07 北の戦鬼カーリー
「ねえ、リディア。わたしも行ってきていい?あそこにいいおもちゃをみつけたんだけど」
もう一人の仮面が騒ぎ出す。
「どうせ、行くなって言っても行くんでしょ」
副官はやれやれというように手を広げる。
「わかってんじゃん。
じゃあ、行ってくるね」
次の仮面も身軽に魔獣から降りていく。そっちの方向は…。胡桃がいる方向だ。
胡桃もその気配を感じて迎え撃つ。
ファイティングポーズをとる。胡桃の構えは隙がないって言われる。
攻防一体の構えだ。
そこに突っ込んでいく仮面の敵。
無防備な姿勢で…
たぶん、胡桃を舐めたんだ。胡桃のリーチの範囲内に入ったら、吹っ飛ばされる運命。
空中では軌道を変えられても、しれている。
完全に止まることはできない。
勢いのついた身体は、格好のカウンターの餌食となる。
胡桃の得意なのもそれ。ハードパンチャーの上に正確に相手の力を利用する。
胡桃の拳が青白い光を纏う。
体術だけでなく能力者でもある。もう、この体勢なら一撃必殺。
でも、敵はそれに気がついていない。
猛スピードで、時々魔獣の身体を蹴って加速する。
相手がどんな強者かわかんないのに。
胡桃のもとに舞い降りる仮面の女。
胡桃のパンチが下から突き刺さると思った瞬間。
胡桃の方が飛び退く。
仮面の女が舞い降りた道路にクレーターができる。
なんて破壊力なの。
胡桃が逃げなかったらどうなっていたかわからない。
「チッ…」
舌打ちをする仮面。
胡桃は相手の出方を待つように構える。
でも、相手の力はわからない。とんでもなく強いってことしか。
「あんたも武闘家ね。東都の拳って強いの?ねえ」
胡桃に対して緊張感のない仮面の女。
「私はカーリー。北の戦鬼って言われている。今はミイナ様に仕えてるんだけどね。
強い奴と戦わしてもらえるからね」
「わたしはLOVE★WITCHES、藤崎胡桃。ライトニングラッシュって呼ばれている」
口数の少ない胡桃は簡単に自己紹介する。
「ふうん、で?楽しませてくれるの?あなたは」
「戦いなんて楽しいものじゃないよ」
「とりあえず、そのライトニングラッシュっていうの見せてもらおうかな」
「わたしの技は見せ物じゃないよ」
「そう?つまんない奴ね。まあいいわ」
無造作にパンチを繰り出してくるカーリー。
胡桃はそれを青い拳で叩き落す。
でも、連続で攻撃を仕掛けてくる。かなり速い。ジャブの応酬だけど、一般の人には見えないレベル。
それにだんだんと胡桃の顔が険しさを増してくる。
それに比べにやけた顔のままのカーリー。まるで、獲物をいたぶるようだ。
「遊びは終わりだ」
胡桃の拳にまとう青い光が強くなっている。エネルギー充填完了。胡桃の技は一種のタメ攻撃。
拳を動かすたびに力が溜まっていく。そして、それを一気に放出することで相手を倒す。
「そうこなくっちゃ」
「ライトニング、ラッシュ」
胡桃の青い拳がいく筋もの光の線になってカーリーに突き刺さる。
たぶん、相手も相当の使い手だったんだろう。でも、相手をナメすぎ。わたしたちは、いくら弱い相手にでも全力を尽くす。
ラッキーパンチを食らうのは、運が悪いんじゃない。自分に負けてるんだ。これが、美那子さんの教え。
だから、手抜きの戦いをした時はすごく厳しい。運なんてもので、仲間を失いたくない。そういうことなんだ。
ボロボロになって吹っ飛ぶ敵…
えっ、吹っ飛ばない。
信じられないものを見るように目を見開いてる胡桃。
その前には、相変わらず舐めたような笑みを浮かべるカーリー。
その姿は異形のものとなっていた。
華奢な肩から伸びるのは3本づつの腕。合計6本の腕。
「まいったわ。6本の腕を使うなんて久しぶりだよ。ミイナ様と戦った時以来かな。
でも、これでおまえの技はおしまいだろ。
今度はこっちの番だね」
6本の腕が無数のパンチを繰り出す。
固まる胡桃には、それを叩き落とす力はない。
両腕でガートするだけ…
そんなので防げる攻撃じゃない。
胡桃の身体がマシンガンに打たれたように何度も跳ねる。
最後のパンチを受けた胡桃はボロ雑巾のようになり、吹っ飛ばされた。