06 暗殺者(アサシン)たち
シャッターの音とフラッシュの光。
その中で水着姿3人がいろいろなポーズをとる。
広いスタジオの一角にポップな部屋のセット。
自然に部屋で戯れる女の子たちってイメージみたいだけど、
優菜には、こんな目の回りそうなカラフルな部屋・・・
それになぜ水着なのかっていうのが
理解できなかった。
「優菜、表情固いよ。肩の力抜いて」
専属カメラマンの百合が声をかける。
「すみませんっ」
表情を和らげる。
「うん、いいよ」
シャッターがきられる。
優菜のブルーの水着に白い身体がフラッシュで光る。
美作百合・・・
WITCHESの専属カメラマン。
でも、その腕は広く世間に知れ渡っていた。
数々の賞を手にして、他からも撮影の依頼はひっきりなし。
現にいろいろな引き抜きをうけても、
本人は全然他に行く気はないらしい。
彼女達の写真は毎号少年週刊誌の表紙を飾る。
他のメンバーの時もあるが、基本的にグラビア組の登場回数がダントツである。
「じゃあ、次、真奈美、撮るよ」
日向真奈美・・・
優菜の1期先輩に当たる。
ボーイッシュなショートに小麦色の肌・・・
オレンジの水着がその肌に似合っている。
健康的な美少女だ。
優菜と違って自然にポーズを撮る。
百合が指示しなくても、思ったとおりにポーズ。
息がぴったりって感じだ。
「じゃあ、麻衣さん、お願いっ」
「はい・・・」
ウェーブのかかったロングヘヤー。
白の水着。
男の人の人気ナンバーワンの座をずっとキープするNICE BODY。
口もとのほくろまで艶めかしさを演出している。
きちっと悩殺ポーズを決める。
カメラの後ろで優菜も同じポーズをとってみるが、遠くおよばない。
「みんなでいくよっ」
麻衣さんを中央に優菜と真奈美がその周りを彩る。
まるで踊るような感じでモニターを確認して何ポーズかシャッターをきる。
百合が大事にしているのは被写体の表情。
しゃべったり歌ったりして最高の表情を引き出す。
それで、満足気にうなづく。
「撮影、終了~~」
百合が叫ぶと、みんな素に戻る。
いちおう、撮影中はおすましモードだから。
「おつかれさま」
でも、麻衣だけは変わらない。
あくまで、大人っぽい微笑みを浮かべるだけ。
麻衣にとってはこれが素だから。
「でもさぁ。優菜、こけるんだもん。笑いこらえるのに必死だったよ」
「ポーズに無理があるだけです」
「あっ、あれ。右足と左足まちがえるんだもん。両足上げたらこけるに決まってんじゃん」
優菜、真奈美、百合はかしましくおしゃべりを始める。
一緒に笑っていた麻衣の笑みが消える。
「だれっ」
木刀を手に取り、優菜の傍らの壁に突きつける。
麻衣は剣の達人だ。
ウィッチーズも歴代、何人かの剣士がいた。
その中でも最強と言われる腕を持っている。
「あ~あ、もうちょっとだったのになぁ」
その先に眼鏡をかけた小柄な男が現れる。
「撮影中は立ち入り禁止だよ」
真奈美が殴りつける。
難なく避ける男。
そのまま、消えてしまう。
「何っ、あれ」
優菜が通風口を指差す。
そこから、赤いゲル状のものがしたたり落ち、
白い床に積もっていく。
だんだん、それは人の形に変わっていく。
カメレオン男が知らない間に鍵を開けたのだろう。
ドアが開き
白い仮面の男が入ってくる。
タキシードに白い手袋。
まるでマジシャンのようないでたち。
鼻までを覆うような白い仮面。
目じりに笑っているような皺がある。
「亀田さん、
いやはや、アサシンが見つかるようでは・・・」
大げさに手を広げあきれたというポーズをする。
「しかし・・・石動・・・」
いいわけをしようとするカメレオン男。
それを制する。
「まあ、どっちにしても同じことです。
ここでみんな死ぬんですから、
われわれの正体がばれることもありません。
朱雀さまの任務を遂行するだけです」
「ああ、わかったよ。
すこし舐めすぎたみたいだよ。
まさか、見破られるとは思わなかったんでな」
また、一瞬で姿を消す男。
今度は完全に気配を消しているのか、
麻衣の目にも戸惑いが浮かぶ。
ゲル状の人間がまた人間の姿をやめる。
床に一瞬で広がる。
彼女たちの足元に・・・
