19 頭領
真奈美さんに続いて、お城の中に入る。
お城というより忍者屋敷って感じ。
「上だよ」
無愛想な着物の女の子が、こっちも見ずに言う。
この子も忍者なの?
ちょっと構えながら、真奈美さんに続く。
真奈美さんは自分の家のように、入り組んだ廊下を歩く。
トントンと駆け足で階段を上っていく。
わたしたちも気をつけながらそれに続く。
磨かれた木の廊下、軋む音。
そういえば、わざと音が出るようにできてる廊下ってあるらしい。
ぐるぐる回って階段を上る。
もう、道なんて覚えていない。
「近道もあるんだけどね。
久しぶりだからどうなってるかわからないし」
真奈美さんは言いながら歩く。
「忍者屋敷なんだから、あたりまえです。
たぶん、どんでん返しとか縄梯子とか隠し通路とかあるんですよね」
春香はめずらしそうに、まわりを見回しながら歩く。
そう、何があるかわかんないから警戒心だけは持ってないと。
階段が4回。
5階…そろそろ…外観からみてそんなに高い建物じゃなかったし。
少し歩くと、大きなふすま。
「ここだよっ」
真奈美さんが小さな声で言う。
頭領。どんな人かわかんないけど、多分強い…
でも、真奈美先輩とわたしたちがいるんだから、いくら強くても大丈夫。
「真奈美です」
ふすまの向こうから声は返ってこない。
座ってふすまを開ける真奈美さん…
そしてその中に入る。
「お邪魔します」
わたしたちも、それに続く。
部屋の奥には、中年の長髪白髪の男性。
和服を着て、腕を組んで座っている。
モロにイメージどおりの頭領って感じ。
「ただいま戻りました」
真奈美さんは、その前に膝を立てて座る。
これも忍者っぽい。
「うむ…」
目を閉じたままうなづく頭領。
抜け忍って言ってた…真奈美先輩…
どうなるんだろう…
忍者の映画では、掟を破ったら死あるのみ…
わたしと春香は息を呑んで成り行きを見守る。
もし、先輩に危害をくわえようとするなら…
わたしたちが先輩を守らなければならない。
わたしたちはLOVE★WITCHESだから…
「よく帰ってきたねっ。
真奈美ちゃん」
目を開ける棟梁。
真奈美ちゃんって???
「パパっ。ごめんねっ。
わたし。どうしてもLOVE★WITCHESになりたくて」
パパ???
真奈美先輩って???
「いいんだよ。
がんばっているみたいじゃないか。
ずっと見守っていたよ」
立ち上がって、床の間に近づく。
床の間の掛け軸の横にある紐を引く・・・
床の間の壁がゆっくりとスライドして部屋が現れる。
これって忍者屋敷の隠し部屋っ?
そこには…
小さな部屋に…
LOVE★WITCHESのポスターだらけの部屋…
とりわけ、真奈美先輩のものが多い…
それにCDやDVDや写真集が棚に並んでいる。
「さあ、おいでパパのところへ…」
真奈美先輩に近づいていく頭領…
困ったような真奈美先輩の顔…
そして、頭領は真奈美先輩と抱きしめようと…
するりとすり抜ける真奈美先輩…
「恥ずかしがらなくてもいいんだよ…」
「嫌ッ!」
あきらめない頭領の顔に、真奈美先輩のグーパンチがカウンター気味に決まった。