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01

「そろそろ行くよっ」

 安城さんが言う。

「はーい」

 みんながいっせいに返事をする。

 さっきまであわただしいだけだった舞台の袖に緊張が走る。

 メイクも衣装も完璧。

 胸が高鳴る。

「いつもどおりやれば大丈夫っ!」

 胡桃が大きな声を出す。でも、いつもより顔がこわばってるよ。やっぱ胡桃でも緊張してるんだ。そう思うと、少し気が楽になる。

「うん」

 わたしは笑顔で答える。


 音楽が止まり・・・・

 静まりかえる舞台・・・・

 観客席も水を打ったように・・・


『それでは、新メンバーを紹介します』

 場内にアナウンスが流れる。

 もう、いくっきゃないっ。

「がんばってねっ」

 安城さんがわたしの背中をポンと叩く。それを合図にわたしたちは眩しい光の中に駆け出した。





 いきなり舞台中央に魔獣のCGが浮かび上がる。

 そう、最新の映像技術。ただの映像じゃなくて、実体だ。

 むずかしいことはわからないけど、素粒子とかをくっつけて本当の魔獣を作り出すらしい。

 わたしたちがシュミレーションに使っている機械だ。

 でも、本物と違って核を壊せば、消滅する。

 それに、本物ほど強くない。って言っても、実体だから攻撃が当たれば怪我をするし、訓練を受けたわたしたちじゃないと太刀打ちできない。

 よい子はまねをしないでねって感じかな。


 まず、胡桃が行く。舞台の中央へ。

 ヒグマくらいの大きさの魔獣に対峙する。

 迷彩柄のショートパンツに黒のタンクトップ。

 ラフな格好がショートカットの彼女にマッチしている。

 でも、そこらへんに売ってる服ではない。

 最新の技術の生地。

 弾丸くらいなら貫通しないし、

 動きやすさと丈夫さを追求している。

 

 胡桃はボクサーのように顔の前で拳を構える。

 指先だけ出た赤のグローブ。

 そう、胡桃は格闘技の達人。

 そしてわたしと同じ光のフォースを持っている。


 魔獣がうなりながら右手を振り上げる。

 そのまま、胡桃の方へ振り下ろす。

 速い・・・。

 レベル5ってとこかな。

 でも、わたしたちはレベル7までやってるし、大丈夫だよっ。

 わたしの手にも汗がにじむ。

 魔獣のターゲットである胡桃が消える。

 ううん、すごいスピードで避けただけ。

 客席からは悲鳴が上がる。

 次々と繰り出される攻撃。

 でも、胡桃はアクロバットのように回転しながらかわす。

 その動きは会場のフアンたちの心をとらえる。会場にがんばれっの声援が起こり始める。

 

 胡桃もやられてばっかじゃない。

 時々、鋭いキックとかパンチを繰り出す。

 でも、身長2倍以上の熊型の魔獣には効かない。

 

