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第5話 星暦1211年4月15日

前話とはまったく正反対の、のほほんとした回となります。

 



 エヴァンの機嫌は今までに無く良かった。


 どれだけ貴族教師や貴族生徒に嫌味の篭った言葉を言われても、笑顔で流しているのである。


 さすがに不気味に思ったのか、嫌がらせを行っていた面々も、午後になると誰もする者はいなくなり、放課後となった。


 気味悪がられている本人の内心からいうと、周りが思っている以上に”不機嫌”になっていたのだが。


 周囲はエヴァンの事より、王都中に広がった大事件で持ち切りだったのである。


『蒼血の雨事件』と呼ばれる貴族の邸宅を襲った事件は、この学院にも届いていた。


 特にエヴァンの所属しているAクラスはその驚き振りはすさまじいものがあった。


 何しろ、ここ数日同クラス(・・・・)のファレオス・フォン・アルアークの欠席理由が判明したからである。


 エヴァンは知らず知らずの内にクラスメイトを殺していたのだと気付いたのは、その時がはじめてだった。


 元々覚える気も無かったという理由も強いが、実際のところ『偶然同じクラスだっただけ』と思っただけだったのだ。


 殺した際、ファレオスは痛みにより一時覚醒して、エヴァンの顔を見たはずである。


 どんな気持ちだったのだろうかとエヴァンは考えたが、アニマでも無いのに心など読める訳無く、すぐに投げ出したのだった。


 アンジェはもしものために、王宮で学院を休む事となっていたが、レオンに限り教室の外に護衛を付けて通うことが許されていた。


 これが将来的に臣籍にと降下する者との差なのかとエヴァンはぼんやりと思っていたりした。


「よぉエヴァ、なんか今日機嫌悪いのか?」

「レオン様、鋭すぎてちょっと怖いんだけど?」

(最近的確すぎて心読まれているとか思っちゃうんだよなぁ。

 けどアニマがいうには、レオンには【異能】が無いみたいだし、心配するほどの事でも…いや、確か王族の一部にかなり強力な【異能】の使い手がいたはず。

 確か第二王子の…えーと、ガイスト、だったっけ?

 ……いけない、余計な事考えていたら不審がられる、意識を戻さないと)


 エヴァンがにこりと笑ってみせると、レオンは何故か一歩後ろに下がってしまう。


「エヴァ、悪かった、頼むからその笑顔はやめてくれ、怖いから!!」

「そう?

 ごめんね、ちょっと今日寝不足で…ふぁ~うあぅ。

 ちょっと頼まれていたポーションをギリギリまで作っていたんだ」

「学院中が…っていうか、世間がこれだけ騒いでいるのにそのマイペース、羨ましいぜ」


 レオンが苦笑するのだが、エヴァンからすればどうして騒ぐ必要があるのか分からなかった。


 起こした側(・・・・・)と起こされた側との差がこれなのかと考えていたのだが、エヴァンはレオンとの会話を続けて行く。


「ほら…だって、僕平民だからね?

 殺されたのって、聞いた話だと貴族の偉い人…なんだっけ、元騎士団長さんなんだよね?

 大それた事件だとは思うけど、平民の僕からしたら、良く分からない貴族の人が死んでも…ちょっとね?」

「…王族の俺の前でそういうのはやめたほうがいいぜ?

 ほら、入り口から俺の護衛がすっげぇ怖い目でエヴァの事睨んでる」

「ホントだ、怖いね」


 入り口からはサイラスという近衛騎士がエヴァンを睨んでいた。


 理由はエヴァンがレオンに口調を正さないことや、無礼な態度をとっているのが大きいのだろう。


 今にも教室に押し入り、無礼討ちでエヴァンを斬り殺すかというほどに殺気立っていた。


 とはいえ、気にした様子も無く流したエヴァンにレオンは溜息をついた。


「そうだよなぁ、エヴァはそういう奴だよな?

 エヴァを止められるのって、アンジェくらいか?

