
そう、春香の宝具は宝具の女王ビーナス。誇り高く、そして…性格が悪い。
これも、春香じゃないと使いこなせない理由。
「ふぅん、いいの?使えない武器はトイレ用洗剤で洗って放置してあげるんだけど…」
「そんなの錆びちゃうじゃん…」
春香はこの武器を本当は大事にしている。魔法の力を持たない春香がLOVE★WITCHESにいるのは、宝具のおかげだから。
そして、本当はこの武器が好きだから…
ひまがあれば、円月輪を磨いているのは知っている。
「あーあ。仕方ないなぁ。やってやるよ」
円月輪は光輪となる。
「じゃあ、行くよっ」
春香は新体操のフープのような動きで、光輪を扱い始めた。