 胡桃は余裕の表情でわたしたちを振り返る。

 安城さんがサインを出す。

 フィニッシュのサイン。

 それを確認するとまた魔獣に向き直り、ダッシュで懐に飛び込む。

 そのまま、パンチを繰り出す、それもものすごいスピードで。

 胡桃の必殺技。ライトニング・ラッシュだ。だんだん加速するパンチ。

 そのうち、胡桃の拳が青く光り始める。

 魔獣は何もできずに受けているだけ、胡桃以外の時間が止まったようにも見えるくらい。

 胡桃が最後に大きなパンチを放つ。フィニッシュだ。

 あの大きな魔獣が、投げ飛ばされたように吹っ飛ぶ。

 そのまま、ノイズとなって消える。CG特有の消え方だ。


 胡桃が両腕を高く上げると、黄色い大歓声が彼女を包む。

『ライトニング・ラッシュ。藤崎胡桃。』

 胡桃にスポットライトが当たり。

 左右の大画面に、胡桃とライトニング・ラッシュのロゴが映し出される。





 次にスポットライトは、優菜にうつる。

 礼儀正しくお辞儀をする優菜。

 5人の中では一番大人っぽい。

 その外見に引けをとらない優等生タイプ。

 この中ではおねえさん役って感じ。

 おっとりしてるけど、怒らせたら恐いと思う。

 長いストレートの髪を揺らして、中央にゆっくり歩いていく。

 わたしと同じ17歳とは思えない貫禄。

 そして、シュミレーターが作り出したのは、3つの顔を持つ大蛇。

 その大蛇の6個の目が赤く光る。


 魔獣って本当にいろいろな形態を持つ。

 このトレーニング用のCGも実際に確認されている魔獣を元に作成されている。

 人間型とか獣型、ロボットのような金属製の魔獣もいる。

 それぞれ、弱点が違うし、戦い方も違う。

 大蛇の弱点って目だったかな。

 口だったかな。

 でも、優菜には関係ない。

 たぶん、先輩たちを含めても最強に近いフォースを持っている。


 ある程度の距離で立ち止まる優菜。

 蛇はそれぞれの鎌首をもたげて、優菜をにらむ。

 優菜はそれを見上げて微笑むだけ。

 そのうち、1つが優菜めがけて飛び掛る。

 それを軽く手で払う。

 まるで、小さな子をいなすような、笑顔で。

 3つの顔がかわるがわる襲いかかる。

 でも、その笑顔は崩れない。

 客席も優菜の余裕がわかるのか、胡桃の時みたいな悲鳴は起きない。

 わたしや胡桃でも、たぶん分殺はできると思う。でも、優菜なら秒殺。

 それくらいの技を持っている。

 時々、ちらっとこっちを見る優菜。安城さんのサインを見てるんだ。

 安城さんが親指を立ててウインクする。


 そのとたん、優菜が手を前でかざす。

「フローズン!ワールド!」

 優菜の声をピンマイクが拾う。

 会場全体にエコーする優菜の声。

 その声が大歓声にかき消される。

 優菜の手のひらが青く光る。

 優菜に襲いかかる3つの首。

 その中のひとつに指先が触れる

 。そのとたん、大蛇の動きが停止する。青い光が触れたところから広がっていく。

 だんだん、尻尾の方へ進んでいく光

 。青いイルミネーションのように大蛇の形が浮かび上がる。

 すぐに尻尾の先まで光に包まれる。

 優菜が再び大蛇の顔に手を触れる。

 そこから、亀裂が走り大蛇はガラス細工のように砕け散る。

 そのまま、大蛇は塵となって消える。


 優菜は、観客席に向き直り再び礼をする。

 観客から割れんばかりの声援。

『フローズン・クィーン!氷室優菜!』

 左右の大画面に優菜のロゴが踊る。

 優菜は舞台の隅、胡桃のところまで歩いていって、また礼をする。

 リハーサルどおり。

 わたしもうまくできるかな。ドキドキする。


 次は、希美の番でその次がわたし。足が震えるよ。しっかりしろって自分に言い聞かす。


 次に希美が歩き出す。

この子のことってあんまりしらないけど、確か13歳。

 最年少デビューだ。

 観客に媚びることなく、無表情で歩き出す。

 それをスポットライトが追いかける。

 ロリータファッション、紺のひらひらのスカート。

 140センチくらいの背丈。

 くるくる巻いた金色の髪。

 まるでフランス人形のよう。

 でも、背中には背丈以上もある大剣をくくりつけている。

 一度、持たせてもらったことあるけど、胡桃と二人でも持ち上げるのがやっと・・・って感じ。

 

 その前に巨人の形の巨大な岩石が現れる。

 わたしたちはゴーレムって呼んでるけど、硬くて厄介な練習台だ。

 腕を振り上げて雄たけびを上げる。

 でも、何事もないみたいに歩き続ける希美。

 そして腰のベルトを歩きながらはずす。

 背中の大剣の柄を掴む。

 大きな剣だけど、柄の部分はその小さな手にあわせて細く作ってある。

 