ゲルの水溜りから蝕手が伸びて、彼女たちの足を掴む。
「なに、これ、キモすぎっ」
真奈美が足を振りほどこうとするが離れない。
逆にこけそうになってしまうが、
それはこらえる。
時々、カメレオン男が姿を現すが、あらわしたとたん麻衣が木刀でけん制する。
「優菜、凍らせてっ」
真奈美が優菜に指示をする。
優菜は頷いて、自分の足元のゲルに手をかざす。
「フローズン・ワールド!」
優菜の手の部分から白い冷気が発せられる・・・
ドライアイスのような煙につつまれるジェルのかたまり・・・・
「おもしろい技です。
水沼のゲルは-100度くらいでは凍りませんよ。
さてお手並み拝見といきましょうか?」
タキシードの男が笑う。
全然凍らないゲルの水溜り
その中から触手が伸び・・・
優菜の手首を掴む・・・
そのまま、取り込まれていく優菜。
他の二人は動けずに見ているだけしかできない・・・
「優菜ぁ!」
「優菜っ」
2人の声を聞きながら、
ジェルに飲み込まれていく優菜・・・
脚・・・
腰・・・
腹部・・・
胸・・・
肩・・・・
2人の悲痛な叫びもむなしく・・・
優菜の頭部がゲルの沼に包まれた。
「優菜を返せっ」
むちゃくちゃに暴れる真奈美・・・・
でも、足が掴まれているので動けない。
「フフ・・・あと2人ですね。
いえ、われわれの姿を見られたからには、
カメラマンも・・・ですか・・・
最後におもしろいものを見せてあげましょう」
仮面の男が手を開くと
そこから伸びる糸・・・
それが、麻衣の四肢に絡みつく・・・・
瞬間、百合がカメラを構える。
プロ用の大きなレンズのついたカメラだ。
仮面の男を中心として・・・
フラッシュがたかれる・・・
シャッターをきる音・・・
「ユニット3の影、
マジックフォトグラファー、美作百合」
男達の動きが固まる。
「これで、1分間動けないよ」
百合のカメラに写されると、1分間動けなくなる。
単純だが、強力な技だった。
「麻衣さん、真奈美っ、逃げてっ」
真奈美が足に絡みつくスライムの手を振り解く。
かたまったゼリーはすぐに解ける。
「麻衣さんっ」
麻衣は動かない。
「どうしたの。早く。一分たっちゃうよ」
百合が麻衣の手をひっぱる。
でも、反応がない。
「やばいっ。あと20秒」
心の中でカウントする。
「だめっ。真奈美だけでも逃げて!
卑弥香さんに伝えて・・・」
「うん、わかった」
真奈美が背中を向けて走り出す。
「ゼロ。」
仮面の男の声。
「こちらも、なかなか面白い技ですね。
わたしも見せましょう。
死のマジックをね。
マリオネットダンスっ」
仮面の男が白い手袋の手を身体の前で動かす。
その指から伸びる糸は麻衣の手足に絡み付いている。
麻衣が木刀を上段に構える。
オレンジ色に光る木刀。
麻衣の目には光がない。
「ビームソード!飛炎」
木刀を振り下ろす。
その木刀から一直線にオレンジ色の光が走る。
真奈美に向かって。
「あぶないっ」
百合の声に振り返る真奈美。
でも、もうよけられない。
光をまともに受け、ふっとぶ真奈美。
壁にぶつかり、その場に倒れこむ。
「真奈美~~っ」
叫ぶ百合の足首をゼリーの手が掴む。
今度は動きを止めるためではない。
引きずりこむための動き。
足を撮られ倒れる百合。
その身体を無数のゼリーの手が掴む。
みるみるうちにゼリーの山に沈み込んでいく百合。
その身体はすべてジェルに包まれる・・・
優菜と同じように・・・
床に転がった一眼レフを残して・・・
「とりあえず、任務完了ですね。
いきましょうか?」
仮面の男がドアに向かう。
麻衣も魂が抜けたように男のあとに続く。
「じゃあ、俺はとどめを刺してくる。
念のためにな」
亀田はそう言って倒れている真奈美のところへ。
かがみこみナイフを出す。
それを真奈美の胸に突き刺す。
「わるくおもうなよ」
そのとたん、亀田の目に驚愕の色。
ナイフは真奈美の胸を突き抜け、
床に突き立つ。
まるで、幻にナイフを突き立てたみたいに。
亀田の首に真奈美の手。
「わたしも・・・アサシンだよ。
ミスティボディ、日向真奈美。
覚えておきなっ」
その瞬間、真奈美の手の暗器が亀田の喉笛をかき切った。
(暗器=手に隠れるくらいの小さな武器です)