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翌日。
空港のロビーでフライト時間を待っていた。
「なぎさ。何か飲むか?」
隣に座っていたお兄ちゃんが聞いてきた。
「ううん。要らない」
「そっか…」
そう言ってお兄ちゃんは、席を立って売店に向かっていった。
これで、良かったんだよね。
先輩に告げてたら、先輩も困ったよね。
それに今度、何時戻れるかわからないし…。
わたしが、考え込んでいたら不意に顔に冷たいものが触れた。
「ヒャーッ」
顔を上げるとお兄ちゃんが、ミルクティーの缶をわたしの頬に当てていたのだ。
「そんな顔をするなよ。また、会えるだろうが…」
お兄ちゃんが、優しい声で言う。
「うん」
わたしは、その缶を受け取った。
缶を掌でコロコロ転がし、プルタブを開けて、一口口に含んだ。
心地よい甘さが、口の中に広がる。
お兄ちゃんの優しさが、胸にじわりと広がっていく。
「なぎさ。大学を日本でって決めてるなら、俺も一緒に帰れる様に頼んでやるから、その時は言いなよ」
どこまでも、頼りになるお兄ちゃん。
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
わたしは、自然と笑顔が出た。
「なぎさは、笑顔が一番似合う」
そう言って、お兄ちゃんがわたしの頭をワシワシと撫でてくる。
「うん」
優しいお兄ちゃんがいるから、寂しいなんて思わない。
「さーて、そろそろ時間だな」
お兄ちゃんに促されて追うように席を立つ。
搭乗の時間が迫ってる。
お兄ちゃんの後ろを着いて歩く。
「……さ、なぎさ!」
って、不意に呼ばれた気がして振り返ってみる。
「どうした?なぎさ」
「何でもない」
気のせいか…。
わたしは、ゲートに向かって歩き出す。
「…ぎさ。なぎさ!!」
その声は、直ぐ近くで聞こえてくる。
まさか…だよ…ね。
もう一度振り返る。
と同時に視界が遮られた。
エッ…。
誰かの腕の中。
わたしは、顔をあげた。
何でいるの?
「何で、黙っていっちまおうとするんだよ!」
わたしが不思議に思ってっると。
「先輩が、教えてくれたんだよ」
先輩が言う。
お兄ちゃんが……。
「昨日の様子が可笑しかったから、何かあるとは思っていたけど、こんな大事なこと言わないなんて…」
先輩が、焦った顔をする。
「ごめんなさい。でも、言えなかったの…」
それしか言えない。
今にも、溢れてしまいそうで……。
「なぎさ。俺、お前に伝えないといけないことがある」
真剣な眼差しの先輩。
「何ですか?」
心臓がバクバクいってる。
「俺、なぎさの事が好きだ」
エッ…。
う…嘘……。
「真奈からそれとなく聞いてるかと思った。でも、なぎさ、そんな素振り見せないし…。昨日だって、なぎさから誘ってくれて嬉しかった。なのに突然居なくなるなんて無いだろ!」
先輩……。
「俺、なぎさの事待ってるから…」
それって……
「わたし、先輩の事好きで居ていいんですか?迷惑じゃ……」
胸にある思いが、溢れてくる。
「迷惑だなんて思わない。俺は、嬉しい。なぎさの本心が聞けたんだから…」
その言葉に涙が、溢れてきた。
「先輩……」
「なぎさには先輩じゃなくて、名前で呼んで欲しい」
「…か、克俊さん…」
「なぎさ」
優しい声音で呼ばれたかと思うとわたしの顎に手を添えて、上に向かせられた。
そして、唇が貸すかに触れた。
人の往来のなか。
初めてのキス。
ちょっぴり恥ずかしい。
自分の想いが、届いたんだって、感じた一瞬だった。
「なぎさー!時間だ、行くぞ」
お兄ちゃんの声が轟く。
「はーい。じゃあ、行ってきます」
わたしは、笑顔で先輩……克俊さんに手を降振る。
「うん。言ってらっしゃい!」
克俊さんも笑顔で手を振って見送ってくれた。




