10 魔獣王の指令
「ハマヌーン」
魔獣王は、使徒の一人を呼ぶ。
猿の使徒がどこからともなく現れ、魔獣王の前に膝をついている。
「今回の東都襲撃を、相手は奇襲と思っているだろうね」
「たぶん…」
「態勢の整わないうちに、かき回して優位に立つ。
そう考えるだろうね。フフ」
「それで、わたしは…」
「この襲撃の狙いは、この子だよ。
この子をわたしの前に連れてきて欲しい。
それが、この襲撃の目的だ」
「わかりました」
「この子はソロモン王の末裔。わたしたちの姫だ。
今回の戦いは姫を手に入れればそれでいい。
そして、わたしが姫を覚醒させる.
それが、この戦いの目的だ」
「……」
「能力のあるものが、東都を治める。
そうでなくては、この都は守れない。
能力者が英雄となれる世の中でなくてはね。
そのためには、圧倒的な王が必要だ。わたしでも役不足なくらいにね。
まあ、一度は魔女たちに、東都を任せようとも考えた。
十二使徒全員が揃わなかったとはいえ、私を出し抜いた相手だからね。
だが、あの子の力が覚醒しかけている。
あの力は魔女たちでは抑えきれない。
だから、わたしは再び起つことにした
姫を女王といだくために」
魔獣王の目の前から、いつのまにか猿の使徒は姿を消している。
まるで、煙の如く消え失せている。
「姫…って、一体」
その話は、偶然にも正憲の耳に入る。
今回の作戦には、正憲は直接関わっていない。
まだ、魔獣王も仲間になって間もない正憲を図っている部分があるのだろう。
正憲には、もう1人の使徒が張り付いていた。
「魔獣姫のことさ。
魔獣王は4体の魔王を使役する。
しかし、魔獣姫は7体以上の魔王や神獣を使役するということだ。
まあ、本当にそんなことができる姫がいるのかわからないけどな」
戦士風の使徒が答える。使徒は黒いマントを羽織っているが、使徒の中でも体格がいちばん大きな男。
どんな魔獣を扱うかはわからない。
その堂々とした態度からは、魔獣王に近い風格を感じる。
しかし、正憲には複数の魔人を使う一人の魔女を知っていた。
姫と言うには程遠いし、魔獣王よりも強いとは言えないが、正憲にいちばん近いLOVE★WITCHESメンバー。
バカでおせっかいなあいつだ。
まさかね。
正憲は美月のことを思い出してクスッと笑った。