05 イン・ザ・ワンダーランド
そう、睦美の能力は空間を作り出すものだった。
空を走る機関車。
トランプの兵隊。
天井でのさかさまのお茶会。
無限に続く螺旋階段。
不思議な世界が全員をつつむ。
ウサギと戯れる栞。
なにかわかんないゼリー状の生き物を剣でつつく希美。
漆黒の闇に無数の睦美が浮かぶ。
スキンヘッドの男は狂ったように、攻撃をする。
しかしどれも幻。
爪が当たれば、それは2体に増えるだけ。
「ハハハ、無駄だよっ。この世界ではわたしがクィーンだよっ」
空間に睦美の笑い声が木霊する。
「さあ、どうしようかなぁ。おまえの足元は沼」
スキンヘッドを指差す。
足元からだんだん沈んでいく男。
「な・・・なんなんだこれ・・・」
もがいても抜け出せない。
膝のあたりまで沈んでしまう。
「こっちは子猫になあれ」
魔獣は子猫に変わる。
あっけにとられる白衣。
「それからっ。」
もうひとりの男を捜す。
しかし、前には見当たらない。
睦美の後ろから声。
「楽しいショーだったよ」
ゾクッとするような低い声。
振り返る睦美。
「こっちもみせてあげよう」
男の後ろにマントをつけた骸骨が浮かび上がる。
手には大きな鎌。
絵で見た死神そのもの。
「ソウルイーター」
骨だけの腕が伸びて睦美の額に・・・
そして、白い糸のようなものを引っ張る・・・・
そのまま白い糸を器用に巻き取る骸骨の手・・・・
その糸が終わったとき・・・
睦美の身体はその場に崩れた。
いきなり元の世界に戻る。
魔獣も元の巨大魔獣に、スキンヘッドの男も普通の地面に立っていた。
「やべえな。相変わらず。死神の技は」
「さてと、あと2人ですね」
白衣の男が魔獣をゆっくりと全身させる。
その前に一人の女が出る・・・・
希美と栞の新人マネージャー。
魔獣と2人の間に立ちふさがる。
「非常事態よ。リミッターを解除して逃げて!」
振り返って2人に向かって叫ぶ。
2人は顔を見合わせてうなづく。
そして手首の鎖をはずす。
「逃げるの。そして睦美さんがやられたこと卑弥香さんに伝えて。ここはわたしが食い止めるから」
魔獣のライオンの顔がマネージャーを襲う。
「鉄壁っ」
マネージャーは手をかざす。
前に大きな鉄の壁ができる。
跳ね返される魔獣の顔。
前足で引っかく、でも壁に阻まれてマネージャーまで届かない。
「ユニット4の影。鉄壁の綾をなめんなっ。死神一匹通さないよっ」
でも、2人は逃げようとしない。
希美は何か考えている。
なにか思いついたらしく顔を上げる。
また、剣を取って走り出す。
魔獣の方へ・・・・
しっかりと前を見据えて、
鉄壁を潜り抜ける・・・
中からは簡単にすり抜けられるようだ。
さっきより速いスピード。
大剣を横に払う。
右の後ろ足を狙って・・・
今度は跳ね返されない。
剣の描く弧は魔獣の足を斬る。
吼える魔獣。
希美は剣の切れを確かめると、全速力でこちらに戻ってくる。
マネージャーは一瞬鉄壁を解除し、希美を迎える。
希美はマネージャーをすり抜け、栞の方へ・・・
栞の手をとって駆け出す。
リミッターで戦ったことが納得いかなかった。
本来の自分の力を証明することが必要だった。
普通の人にはわからないが、希美の論理だった。
舞は2人が逃げるのを見届けると仕上げにかかる。
どれだけできるかわからないが、
なるたけ時間を稼ぎたい。
それと、全員は無理かもしれないが、一人くらいは道連れに。
「ファイアーウォール!」
舞の前の鉄壁が燃え出す。
この壁をやつらに押し出す。
鉄壁は守るだけの技じゃない。
魔獣と鉄の爪。
二人とも壁の動きにあわせて逃げるだけ。
やっぱり、こんなに広い屋外では舞の技は威力半減だ。
しかし、広いところなら囲んでしまえばよい。
炎の壁が彼らを囲むように伸びていく。
そして、逃げ道を塞いでしまう。
綾のもくろみどおり。
あとは炎の壁を狭めていくだけ。
「かわった技ですね」
綾の後ろから低い声。
まさか・・・・
振り向けば、死神。
「どうして抜けられたの?」
「さっきの娘が通ったときですよ」
あの一瞬・・・
「おもしろい技だが・・・壁の向こうが見えないのが難点ですね」
死神が綾の額に触れる・・・
「あぁっ・・・」
そこから出る糸を一瞬で引き抜く。
その瞬間、綾はその場に崩れるように倒れこんだ。