02 初めての休日
「胡桃っ。はやくっ」
もたもたしてる胡桃をせかす。
「やめようよ。せっかくの休みじゃん」
「休みの日はショッピングって決めたジャン。おいしいもの食べてさぁ」
胡桃はジーンズにシャツに皮ジャンのラフな格好。
レザーのキャップとサングラスをすると男の子にしか見えない。
この格好でなんでこんなに時間がかかるの?
わたしは愛莉さんにもらったボーダーワンピとファーつきのコート・・・
愛莉さんのお部屋に遊びに行ったときに、
着せ替え人形みたいにされて
愛莉さんがくれた服の一つ・・・・
愛莉さんは妹みたいにわたしを扱ってくれる。
この服を着てお出かけってだけで心が弾むような気がする。
いままで着てたようなガキっぽい服じゃなくて大人の服。
わたしも白のニット帽と大きなサングラスで顔を隠す。
マネージャーにいわれたんだけど、街で正体がばれるとすごいことになるらしい。
この点はきつく注意されている。
胡桃はそれを盾にして、街に出るのを反対した。
でも、そんなの関係ない。
前に約束したんだから、初めての休みはショッピングしようって。
車で東都の中心部、本宿まで送ってもらう。
そう、東都一の繁華街。
若者の街だ。
胡桃と並んで歩く。
なんかすれ違う人がわたしたちを振り返る。
でも、ばれたわけじゃない。
人々の視線は胡桃に向けられる。
たぶん男の子って思われている。
かっこいいとか。
素敵とか言う声。
もしかして彼女と思われてるわけ。
なんか私に対する悪口も聞こえてくる。
趣味が悪いとか、つりあってないとか。
えーい、むかつくから胡桃の腕に巻きついてみる。
ざまあみろ!!
胡桃は困った顔をするだけ。
クレープがいいかな
ソフトクリーム???
わたしはお店を物色する。
締めはケーキバイキングって決めてるし・・・
そのうち、周りに不良っぽい人が増えてくる。
うーん、なんでだろ・・・
いつのまにか取り囲まれているわたしたち。
ひとりが胡桃の前に立ちふさがる。
「ふぅん、見ねえ顔だな」
胡桃の顔を覗き込む。
「汚い顔を近づけるなっ!」
胡桃が低い声で言う。
「なんだと!」
いきなり胡桃の胸倉を掴んでくる。
でも、胡桃は簡単にその腕をとってねじり上げる。
「ここでは俺らに逆らわないほうがいいと思うんだが」
後ろの男が言う。
わらっちゃうような髪型。
真ん中だけそり上げて逆モヒカンみたいな。
わたしはアッカンベーをして胡桃の後ろに隠れる。
胡桃は腕をねじった男を仲間の方へ突き飛ばす。
「こいつら、なめやがって」
「まあ、待てよ」
後ろの男が前に出る。
鋭い目つきで睨む・・・笑っちゃうような髪型だけど・・・
手を道路にかざす。
そこには一頭の虎が現れる。
魔獣だ・・・
「謝れば許してやるぜ。半殺しくらいでな」
勝ち誇ったように笑う。
わたしは胡桃の前に出て、戦いのポーズ。
でも、胡桃に止められる。
「だめだよ。問題おこしちゃ」
耳元で言う。
「でも、魔獣だよ」
「だめっ。ここは逃げるの」
「何をごちゃごちゃと言ってんだ」
もっと怒らせてしまうわたしたち。
いまにも虎をけしかけようって感じ。
その時、人垣をかき分けて一人の男がわたしたちの前に立つ。
「魔獣はいけねえな」
年は20歳過ぎくらい。
茶髪、ロンゲの浅黒い肌。
ジーパンにTシャツ、革ジャンのラフな格好。
首には太い金の鎖のネックレス。
チャラチャラした格好だけど、背は高いし、顔はまぁまぁかなっ。
「誰っ」
わたしが言うと、振り返る。
「正義の味方・・・に見えねぇかなっ」
軽口を叩く余裕。
でも、後ろから不良が一人殴りかかる。
まともに後頭部にそのパンチを受ける。
「いってぇ」
しゃがみこんで、後頭部をさする。
何しに来たの?こいつ。
不良たちは、ふざけた乱入者を袋にするためにまわりを取り囲む。
そして真ん中の男を蹴る。
アッチャー。
弱すぎ・・・・
でも、不良たちはすぐにターゲットがいないのに気がつく。
どこ?
上を見ると、さっきの男が空中に浮かんでいる。
わたしたちと同じくらいのジャンプ力だ。
そして降りてくるときに脚を旋回させるように蹴る。
次々に吹き飛ばされる不良たち。
「野郎っ!」
怒り心頭の魔獣使いが、虎を放つ。
「だから、喧嘩に魔獣はいけねぇって言ってんだろ」
男はパンチを打つように拳を前に突き出す。
その、拳の方向に地面を青い光が走る。
もしかして光のフォース???
拳の風圧みたいなのが、刃となって魔獣を切り裂く。
真っ二つになって消える魔獣。
あとにはさっきの男が座り込むだけ。
治安パトロール車のサイレンの音がする。
こっちにだんだん近づいてくる。
誰かが通報したんだ。
「やべぇ」
いきなり私の手を掴んで走り出す男。
「ち・・・ちょっと」
でも、ついて行くしかない。
わたしは胡桃を振り返りながら、彼と一緒に路地を走りぬけた。