16 回想
駅前の雑踏。
安っぽい電子ピアノを前にわたしは歌う。
彼と過ごした日々・・・・
心のどこか一部が剥ぎ取られたような別れ・・・・
空っぽになった心・・・・
それを自分の歌にのせる。
周りを取り囲む人の輪・・・
だんだん密になっていく。
隣でギターを片手に歌っていた2人組。
それも手を止めてわたしの歌に聞き入る。
いつの間にか常連のファンもできていた。
でも、デビューとかそういうことを考えてってわけじゃない・・・
ただ、何かしなくてはやりきれないだけ・・・
最後の曲が終わって、
ピアノを片付け始める・・・・
アンコールの声・・・・
でも、わたしはそれには答えない・・・
いつでも、そうだった・・・
だから、いつの間にか人の輪はほどけていく・・・・
今日は一人のサングラスをかけた女性が残る。
わたしに近づいてくる。
只者ではないオーラを放っている女性・・・
わたしは片付けを止めて顔を上げる。
微笑む女性。
「ねぇ、すごい歌うまいね」
わたしに話しかける。
「ありがとうございます」
無愛想に答える。
別に聞かせるために歌ってるんじゃない。
「でも、悲しい歌だね」
わたしは彼女を見る。
微笑む女性。
「そんなふうにしてても彼は喜ばないと思うよ。
いつか帰ってくるよ。
きっと・・・・」
わたしの心の叫びを聞かれたように、
彼女は話し出す。
「うるせえな」
わたしは、彼女にそう答えるしかできなかった。
「もしよかったらここにおいでよ。
同じような子、いっぱいいるから・・・」
すべてを見透かしたような微笑で彼女は名刺をわたす。
そこには
LOVE☆WITCHES
リーダー 神代 卑弥香
と書いてあった。
わたしは、ピアノを片付けながら、
彼女の後ろ姿を見送った。
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「朱雀さん・・・」
わたしを取り囲むレディスたち。
どいつもこいつも派手なメイク。
「なんだい」
わたしは、その中心にいる女の前に立つ。
わたしたちの溜まり場になっているクラブ。
古く気だるいロックが流れている。
「みんなで相談したんだけど・・・」
ざわざわと周りの子たち・・・・
「だから?」
「もう、朱雀さんにはついていけないってことになって・・・」
わたしをじっと見る。
「そうなんだ・・・・」
「やる気ないみたいだし・・・
そろそろ引退してもらおうかって思って・・・・」
その女は身構える。
最近、グループに入ってきて幅を利かせてる子だ。
その後ろにフォースを使える子が2、3人いる。
「・・・・・」
沈黙するわたし・・・・・
見回すと、みんな目を反らす。
そう、ここはわたしの居場所じゃなかった・・・・
ただ、あいつのためにここを守ってただけ・・・・
東都内でもお嬢様学校として知られる女子高に通うわたし。
ばれないように仮面までかぶって、
ここでの自分を作るわたし・・・・
それと駅前で歌うわたし・・・
3つの顔を使い分けていた。
もう、疲れたよ・・・・
彼を待つことに・・・・
わたしは下を見る。
「みんながわたしの方がリーダーにふさわしいって・・・」
勝ち誇ったように言う子・・・・
「そう・・・・・」
わたしは、ほっとしたように呟く。
「もし、なんだったらきちんと決闘してでもいいんだけど・・・」
わたしが、言い返さないのいいことに調子に乗る。
この程度の力の子に、こんな舐めた口を聞かれるなんて・・・
以前のわたしなら、容赦しなかった。
「だったら、いいよ・・・」
わたしは、彼女に背中を向ける。
そして、ドアに向かって歩き出す。
仮面をとって後ろに放り投げる・・・
そしてドアから出て行く・・・
一度も振り返ることはなしに・・・・