02 休日
久しぶりの休日。だんだん休みが少なくなって来ているような気がする。
美那子先輩は休みも仕事のうち、ゆっくり身体を休めるようにって言うけど、私達にそれは無理。
グルメとショッピングが私達を待ってるぜ!
っていうように久しぶりの休みは胡桃と春香と町に繰り出した。
「美月っ。わたしたちは有名人なんだから。もし、まわりにばれたらすごいことになるんだよ」
お目付け役は春香。
「でもさぁ。せっかくお給料とかもらったのに、使う機会とかないじゃん」
「将来のために貯める。いつまでもアイドルなんてできないんだからね」
「でもでも、ランチくらいいいじゃん。たまにはさ~」
「本当にたまにはだよ。美月って休みたんびにどっか行こうとするじゃん。たまには、自分を振り返ってみるとか、歌とかダンスの弱点チェックするとか、やることあるでしょ。ただでさえ覚えが悪いんだから。このまえのバラエティでも、台本全然覚えてないじゃん」
「だから、バラエティは行き当たりばったりのほうが面白いじゃん」
「ちゃんとプロが書いた台本があるんだから、そのとおりしなくっちゃ。よけいなこと考えなくていいの」
「でもでも、すごい受けてるよ。美月のアドリブ」
「それ、馬鹿なだけでしょ。この前の食レポだって、"甘ひ~""おいしひ~"だけじゃん」
わたしの真似をする春香。世間ではわたしの物まねとか流行っているらしい。
「だから、食レポの練習」
「もう、美月にはかなわないよ。じゃあ、わたしの知ってるお店でいいよね。芸能人が行っても騒がれない隠れ家みたいなとこ」
「うん、美味しいランチがあればどこでもいいし」
春香について歩いてくると、懐かしい風景。
それはあの死闘があった魔獣ビルの前。
東都一の繁華街の中で、ここらへんだけ人通りが少ない。
魔獣ビルと呼ばれているけど、元は丸十ビルという名前で。
東都の財閥である丸十グループが立てた東都で最大のビルだったらしい。
天にそびえる建物。最初は神への挑戦とか言われたらしいけど。
どこからか入り込んだ能力者たち。それに瞬く間にビルは支配されてしまった。
上に行くほど、強い能力者がいる。そして、能力者たちはビルを勝手に建て増しして、現在の異型のビルとなってしまった。
ビルの上の方は霞んで、どうなっているのかわからない。実際、何階建かもわからないし、調べることもできない。
「ここらなら、私たちのことわかっても騒ぐような人たちはいないの。
だから、案外、芸能人とか多いんだよ」
やっぱり春香は、名子役とかやってて、芸能生活が長いだけあって、いろいろなこと知っている。
「ここだよ」
魔獣ビルの向かいの古びた建物。その地下のレストランに降りていく。
古びたビルだけど、中はちゃんとした内装で、おしゃれなお店になっている。
春香曰く、ここらへんは賃貸料が安いから、安くておいしいお店が集まるらしい。
「こんにちは」
慣れた感じで入っていく春香。
「いらっしゃい。春香ちゃん」
カウンターの中の髭面のシェフも気さくに声を掛ける。
「友達、連れてきたよっ」
「いらっしゃいませ」
愛想のいいエプロンが似合う女の人。
「春香ちゃんじゃない。こっちの子は…」
わたしを見る。
「きゃあ♪美月ちゃんと胡桃ちゃん。LOVE★WITCHESが2人も」
「わたしもだよっ。だから3人。結花ねえ。なんか美味しいもの食わせてやって」
結花ねえと呼ばれた女性。春香とどういう関係???
「じゃあ、腕によりをかけて。あなた。頼んだわよ」
髭面のシェフはうなづいて、何かを作り始めた。