 いきなり、肩に担ぐような姿勢から剣を振り下ろす。

 他にも剣使いの人はいるけど、どの流派とも異質。

 斬るためというより、ただ破壊のための剣という感じだ。

 その気配を察してよけるゴーレム。

 その身体に似合わないスピード。

 舞台に大剣は叩きつけられる。

 地震のように舞台が揺れる。

 この舞台もわたしたちに合わせて頑丈に作られている。

 普通の舞台だったら、破壊されているだろう。


 「ちっ」希美の舌打ちが聞こえる。

 この子、おさなく見えるけど態度は悪い。

 ゴーレムが再び戦闘態勢に入る。

 今度は、太い腕を振り下ろす。

 希美はそれを見上げるだけ、でも怯えた感じはない。

 腕が希美の近くまで来たとき、希美は片手で刀を持ち上げる。

 金属と岩石がぶつかりあう音。

 砕かれたのはゴーレムの腕・・・・

 そのまま、刀を振りかぶって踏み込む希美・・・・

「ダイヤモンド・クラッシュ!」

 希美の幼い声をマイクが拾う・・・・

 振り下ろされる大剣・・・・

 剣に切られるとかそういう話ではない。

 破壊・・・そういう言葉がふさわしい。

 剣があたったところから粉々に砕けるゴーレム。

 そして、核を潰したのか。

 砕けたところから消えていく。


『ダイヤモンド・クラッシュ。大道寺希美』

 希美はアナウンスに答えるように、軽々と大剣を振回す。

 でも、笑顔も浮かべず無表情。

 媚びない子。

 その希美のアップが左右のスクリーンに映し出される。


 希美はゆっくりと舞台の端に進む。

 優菜の横に行くと剣を下ろす。


 つぎは私。

 ゆっくりと深呼吸をする。

 足震えてないかな。

 横目で安城さんを見ると、行け!の合図。


 わたしは舞台に向かって走り出す。


 目の前に現れる3人のゾンビ。

 ちょっと・・・難易度低いんじゃない?

 初心者向け魔獣って感じ。

 ゆっくりとぎこちない動きでわたしに近づいてくる。よーし。

 

