01 プロローグ
海に浮かぶ様々な結界に囲まれた監獄。
奇岩島プリズン。一般的な囚人を入れる監獄ではなく、主に魔獣使いのための収監所となっている難攻不落の檻。
その中でも厳重に結界石に囲まれた部屋がある。
先の魔獣大戦において、魔王と呼ばれた男がそこに収監されている。
裁判の判決は死刑。
しかし、法の定める方法ではこの男は死刑にできなかった。
銃殺、電気椅子、絞首刑…
いろいろな方法が試されたが、この男を殺すことはできなかった。
そして、彼は地下深い結界石の檻に放置されていた。
その島をいきなり大きな波が襲う。
大きな地震はなかったはず。監視塔の男は双眼鏡で波の先を確認する。
その波の先には、大型客船のような黒い影。
この海域は、大型船の航路から外れているはず、それに客船とは違うフォルム。
まるで、潜水艦のような黒く頑丈そうな船体。
しかし、そんなに大きな潜水艦はありえない。
その、黒い影は島に猛スピードで向かってくる。
そのまま、島に体当りする。島が揺れるような地響き。
監視員はあわてて緊急警報のボタンを押した。
島には警報が鳴り響いている。あちこちで爆音が上がる。
奇巌島の最奥では、重い結界石の扉が破壊される。
怖された扉からマントの男が、その特別な独房へ入り込む。
その中には両手を鎖で繋がれた若い男。
「魔王さま…」
「待ってたよ」
両手に繋がれた鎖は、簡単に砕ける。まるで砂のようになって床に降り積もる。
魔王と呼ばれた男は、運動部不足を解消するように軽く肩を回す。
「僕をこんなところに閉じ込めようだなんて笑っちゃうよね。
まあ、おかげでゆっくりと休ませてもらったよ」
今来た男は、忠誠を誓うように膝をつく。
「遅くなって申し訳ございません」
「うん…」
魔王はうなづく。
そこに立つ男は魔王というにはあまりにも若く、華奢な輪郭をしていた。
長髪に薄汚れた白いシャツ、細身のジーンズ。
しかし、その身体に纏ったオーラは圧倒的な力を感じさせる。
まるで、生まれながらの王と言った風格とでも言うのだろうか…
そして、その目、見ただけで凍りつきそうな冷たい…絶対零度の視線だった。
膝まづいた男の身体に震え、発汗が見られる。
それほどまでの圧倒的な迫力を持つ男。
「リバイアサン、他の幹部たちは、揃っているの?」
「はい、みんな、魔王さまの帰還を首を長くしてお待ちしています」
「そうか。待たせたね。今度こそ、我々能力者の国を作ってやろう。力があるのに虐げられた者たちの国をね。
間違った力関係は正さないといけないんだ」
まるで気負いもなく世界の話をする。
しかし、紛れもなく彼が5年前に東都を恐怖のどん底に叩き込んだ魔王だった。
S級の魔獣使いを何人も従え、まるでゲームでもするように東都を蹂躙した。
東都を魔獣がおおう景色は黙次録に言うハルマゲドンにも例えられた。
「で、奴らは元気かな?」
「あの魔女たちですか?」
「うんうん、LOVE★WITCHESとか言ったっけ。
あの時はしてやられたなぁ。
可愛い子たちだったから、油断しちゃったね」
「東都の守護者を気取っていますよ。我々がおとなしくしているのをいいことに…」
「じゃあ、お返ししないといけないね。
倍くらいにしてね」
貴公子然とした整った冷たい顔で微笑む。
2人が進む先には、大勢の監視員が倒れている。
その中をゆっくりと歩いていく。
これだけの監視員を倒したもうひとりの男も只者ではないのが伺える。
2人は外に出る。魔王は久しぶりの太陽に大きく伸びをする。
付き従った男が手を上げると、海の中から、島のような巨大な海獣が現れる。
「ついでに、人助けでもしておこうか。
壊しちゃえ、ここ」
「わかりました」
2人が海獣の背に乗ると、海獣は大きく吠え、島に体当りする。
監獄の建物は崩れ、中から囚人たちが出てくる。
監視員も出てくるが、この監獄は凶悪犯と能力者だけの檻だ。
武装した監視員といっても彼らにしてみれば何の歯止めにもならない。
次々と監視員たちは倒されていく。
島中に警報が鳴り響く。
「みんな、乗れ」
囚人たちは、次々と海獣の大きな背に乗り移っていく。
囚人たちが海獣の背にに乗ると、大型客船のようにゆっくりと海獣は方向転換をして、東都に向かって進んでいった。