 …あーあ、せっかく時間が出来たから今日こそエヴァと一緒に狩に出たかったのに、あの事件のせいで直行王宮帰りだぜ」

「それはそれは、ご愁傷様。

 けど明日は入学してはじめての中間考査があるんだから、どっち道僕も断っていたし、もしアンジェ様がいたら前みたいに無理だったと思うよ?」

「中間考査かぁ…エヴァ、余裕そうだよなぁ、夜中までポーション作ってるし」


 ジト目でみてくるレオンに、エヴァは口元を押さえながら苦笑した。


 アンジェがレオンで遊びたくなる理由が分かった気がしたからである。


 大型犬がしょんぼりとする様子を見て、笑う者と慰める者がいれば、エヴァンとアンジェは断然前者である。


「うん、余裕かな?

 ロニ様には悪いけど、中間考査では変わらず僕が一位だと思うよ」


 とはいえ、エヴァンは学院の勉強など一度もした事はない。


 初日の段階で全ての教科書を読破した結果、すでに必要無しと判断したからである。


 その為、エヴァンは趣味である錬金術でポーションやその他の薬品等を作っては楽しんでいたのである。


「断言しやがったよ…ったく。

 まぁさっきも言ったけどさ、怖い事件があったんだ。

 貴族だの平民だのって差はあったけど、人が大勢死んだんだ。

 周りも気が立ってる、少し気を付けたほうがいいぜ?」

「ありがと、心配してくれて。

 今日は早く寝ていつもの様にふてぶてしい態度でいるよ。

 それじゃあまた」

「ああ、またなエヴァ。

 帰り道には気を付けておけよ?」

「そこの騎士さんに?」

「茶化すなよ、まだアルアーク男爵を殺した奴がうろちょろしてるかもしんねーんだ。

 友達の心配して何が悪い?」


 あまりに直球な言葉だったため、エヴァンは素で目をぱちくりとさせて驚いた。


 レオンの言葉には確かにエヴァンを心配する要素で溢れていたのだ。


 こんな打算と悪意で凝り固まったエヴァンに、レオンは友情を感じてくれていたのである。


(…良い子だねレオンは、ホント。

 レオンみたいな子が世界に溢れていたら、僕みたいな奴はいなかったんだろうなぁ)


 眩しいもので見るかのように、エヴァンは目を細める。


 そして自分を省みて自嘲するのだ。


(こんな僕が友達ねぇ…ははっ、本当におこがましいよ)


 顔を赤らめて『ちょ、なんとか言えよ』等と言ってそわそわしている仕草など、微笑ましく思えるほどに、エヴァンはレオンを眩しく感じたのだ。


「わかったよ、今日はお店に寄ったら速攻で家に帰るって。

 ほら、これでいいでしょ?

 護衛の騎士さんが待っているんだし、早く帰りなよ。

 アンジェ様も心配しているよ」

「…また明日な」

「うん、じゃあまた明日」


 不満そうな顔をして、レオンは教室から出て行った。


 サイラスが一瞬エヴァンを睨んでいたのだが、エヴァンが丁寧にお辞儀をすると、鼻息を鳴らしてレオンについて行く。


 教室にはもう数人しかいない上にエヴァンはレオンとの約束通り、早く帰らなくてはならない為、教室を出た。


「―――ちょっとエヴァ、待ちなさいよ!!」


 足早と早く帰ろうとするエヴァンに、ロニが急接近してくる。


 最近はロニと話すことも無くレオンやアンジェとばかり話していたし、疎遠となっていたのである。


 そのまま立ち止まっていると、漸くロニがエヴァンの元まで辿り着いた。


 エヴァンはロニが息切れを起こしているので、いつ話し始めるのかと若干だがいらだっているのだが、その事にロニは気付いていない。


「はぁ…はぁ、エヴァ、あなた、もう今日帰るだけよね?」


「いいえ、ベルモンド商会によってから帰る予定です」

「結局帰るんじゃない!?

 ああもうっ、そうじゃないわ!!