 私は駆けながら、手を左右に開く・・・

 手のひらの軌跡に7つの光の玉が現れる。

 ちょうど野球のボールくらいの大きさ。

 赤、青、紫、緑、オレンジ、黄色、ピンク。

 わたしを取り囲むように浮いている光の玉たち。

 これがわたしの能力。

 光弾を打つ人ってわりと多いんだけど、だいたい一つしか出せない。

 わたしのは別。

 同時に7つの玉をつくることができる。

 そして、それを意のままに操る。

 これはわたしだけのオリジナルだ。

 でも、あんまり迫力がないのが玉に瑕かな。

 いちばんメルヘンチックかも。

 衣装もわたしだけ、アイドルが着るような衣装。

 ピンクのフリルのミニスカートにノースリーブのドレス。

 靴も、白のサンダルだし。

 戦闘に一番向かない格好。

 でも、見た目と違って技の威力はそこそこだと思う。

 ゾンビたちは我先にって争うようにわたしに向かってくる。

 腕を前に突き出して牙を剥いて・・・・。

 ミイラのように干からびた顔。

 白くにごった目。


 一番先にたどり着いた奴がわたしを掴もうとする。

 後ろに飛んで避ける。

 それを合図に次々とゾンビたちは襲い掛かってくる。

 でも、最小の動作で避けていく。

 そのまま彼らをすりぬけるわたし。

 そう、たぶん観客にはすり抜けたって見えるんじゃないかな。

 こう見えても、身体能力は胡桃の次にあるって言われてる。

 ゾンビたちの攻撃なんて、スローモーションにしか見えない。

 わたしが振り返ると、少し遅れてこっちを振り返る奴ら。

 今度は、さっきより速いスピードでこっちに向かってくる。

 わたしの周りの光の玉がわたしを中心に回転する。

「レインボーイリュージョン!!」

 わたしがゾンビたちを指さすと、いっせいに光の玉がその方向へ飛び出す。

 光の玉の残像が刃となってゾンビたちを切り裂く。

 塵となって消滅するゾンビ。光の玉はわたしの方に戻ってくる。

 それを次々にキャッチすると手のひらに消える。

 会場が拍手と歓声に包まれる。

 スクリーンにわたしの横顔。

 打ち合わせどおりにカメラ目線でポーズを決める。

『レインボー・マジシャン。海崎美月。』

 カメラに向かってウインク。

 そして舞台の端に歩いて行って礼。

 完璧っ。

 リハーサルどおりっ。


 スポットライトが移動する。

 その光の中に少女が立っている。

 ごく普通の女の子。

 水色のワンピースに白いソックス。

 鞍馬栞って子。

 希美より1つ上だったと思う。

 メンバーの低年齢化が目立つ。

 最初はわたしくらいが一番年下だったのに。

 でも、この子は希美みたいに無愛想じゃないし、わたしたちにすごいなついてくれる。

 みんなの妹って感じかなっ。

 ちょっと緊張気味の栞に心の中でがんばれって声をかける。


 でも、この子の技も半端じゃない。

 わたしたちのほとんどは光の力を纏ってるんだけど、メンバーの中にはそれを持ってない子もいる。

 希美みたいに剣の達人だったり、武道の達人だったり。

 栞も光の力を持っていない。古来からの武術を使う。

 それは不思議な力なのだ。


 舞台の中央に巨大な爬虫類。

 5メートルくらい。

 手が短く頭が大きい直立型。

 そう、ティラノザウルス。

 大きな牙をむき出して雄たけびを上げる。

 こいつは難易度S。

 動きも素早く、攻撃力ありすぎ。

 そしてその前に立ってるのが、どこから見ても普通の小学生。

 観客から悲鳴が上がる。

 惨劇必死ってシチュエーションに。

 

 でも、栞はおちついている。

 恐竜に向かって微笑む。

 よだれまみれの大きな口を開けて栞につっこむティラノ。

 栞は軽くジャンプして、その頭の上に乗る。

 まるで、体重がないみたいな軽さで・・・

 そういえば、栞の訓練で相手の刀の刃の上に乗る栞をみたことがある。古武道の体術らしい。

 頭の上に乗られた恐竜は必死で頭を振る。

 そう、手が短い恐竜は頭の上の栞を振り払うことができない。

 大きな唸り声を上げるだけ。

「ドッペルゲンガー!!」

 栞が恐竜の頭の上で宙を指差す。

 そこに鏡があるかのように恐竜と同じ姿が現れる。

 どんな力かわからないけど、幻術っていうらしい。

 新たな敵を得た恐竜は自分と同じ姿をしたものに突っ込む。

 それを迎え撃つ恐竜。

 幻とは思えない・・・

 その体重を受け止めるにだから。

 栞はそのすきにふわりと舞い上がって、地面に降りる。

 まるで、無重力空間に遊ぶように軽やかに。

 恐竜たちは組あったまま、一歩も引かない。

 そして、そのまま、塵となって消えてしまう。


「ファントム・マリオネット!鞍馬栞!」

 場内アナウンスに静まり返っていた客席に拍手がパラパラと聞こえる。

 そう、栞の技はみんなを夢の中に引き込んでしまう。

 拍手は場内全体を包み込む大きな拍手になる。

 その中を悠然と進む栞。

 そのままわたしの横に来て客席に礼をする。


 その時、ステージに明るい照明がつき、

 場内には音楽が流れはじめる。

 新曲のイントロ。

 わたしたちは前に進んで、踊りながら練習した歌を歌い始めた。 

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