25 希美vsライア(1)
戦闘場所は、中央公園前の交差点。
いつもは、途切れることのない人、車の群れ。
でも、今は軍隊によって封鎖されて絶好のコロセウムとなっている。
スクランブル交差点の中央に立つ背の高い仮面の魔女。
春香と戦った、あの武人だ。
仮面を取り、仲間に放り投げる。
黒のストレートヘヤーに鋭い目。
巨大な偃月青龍刀を構える。
いきなり勝負をかけてきた北の魔女軍団。
たぶん、奴らの中でも最強の戦士。
ひとりでも負けたら、わたしたちの負け。
副将リディアに遊びはない。
考えられる限り、最善の一手を指してくる。
こっちから歩いていく小さな後ろ姿。
大道寺希美。
身体は小さいが、LOVE★WITCHESで麻衣先輩に次ぐ剣士。
自分の背よりも巨大な剣を振り回す。
麻衣さんが柔としたら、希美は剛。
あらゆるものを叩き伏せる剣。
交差点の真ん中までくると、背中の剣を抜いて正眼に構える。
無表情に相手を見る。
そう、人形のような可愛い外見だが、無口で無表情。
何を考えているのか、外見から読み取ることはできない。
それも希美の剣の奥義なのって言いたいくらい。
「われこそは、武神ライア。
小さきものよ。
手加減はしないが、それでいいか」
ライアが吠える。
こくんと顔を縦に振る希美。
こっちは名乗らない。
いいのか?それで。
希美がいきなり走り出す。
大きな剣を振りかぶったまま、飛ぶ。
どこにそんな力があるのかっていうくらい。
麻衣さん曰く、要は力の使い方。いくら重い刀でも関係ないらしい。
そのまま、ライアに向かって振り下ろす。
相手はよけない。
偃月青龍刀を構える。
真っ向から立向かい、力でねじ伏せる。
それが、武人ライアのスタイルだった。
武器と武器がぶつかり、金属音とともに静止する。
どちらの勝ちでもない。
拮抗した力はただ物体の運動を止める。
武人はニヤリと笑う。
希美も不敵に笑う。
刃先同士を接触させている武器たち。
一ミリでも狂ったら、戦闘のバランスは崩れる。
剣の奥義は、相手の態勢を崩すことと言われる。
この達人たちは、お互いにぎりぎりのところでそれを防いでいる。
どちらからでもなく、剣を払って離れる。
そのまま静止していても勝負は決しない。
仕切り直しだ。
今度はライアの方から、青龍刀をついてくる。
希美の力はわかっている。だから、最小限の動き、突きで攻撃する。
希美は、大剣を構えたまま動かない。
いや、片手は腰の短刀の柄に添えている。
大道寺の奥義は短刀にあり。
この前のBLACK★WITCHESとの戦いで見せた技。
希美の力は、剛剣だけでない。
一瞬の閃光のように刃がきらめく。
希美の短刀がライアの青龍刀の軌道をずらす。
槍のように長い武器は、一度躱されると次の攻撃に移れない。
希美は片手で大剣を振り回す。
もう、青龍刀でうけることはできない。
でも、希美も片手で大剣を扱っているので普通ほどの技のキレはない。
すぐに引いた青龍刀で、間一髪防がれる。
これが、剣豪の戦い。普通の人には、彼女たちの細かい動きは見えない。
ただ、2回剣を交えただけに見える。でも、その中には無数の駆け引きがある。
ひとつ間違えたら終わってしまうくらいの…
その後も何回か同じような攻防は続く。
相手の力は、その刀を振り回す速さ。スイングスピードだ。
変幻自在に攻撃を繰り出してくる。
今のところ力は互角。
たぶん、ちょっとした違いが勝敗を分ける。
希美の顔に焦りが見える。
相手の攻撃は変わらない。しかし希美の攻撃に冴えがなくなってくる。
それは体力の差。あの小さな身体で、大きな剣を振り回すんだから、持久戦には弱い。
ライアが連続して青龍刀を払う。
その攻撃を受けそこねた希美は、大きく弾き飛ばされた。