09 屋上
研修所の屋上。
春香は、フェンスを向いて遠くを見ている。
なにも考えずに追いかけたけど…
何を言えばいいのかわかんない…
とりあえず、春香を追いかけたかった…
それだけ…
わたしは、春香の横に行く…
何を話しかけるわけでなく、
同じ景色を見る…
本当の気持ち…
わたしは春香にメンバーになって欲しかった。
できれば、一緒に…
春香がいなければ…
たぶん、わたしはメンバーになれなかった。
春香がいろいろ言ってくれるから…
がんばれたんだ…
ここからの景色…
よく春香と見た…
お弁当を食べながら…
喧嘩したり…
仲良くしたり…
「ごめんね」
春香が口を開く。
さっきまでの春香じゃなくて…
ふっきれてさっぱりしたような…
「うぅん。
春香が言うのが本当だよ」
わたしも素直にそう言える。
「そうじゃないよ。
美月は優菜よりもメンバーにふさわしいと思う。
でも、自分の力をわかってないよ」
「うん…・」
「わたしも美月の力があればなぁ」
「でも、春香も伝説の武器の使い手じゃん」
「うぅん。
わたしは使い手じゃないんだ。
あれは無理やり手に入れただけ…
わたしは伝説の武器に認められていないの。
わたしが使ってもただの武器」
「そうなんだ」
変幻自在に操られる円月輪。
ぜんぜん、そんなふうに見えなかった。
「でも、これで吹っ切れたよ。
わたしは芸能界へ戻るわ。
やっぱ、美月見てたら、背のびしてるのがバカらしくなった。
アイドルってWITCHESだけじゃないんだ。
まあ、今はいちばん輝いてるけどね。
アイドルでは負けないよ」
そう言って、わたしを抱きしめる。
わたしは春香の震えを感じる。
わたしは春香の肩に手を置く。
「ひっ…うっ…うっ…」
春香の嗚咽。
わたしも伝染したように涙があふれる。
いつもの景色の中…
2人は屋上で泣きじゃくり続けた。