 エヴァ、あなた学級委員長になりなさい!!」


 丁寧に返すのだが、ロニは何か虫の居所が悪いのか、エヴァンのよく分からない内に激昂した。


 さらに学級委員長になれという命令もされて、エヴァンは少しだがむっとする。


「お断りします」


 エヴァンは即座に断った。


 面倒な事になるのは分かりきっているからである。


 この身分制度に凝り固まった学院が、貴族生徒が平民生徒に指示などされて動く訳が無いし、間違い無く反発するだろう。


 簡単に想像出来てしまう未来にげんなりしながらも、エヴァンはそうした理由をロニに伝える。


「僕のような外国から来た得体の知らない者より、高貴な身分のロニ様が命じた方が他の生徒の皆さんも何事も無く納得するでしょう。

 先生方が僕ではなくロニ様に学級委員長になって欲しいといわれたのなら、その期待に応えるのが民を従える貴族というものではないですか?」


 最後のよいしょも忘れずにエヴァンはロニに発破を掛けたのだが、ロニはエヴァンを胡散臭いもので見るかのような目で見た。


 何かおかしな事でも言ったのかと首を傾げたエヴァンであったが、ロニは溜息をつくが沸々と怒りが沸いてきたのか、一気にまくし立てた。


「普通、学級委員長は入学時の成績一位の者がなるのがこの学院の通例なのよ。

 副委員長は二位の者がなるっていうの、これがどういう訳か分かるでしょ?

 学院は『貴族』だからという理由でわたしを学級委員長したのよ!!

 入学式の時と一緒よ、ふざけているわ!!

 私は実力で学年一位になって学級委員長になれたのなら文句も無いし義務を果たすわよ?

 けど私は学級委員長にはなれなかったの、何故なら私は入学成績が二位で、エヴァが一位だったから!!

 次に私が学級委員長になれるとすれば、それは二学年になった時、正確にいうと一学年時の期末考査―――進級試験の事よ―――の成績で一位になった時よ!!

 今じゃないわ!!

 私に、このロニ・フォン・ビストにこれ以上恥をかかせる気なのあなたは!?」


 よほど屈辱的なのだろう、廊下に響き渡るほどの声量でロニは今までの鬱憤を晴らすかのように大々的に叫んだ。


 間近で聞かされる本人(エヴァン)からすれば甚だ迷惑な話であるが、目の前の少女はそこまで考えてはいない。


「そうですか、ですがそれは僕に言っても仕方が無いでしょう。

 学院側は僕が学級委員長になるのが気に入らないんですよ?

 ここで今更僕がそれなったとして、付いていく者なんていないでしょう。

 いいじゃないですか順位なんて、世の中なんて学院だけの価値で動いているわけじゃないんですから」

「…それは、私の今までの努力をバカにしていると、無駄だと取ってもいいのかしら?」

「そんな訳無いでしょう、価値観の相違だという単純な話ですよ。

 僕は学級委員長の地位になんて価値を見出せませんし、個人的な用事が多々あるんです。

 この学院に通うだけでも、結構なお金が必要なんです。

 なので、学級委員長なんていう時間(・・)の掛かるだけの役職なんてしたくありません。

 やりたい人がやればいいと思いますし、恥だのなんだのって深く考える必要なんて無いと思いますよ?」

「それは……その」


 まだ納得できないのか、ロニはまだぶすくれていて首を縦に振ろうとしない。


 よほど自分が学級委員長になりたくないのだろう。


 各クラスの成績が一番の者が学級委員となり、その全員を統括するのが学級委員長の勤めである。


 当然纏め上げるだけの統率力が必要となる。


 そしてこの学院では身分制度に拘っている事もあり、学級委員にも拘りがあった。


 爵位の高く優秀な者が学級委員となる事が必要なのだ。


 去年までは学年一意は当然のごとく爵位の高く優秀な貴族生徒であった。


 が、今年は予想外な事に、平民生徒が入学成績一位で入学してしまったのである。


 この時点でプライドの高い貴族生徒達のプライドは傷つけられていて、エヴァンの事をまるで親の仇の様な目で見てくるのだ。


 そんなエヴァンを学級委員長にして誰が付いてくるのだという話だ。


 誰が聞いても分かりきった答えしかかえって来ないだろう。


 つまり、この会話はエヴァンが平民という立場にある限り、ロニの望む状況になるはずが無いのである。


(めんどくさいなぁ、もう適当に会話打ち切って帰ろうか。)


