13 完敗
ぼんやりとした視界。
暗闇から意識が戻る。
そうだ。あいつら。行かなきゃ。
東都が…。先輩たちが来るまで、持ちこたえないと…。
身体が動かない。でも、闘争心だけは持続している。
胡桃、春香…
ここはドコ?
わたしの視界が、ぼんやりとした抽象画からはっきりとしたものになっていく。
これはさっきのお店。
だったら、さっきのは夢???
わたしたちを簡単にあしらった敵。
夢落ちであればいいのに。
でも、麻痺した身体と二の腕の痛みは、さっきのが現実だって教えてくれる。
動かない身体で、目だけでまわりを見る。
私の隣には胡桃、春香が横たわっている。
「あ……」
春香って呼びかけようとしても声にならない。
「気がついた?」
わたしを覗き込む結花さん。
そういえば、さっきこの人がやつらに立ち向かったような気がする。
何者なの???この人???
やさしそうな人、いつも笑っているような細い目。
すごく普通の人に思えるのに。
「あ…あの…」
「大丈夫。春香も胡桃さんも無事よ。
あなたも針に塗られた毒が効いてるだけ、死ぬような毒じゃないわ。
麻痺させるだけの毒。少ししたら良くなるわ」
「でも、あいつらは…」
「行っちゃったわ。とりあえずあなたたちを助けるのが先決」
「じゃあ、東都は…」
わたしは起き上がろうとする。
「さあ、でもあなたたちの仲間がいるんでしょ?」
「で…でも…」
「信じるの。少なくともわたしは信じているわ。
あの人さえいたら東都は大丈夫ってね」
「あの人って…」
「秘密。でもあなたの良く知ってる人かもね」
「結花さん!」
春香が上半身を起こす。
気がついたみたいだ。
「春香。気がついた」
「行かなきゃ」
「無理よ。その怪我で…」
わたしと違って、春香は奴らとの肉弾戦をしている。
たぶん、骨の一本や二本はやられているはず…
よろよろと立ち上がる。
でも、初めて立った赤ちゃんのように足がもつれる。
「でも…でも…」
春香が涙に濡れる。わたしたちは完敗だった。
わたしたちの全力は小指の先でひねられたんだ。
「は…春香…」
わたしも涙がこぼれる。
いままで、こんなことはなかった。
もう、少しで勝てる…そう思えた。
あいつらには先輩たちでも、難しい。
わたしたちはそう感じたんだ。
だから、少しでも…あいつらの動きを少し止められるだけでもいい…
刺し違えるつもりで行けば…なんとかできるかもしれない。
春香もそう思ってるんだ。
だから…
「ききわけのない子ね。大丈夫よ。あなたたちの仲間を信じればいいわ。
ごめんね。あなたたちでは殺されておわりよ」
春香の近くに結花さんが行き、春香のお腹にパンチをめり込ませる。
また、ぐったりする春香を結花さんは横たえる。
なんなの?この人。なにげにむっちゃ怖い。
「おやすみ。春香ちゃん」
わたしもそのまま動かない身体で涙をこぼし続けた。