10 氷室優菜
20階まで、あと5階
薄暗い階段の踊り場にある数字は
15階を示している。
もちろん、電気なんて壊れている。
15階に何か人影。
そろそろ、何か仕掛けてくるころだと思っていた。
たぶん、下にいた雑魚とは違う。
気を引き締めるわたしたち。
それと、20階に向けて先輩たちの力を温存しなくては・・・・
胡桃とわたしが美那子さんの前に出る。
とりあえず、私たちが確認しないと・・・・
新メンバーだからねっ。
美那子さんに全部戦わすわけにはいかない。
どんな敵かわかってから、先輩たちにふればいい。
階段から見下ろすブルーの水着の女。
暗くて顔はわかんないけど・・・・
輪郭で誰かわかる・・・
えっ。
優菜・・・・
そう、優菜がわたしたちを見下ろしている。
よかった、助かったんだ。
わたしと胡桃が駆け寄る。
でも・・・・
無表情な優菜・・・
こっちに手をかざしてくる。
まさか・・・
「胡桃っ、気をつけて!」
「フローズン、ナイフ!」
優菜の手から白いつららが放たれる。
そして胡桃を襲う。
胡桃はパンチでその鋭いつららを払う。
足元に落ちたつららはガラス細工のように砕ける。
「優菜・・・どうしちゃったの・・・わたしだよ。美月だよ」
優菜に問いかける。
優菜はゆっくりとこっちを向く。
うん、わかってくれたんだね。
でも、そうじゃない。
優菜はわたしの方に手をかざす。
「フローズン、ナイフ」
わたしの方にツララが飛んでくる。
「レインボーシュート!」
青い玉でツララをはじく。
だめだ。
これじゃ。
いいかげん気がついてよ。
でも、優菜の瞳は輝きを失っている。
表情も変わらない・・・・
まるで、ロボットみたい。
同期の中で胡桃とわたしと希美と栞はよくケンカしてた。
でも、優菜はいつも笑って、
その仲裁役をしていた。
誰も・・・あの希美でさえも・・・
優菜には逆らわなかった。
それは優菜が最強ってわかってたから。
その優菜が相手。
それもできるだけ無傷でやっつけないと。
たぶん、操られてるだけだから・・・・
「当身で気絶させるよ」
胡桃がわたしの方を見る。
「うん・・・」
光の玉で優菜の注意をこっちに向ける。
その隙に胡桃が・・・・
一瞬で胡桃の考えを理解する。
胡桃とはコンビネーションの練習とかしてたから、
わりと簡単に目で会話できる。
フローズンワールドがあるからちょっとでも触られたらだめ。
「レインボーシュート」
黒以外の玉を優菜に放つ。
たぶん、避けられるはず。
ちょっと手加減気味のスピードで。
優菜の注意はこっちに向けられる。
「フローズン、シールド」
優菜の手に氷のシールド・・・
それが七色の玉をはじき返す。
今だっ。
胡桃が猛スピードで横から回り込む。
「優菜、ごめんっ」
胡桃が優菜のボディにパンチを放つ。
でも、優菜はその手首を掴む。
しまった。
「フローズンワールド!」
胡桃の手が凍る。
でも、優菜の触れ方も甘い。
やっぱり、体術は胡桃のほうが上、
一瞬で離れる胡桃。
右腕が氷に包まれている。
一瞬であんなになってしまうなんて、
あらためて優菜のすごさを感じる。
味方の時はそんなに思わなかったけど、
敵にしたらヤバすぎってこと・・・
「やばっ」
胡桃は戻ってくる。
もう右の拳は使い物にならない。
「おまえら、甘いよ」
愛莉さんが胡桃の肩を掴む。
「さがってなっ」
愛莉さんと真奈美さんが前に出る。
愛莉さんは金槌を振り回す。
だめっ、優菜だよ。
操られてるだけだよ。
「まぁ、見てなって」
わたしの心の声が通じたかのように、
愛莉さんが振り返る。
「いくよっ。真奈美」
愛莉さんと真奈美さんが飛び出す。
いくら先輩でも、フローズンワールドを破ることなんてできないと思う。
でも、先輩たちが出ると、なんか安心感を与えてくれる。
愛莉さんは金槌を振る。
それは氷の楯に受け止められる。
真奈美さんは別の方向から長い足で蹴りを放つ。
別の手で払いのける優菜。
でも、真奈美さんの足をつかむこともできない。
愛莉さんは何度も楯に金槌を叩き込む。
だんだんボロボロになっていく楯。
そう、愛莉さんの槌は進化する。
だんだん攻撃力とスピードが増していくんだ。
しなる槌の柄・・・・
遅れたようにヘッドが飛んでくる。
この変則的な動きも愛莉さんの武器の特徴。
だんだん耐え切れなくなる優菜。
その隙に真奈美さんが懐にもぐりこむ。
真奈美さんを掴もうとする優菜。
そう、掴まれたらフローズンワールドの餌食。
でも、優菜の右手は宙を切る。
「わたしを掴むことなんて、できないよ。
ごめん、優菜」
真奈美さんは優菜のボディに手を当てる。
「気孔術、衝!」
気合とともに、優菜の身体がはじかれる。
手を相手にあてたまま、衝撃波を送る気孔術。
優菜はそのまま気絶する。
「大丈夫、ちょっと衝撃はあったかもしれないけど」
真奈美さんはわたしたちを安心させるように言う。
すごい、
胡桃とわたしのコンビネーションなんかと違う。
簡単にあの優菜を倒してしまうなんて・・・
後ろから沙織さん。
銀色のストレートヘヤーに白いマント。
光の巫女と呼ばれているメンバー。
美那子さんのチームだ。
倒れてる優菜の横にしゃがみこみ、
真奈美さんが衝撃波を当てたあたりに手をかざす。
白く光る手・・・・
ヒーリングだ。
メンバーでヒーリングを使えるのは沙織さんだけだ。
「うーん」
優菜の顔に生気が戻る。
うすく目を開けて周りをみる。
「優菜っ!」
声をかけると、わたしの方を見て微笑む。
「美月・・・わたし・・・・」
状況がつかめないようだ。
仕方ないよ。
何かにあやつられてたんだから。
「これで大丈夫だよ」
沙織さんが優菜に微笑むと、
優菜はゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫?」
胡桃が優菜を支える。
「うん、大丈夫。
ちょっと油断しちゃったみたい」
照れ笑いする優菜。
でも、無事でよかった。
「じゃあ、リベインジしなくちゃね。
倍返しでねっ」
微笑みながら言う優菜。
でも、これは優菜の怒っているときの目。
垂れ目がちだから、一般の人にはわかんないけど、
ずっと一緒のわたしたちにはわかる。
優菜が無茶苦茶おこってるの・・・・
そして・・・・
そういう時の優菜の怖さも知ってる。
「じゃあ、行くよっ」
優菜が先輩のあとに続く。
わたしと胡桃は顔を見合わせてその後に続いた。