 決めたからには即行動とばかりに、エヴァンはロニが一番納得しそうな方向へと誘導することにした。


「ロニ様、そんなに学級委員長が嫌なのなら、アンジェ様になってもらえばいいんじゃないですか?」

「……え?」


 何を言い出すのかと思ったのだろう、ロニはどういうことなのかと目を点にさせてしまった。


「つまりですね、本来ロニ様は学級副委員長になるべきだと思っているのでしたら、なってしまえばいいんです。

 当然学級委員長は不在となりますが、そこは王族でもあり、成績第三位のアンジェ様がなってしまえばいい。

 実際、成績もほとんどロニ様と変わりませんし、四方六方八方、貴族教師や貴族生徒も納得出来る一番の解決策といえるでしょう。

 この事を担任の先生に伝えれば、ロニ様が学級副委員長になっても誰も文句は言いません。

 アンジェ様も今日は休んでいますが、ロニ様がお願いすれば断る事もないでしょう。

 では、僕はこれで、頑張ってください」


 ロニがよく分かっていない内にエヴァンは勢いに任せて喋りに喋った。


 言い切った後、その言葉を噛み砕いて理解しようとしている内にエヴァンは足早と去って行った。


 ロニが気付いたのはエヴァンの言葉を全て理解した時で、納得こそしないが不満はなかったので、どこにいるとも知れないエヴァンに『ありがとう』と、誰もいない廊下で小さく呟いていた。



 ■ ▲ ■ ▲ ■ ▲ ■ ▲ ■ ▲ ■ ▲ ■ ▲ ■ ▲ ■ ▲ ■ ▲



 いつものようにエヴァンはベルモンド商会へと来ていた。


 アニマは裏社会のほうで何か進展があったのか、朝から置手紙をしていなくなっていた為、会話もしていない。


 エヴァンは仕方ないと思いつつ、いつものように薬品の材料や使い潰してしまった機材を補充していく。


「セルバーさん、今日はこれだけちょうだい」


 セルバーはもう商会で長年勤めているような佇まいで接客をしており、本職である軍人を忘れているのではと思うほどに本格的であった。


「おや坊ちゃん、毎度ありがとうございます。

 えーと、アレル草の根にオウヒ、それとリョウガンを各一ダースと。

 そういえばポーションの納品ありがとう、急ぎで作ってもらったけど、大変だったでしょう?

 そっちの在庫のほうはあるのかな?」


 アレル草にオウラン、そしてリョウガンと呼ばれるのは全て錬金術の原料に当たるものである。


 アレル草の根は魔力と親和性の高い植物で、主に魔力濃度の高い地域で生えている。


 錬金術の中では相性の悪い原料同士を合わせる際に必須なもので、どの錬金術師御用達の店でも品薄となっているものだ。


 オウランは地属性の魔力の篭っている魔石で、主に生命力を底上げする力がある。


 水系統のような即効性は無いものの、値段も安く多く採掘されるため、錬金術師が薬を生成し販売したとしても、民間でも比較的安く手に入れる事が出来る。


 リョウガンとは魔獣の眼球の事である。


 強い魔獣ほど効果と価値は跳ね上がっていき、一時期材料を集めるだけで破産した錬金術師がいたと言われるほどの特殊な素材である。


 エヴァンが買ったのは比較的ランクの低いものだったため一ダースも買えたが、それでも一つあたり5000ゴルドは一般的に言えば十分に高価といえよう。


「あーそうだねぇ、今日は持ち合わせがこれ買うと無いんだ。

 だから明日にするよ、取り置きは大丈夫?」

「ああ、もちろん。

 ルッケンスさんにも伝えておくよ、はい、会計は15万7500ゴルドね」


 この世界の貨幣は統一されており、『ゴルド』とされている。


 十進法で成り立っているため、様々(・・)な意味で分かりやすいものと言えよう。


 エヴァンは金額通りゴルドを渡すと、セルバーはちゃんと金額があるのか数えはじめる。


(…セルバー、店員が板に付きすぎじゃない?

