01 プロローグ1
「金は?」
「ここに…」
男は銀色のアタッシュケースを開く。
そこには、ぎっしりと札束が詰まっている。
それを確認すると、もう一人の男が横から黒いアタッシュケースを机に乗せる。
金具を弾くと、ふたが跳ね上がる。
そこにはビニールにつつまれた白い粉。
「いちおう、確認させてもらうよ。
芥さんのブツは間違いないけどね。
取引のルールだ」
無造作にビニールの一つを開け、中の粉を少し取り出す。
匂いをかいで、ガラスのシャーレの上で水に溶かし試薬を入れる。
「相変わらず。いいブツだ。
さすがは麻薬取締官」
「南からのものだ」
芥と呼ばれた男も札束をめくりながら言う。
「また、お願いしますよ」
「ああ、情報さえ確かならな」
芥と呼ばれた男は麻薬取締官。
それからもう一人は暴力団の幹部だ。
対立組織の麻薬取引の麻薬取引の情報を流して、芥が摘発する。
それだけでなく、その取引のブツを横取りし男の組織に流す。
その暴力団は新興ながら、最近勢力を大きく伸ばしていた。
芥から麻薬取締りの情報も筒抜けだからだ。
2人はにんまりと笑う。
時代劇の悪代官と悪徳商人のように。
その目の前のアタッシュケースがいきなり火を噴く。
白い粉も札束も火につつまれる。
男たちはあわてて立ち上がる
「ハハハハハ…」
笑い声が倉庫に反響する。
「誰だっ」
声のするほうを男たちが見る。
周りを取り巻く黒服の男たちが懐から拳銃を取り出して一斉にそっちに向ける。
天井の梁の上に座っている赤い忍び服の女。
「天誅組、神楽。
おまえらを成敗する」
「なんだと。撃て」
銃声。
でも、うずくまるのは銃を撃った男たち。
そう、すべての銃は暴発を起こす。
腕を吹き飛ばされた者、破壊された拳銃の破片が突き刺さった者。
男たちの呻きが倉庫内を埋め尽くす。
「外の魔獣使いたちはどうした」
芥と幹部の男は、魔獣使いのボディガードを呼ぶ。
そう、魔獣使いには傭兵として闇の勢力に使われる者もいる。
ボディガード、何人分にも匹敵する力は、その世界では重宝されていた。
「あっ。外の奴ら?
あいつらなら、来ないよ。
もう、全員やっつけたからね。
あんなのじゃ、番犬にもならないよ」
赤い装束の女は笑う。
「あいつらが…」
それなりに傭兵の腕には自身をもっていた幹部は落胆を隠せない。
そう、彼らが勢力を伸ばすのに魔獣使いや魔法使いの能力は欠かせない。
新興勢力として、力をつけてきたのは、麻薬だけでない。
その武力もあってのことだ。
それが、簡単に倒されたと言うのだ。
「嘘だ」
「どうするんだ」
芥は震えるだけ。
地位を利用して私服を肥やす小役人には、もうどうすることも出来ない。
「そうだ、取引しよう。
外の番犬のかわりに、君を雇おう。
金は言い値で払う。
たのむ」
黒組織の幹部は、もう少し腹が据わっている。
女に取引を持ちかける。
女はそのとたん顔をしかめる。
男の腕が燃える。
のた打ち回る暴力団幹部。
「そろそろ祭りも終わりだよ。
全部、吐いてもらおうか」
女は天井から飛び降りる。
そして、芥に近づいていく。
芥は腰が抜けたようにその場に座り込み、震える体で女を見上げた。