ローザリアの聖女
「今日はなにをするの?」
僕のとなりで一緒に歩いているアクアが横から顔を出してニッコリと笑う。蒼い長髪にピンクのツインリボンが似合っている。周りを見て気が付くがアクアは目立つのだろう。すれ違う人達が彼女を見ているのがハッキリとわかる。
「まだ考えてないんだよな。」
僕達はミットガルツ大陸の首都ローザリアにいた。着いたのが昨日の夜だった為、露天等を見ていた。流石に首都と言われるだけあって露天や店の数が多い。
「ブレインはいつもそうなんだから…」
アクアは僕の前に出て言う。
「とりあえずこの町のギルドに行きましょう。なにか良い依頼が有るかもしれないし、正直お金も余りないでしょう?」
アクアは僕の手を取って歩き出す。
「ここね…ブレイン行きましょう。」
町の一角にあるそれは大きかった。アクアは僕を引っ張ってその中に入っていく。
ギルドには様々な種類がある。討伐・採取・護衛等が主な依頼だが職業によってもいろいろな依頼がある。僕達が加入しているのは冒険者ギルドだった。まぁ、加入したのがつい最近なので依頼を受けたのも数回しかなかった。
「冒険者ギルドにようこそ。」
中に入るとカウンター席でメイド服を着ている女性が僕達に言う。
「お二人はここは初めてですね。私はこのギルドの案内役をさせていただきます。フィンと言います。」
僕達は軽く挨拶を終えた。
「すいませんが、今日の依頼書を見せていただけませんか?」
アクアがフィンに言うと「少々お待ち下さい。」と言って彼女は何枚か持ってくる。僕達はその依頼書を見る。
…行商人の護衛…Cclass
…神殿の探索… Bclass
…グリフォンの討伐…Aclass
このclassとはそのclass推奨の依頼である。因みに僕とアクアはFclassだったりする。
(うん…依頼ないな。)
「この他にはないの?私達ギルドに入ってまだそれほど立ってないからclassが低いのよ。」
アクアがそう言って僕達のギルドカードを見せる。それを見てフィンは驚いていた。
「お二人はギルドに入ったばかりだったのですね。私は上位classの方かと勘違いしてしまいました。」
フィンの目利きは当たっている。確かに僕達は戦いに慣れしていた。
「行商人の護衛なら二人で依頼を受ければ大丈夫ですよ。ただ、依頼金はそのまま一人分となってしまいます。」
僕は再びその依頼書を見る。依頼内容はこうだ。
依頼内容
行商人フェルトの護衛
行き先港町タルト
依頼金1200Z
港町タルトはここローザリアから南東にある港町だ。ここからだと6日はかかる。どうやら女性の行商人らしく護衛が欲しいとの事なのだろう。僕達はこの依頼を受ける事にした。
「では、依頼は明日となっています。それまでに護衛に必要な装備は整えておいて下さい。」
僕達はフィンに軽く挨拶をして外に出る。
「アクア、このあとどうしようか。」
僕はアクアに聞くとアクアは周りを見回す。そして1ヶ所を指でさす。そこは武器屋だった。
「武器を見てみましょう。そろそろ貴方の武器も変え時でしょう?」
アクアに言われて僕は持っていた刀を抜いて見てみる。確かに所々に刃こぼれが見れる。
「良く分かったね。」
僕は素直に驚いてアクアに言った。
「ブレインの事なら何でも分かるわ。」
いざという時は彼女を使えばいい。だけど、僕は出来るだけ彼女を武器として使いたくはなかった。その事は彼女も知っている。だから彼女も何時も僕の隣に居てくれるのだろう。
「アクアには敵わないよ。アクアみたいに魔法で武器を作れると良いのだけど…」
アクアは戦闘時自らも戦う。彼女は魔法で武器を作り出すことができる。黒と白の双剣。それがアクアの主だった武器である。
「魔法の修練をすれば出来る事なのだけれど…ブレインには魔法の力が感じられない。恐らく無理でしょうね。」
そんな話をしていた時だった。後ろの方から街の人達の歓声が聞こえてくる。僕とアクアは人々が集まっている所に行く。そこには一人の女性がいた。
銀色の髪。服装は聖職者なのだろう。プリースト等が着ているローブに似ている。
「聖女様だ」
街の人々はそう言って騒いでいる。
聖女と呼ばれている女性が瀕死の街人に奇跡を使うのを見る。プリースト達が使うリザレクションに似ている。だが、僕には何かが引っ掛かっていた。
使用された街の人は瀕死の状態から全快にまで至った。それを見る街の人達は「流石は聖女様だ。」と言う。
隣のアクアが真剣にその様子を見ているのに気が付き僕は「どうしたの?」とアクアに聞く。
「…今の奇跡、奇石を使って無かったわね。」
アクアに言われて僕は初めてその違和感に気付いた。
プリーストが使用する奇跡には奇石と呼ばれる特別な石が必要になる。聖女と呼ばれていた彼女は奇石を使わずに奇跡を使用したことになる。普通なら奇石を使わずに奇跡を使用すると使用者に精神的なダメージを受けるはずなのだが。彼女を見る限り精神的なダメージを受けた様子もなかった。
「気にしても仕方がないのだから行きましょう。」
そう言ってアクアは歩き出す。僕もアクアを追って歩き出した。
その後、僕達は色々な露天・店などを廻って明日の準備をする。武器はブレイドと言う片手剣を購入した。
次の日の朝、僕達はギルドに向かう。ギルドの前に二人の女性がいた。片方は行商人のフェルトさんだろう。もう一人は聖職者のローブを着ている女性。どうやらプリーストのようだった。
「お早う御座います。」
僕は二人に挨拶をする。すると「お早う御座います。」と二人から挨拶される。
「私はエレナと申します。この旅に同行します。どうぞよろしくお願いいたします。」
これが僕達の出会いだった。