自己紹介
普通にいけば波乱のなかったはずの入学式に遅刻して、慌てるという失態を犯した僕は、登校2日目にして2回目の遅刻をカマしかけた。
といっても、かけた、であって遅刻はしなかった。普通か。
今まではとても近くの小学校に通っていただけに、家から約2.5km離れた学校まで行くのは意外にも大変な行程だった。ただ、今までと圧倒的に違うのは、通学の隣に太陽がいることだろう。小学3年生からの付き合いで、未だに話題がなくならない。ちょこちょこ喧嘩もした気がするが、そこまで大きく仲が悪くなったこともないので、今のところはー今後もー唯一無二の親友ではある。少々ひねくれてるのは玉にきずだが(本人に言うとお前に言われたくない、と言われる。似ているのだろう)。
しばらくして太陽と僕はとことこ2.5kmを歩き切って学校へ到着し、各々の教室へ入る。別々の教室なのは3年目だ。
幸いにして、HRは始まっておらず、特に何も周りに白い目を向けられることはなかった。が、即座に昨日の担任が教室内に入ってきたので落ち着くこともできず、出席確認となった。トイレ行きたい…。
出席確認自体は一瞬で終わり、睡魔と闘っているうちに1時間目の授業が始まろうという時間帯までワープしてしまった。1時間目は本来体育らしいのだが、最初ということもあって担任が再びやってきてLHRが始まった。昨日の入学式の後に本来言うべきであろうかなり重要な事がら(退学の際の扱いとか)を重々しく、だが単調に説明する。まるで音声機能だ、などと思いながら説明を聞いて頭にインプットしてゆく。流石は進学校、退学のラインはなかなかに厳しい。尾崎豊は完璧に退学だろうな。
担任の話も一通り終わり、ふう、とひと息ついたところで、すっかり忘れていた、あの新学期恒例の行事が鎌首をもたげた。
「…です。○○小学校から来ました。よろしく…」
霞ヶ浦の『K』行はなかなかに早い段階で順番が回ってくる。何気に次だ。どうしようか…と考えていたが、ふと気付いた。この学校の番号制度は名前ではないのだ。そう、受験合格後の入学手続きの際に配布された生徒証の番号が若い順、なのだ。つまり、早めに手続きした家庭の子供は若い、遅かった家庭の子供は大きな数字、ということである。なんで忘れてたんだろう。
という訳で、僕は頑張ってゆっくり内容を練ることにした。といっても、話すことはそんなにない。ま、強いて言うならあれ、かな?
「はーい、次、19〜…えーと、霞ヶ浦〜、自己紹介しろ〜」
無難に行くか。ネタをもらいに行くか。…そう。男なら道はひとつ、だろう。
「☆○小学校からきた霞ヶ浦裕太です。得意教科は国語です。1年間、よろしくお願いします。」
…男なら、無難に女子に嫌われない道を直進するだろう。