 …いや、【下士官】クラスは全員が確か地下にある訓練場でいつも強化訓練を受けているから、そうでもないか。

 にしても…尾行(・・)が鬱陶しいなぁ)


 エヴァンは学院を出た時から自分を尾行している人間に気付いていた。


 明らかに近衛騎士であり、おそらくはレオンの命を受けた者なのだとすぐに気付いた。


 とはいえ影からの護衛任務など近衛騎士が習得しているわけも無く、無駄に豪華な鎧は悪目立ちしていて、『気付かない振りをするのが大変だよ』とエヴァンは小さくぼやいた。


「はい、確かにお預かりしました。

 坊ちゃん、こんな大金を持ってくるのは危ないから、今度から材料を調達するときはルッケンスさんに先に渡していた方が良いと思うぞ?」


 一般庶民の平均月給は約7万ゴルド、エヴァンはぽんとその倍を出してしたのである。


 エヴァンの他に数人の錬金術師と買出しをしてきた弟子達がいて、エヴァンが大金をセルバーに支払ったところを目撃されていた。


 大金を持った現場を見られてしまえば、あとはエヴァンの容姿を見て『いける』と思ってしまう者が出かねない。


 そして自業自得だが、そうした連中はエヴァンやアニマに材料(・・)にされてしまうという末路となってしまうのだから、救われない話である。


「そうだね、次からはそうしておくよ。

 それじゃあセルバーさん、また明日」

「毎度あり!!」

(…それでも心配だ、セルバーはちょっとシャレにならないレベルで板に付きすぎだよ。

 そういえば、僕セルバー以外の店員と会った事がない。

 もしかして、セルバー以外不適格だったって事?

 ……うわぁ)


 なんともいえない気持ちにさせられたエヴァンは頭を振って忘れる事にした。


 エヴァンはベルモンド商会から出ると、慌てて路地に隠れる近衛騎士を確認して借家へと帰る。


 近衛騎士は気付かれないように―――本人はそのつもりだがバレバレでしかも不審者の目で周りに見られている―――していて、エヴァンもその視線に気付いていない振りをしながら帰って行く。


 ここで備考に気付かれて、その報告をレオンが聞いたときあの鋭い直感力で気付かれない為の措置である。


 エヴァンとしてはレオンに借家を知られたくは無いが、これも必要措置とばかりに諦めた。


 頑なに住んでいる宅の事を拒否して、不審がられては困るからだ。


「あ、おにいちゃんだ~!

 お帰りなさい!!」


 と家にまで辿り着くと、同じく帰ってきたアニマ―――外面用―――と出遭った(・・・・)


 少女然とした舌足らずな口調に寒気の覚えたエヴァンは、背後にいる近衛騎士に気付かれない様兄らしい態度で接した。


「ただいまアニマ。

 今日は父さんは帰ってこないから、僕が夕食を作るね」

「は~い!!」


 これだけの会話にエヴァンは顔が引きつるのが止まりそうもなく、不審に思われない程度に扉を開けていく。


 扉を閉めた後、エヴァンは室内に遮音性能のある風系統魔法で結界を展開した。


「……アニマ、ホントそれ心臓に悪いから、やめて」

「やじゃ」


 近衛騎士が去っていくのを確認して、エヴァンは夕食を作っていく。


『料理は数学』とエヴァンは考えている。


 数学の公式、料理でいうところレシピ通りに従って作れば、どんな素人でもおいしく作品が作れるのだ。


 とはいえエヴァンも研究熱心な所が高じて、何度か創作料理といった料理を作ったりした事があった。


 確立は半々で『劇物』が出来てしまうという、なんとも残念な結果が続き、エヴァンは二度と創作料理に手を出す事はなくなった。


 エヴァンはアニマとの押し問答は夕食が終わってからも続き、結局は問題は解決せず。


 せっかく新しく買ってきた原料も後日の持越しとなった。


 紙袋のそこにはいつものように報告書があり、短く『進展なし、続報待たれたし』としか書かれていない。


 仕方ないと思いつつ、エヴァンは早めに寝る事にした。


 明日の中間考査の事などかけらも思い出さずに、エヴァンは夜風の心地良さを感じながら目を閉じた。





読了頂き、ありがとうございました。

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