プロローグ1
お久しぶりです皆様、帰ってきました復讐ものが。
帰ってきてしまいました、ハハハ。
クリスマスの25日まで、連続投稿の予定です。
あと、本作品の第一章を大々的に邂逅する予定です、改良になるといいですね、改悪にならなければ幸いともいいますが。
では、本日より三日、その一話をご覧ください。
星暦1211年8月31日
アナハイム王国王都ベルンは、惨憺たる状況にあった。
建国祭の最中に起きた大事件が終わってから一週間経ったが、未だに王都に残った傷は復興の目途すら立っていない。
王都を襲った災厄は物的被害、人的被害共に歴史に名を残すほどの物となっていたのである。
王都の半分以上の建物を焼却し、その内の一角は完全に焦土と化していた。
特に被害の大きな場所だったのだろう、冒険者ギルド周辺はいくつものクレーターが出来上がっており、まるで竜種が暴れ回ったかのような惨状となっていた。
そして王宮では生き残った王族でもあるアンジェリーナ・ヴルト・ヴァン・アナハイムは兄であるアルコル・マリフォ・ヴァン・アナハイム、そして静養中だったガイスト・ライフ・ヴァン・アナハイムを呼び出し連日会議をしていた。
今後の王国、その方針についてである。
「……それにしても、あれだけ見事だった王都がこの状況とはね。
随分と僕がいない間、凄い事をしてくれた連中がいたものだね。
アルコル兄上、それにアンジェ、下手人について何か情報は来ましたか?」
つい先日やってきたガイストが青白い顔をしながら2人を見やった。
元々身体の弱かったガイストは王族としての義務を殆ど果たせていなかったが、それでも十分に優秀な頭脳を備えていて、国の一大事とあって無理をしてこの場に来たのである。
「…殆ど無いといっても過言でない、完全にしてやられた形だよ。
正直私は王都から距離をとっていたので、下手人が貴族殺しの事件と同一人物だったとしかアンジェから聞いていない。
王都の機能は完全に死んだと言ってもいい、復興の目途が未だに立たないのは王都周辺もそれ所ではないからだ」
この一週間で気疲れを起こしたのか、アルコルと呼ばれた貴公子はふぅとため息をつきながら答えた。
王国全土を標的にしたこの事件で止めとばかりに刺された王都はその機能を既に果たせていない。
貴族街をはじめ、商業区画、各ギルド、居住区各、スラム、闇市場、そして学院までもが焼け落ちてしまっており、死傷者も大量に出て未だに見つかっていない者までいる。
かろうじて星神教会が炊き出しを行っているものも、物資が余りにも足らず何度も暴動や乱闘が起きていて、その度に取り押さえられるといったことまで起きているのだ。
そして王都周辺の都市にしても、王都からの難民問題でとても王都に手を回せるだけの余力が無いの問題であった。
「…この惨状を企てたのが、私達の友人であったエヴァン・ヴァーミリオンという一人の少年です。
動機は…7年前の戦争終結時で起きた帝国の工作で辺境の村々を滅ぼされた恨み…だそうですわ。
彼はその時の唯一の生き残りで…」
アンジェは父であるビスマルク・ヒュッケ・ヴァン・アナハイム三世はエヴァンの拷問の末に惨殺された。
それも、アンジェやレオン、そしてロニ・フォン・ビストの目の前で首を刎ねられたのだ。
「…アンジェと同じくらいの、まだ子供とも言ってもいいそんな存在がこんな大それた事をした訳か…余程恨みがあったのだろう。
陛下の…父上の状態を見ればどれ程憎んでいたのかわかると言うものだ」
どれだけ憎めばこれだけの惨状を引き起こせるだけの能力を身に着けたのか、アルコルとしては不謹慎ながら感心するより他に無いが、他人事のような口調にガイストがじろりと睨み付けた。
「何らかの組織が背後で糸を引いていたのでは?
いくらなんでも、12やそこらの子供が国を相手取ってここまで一方的に出来るとは思えません。
しかも、我が国に伝わる【星神の贈り物】までも奪われたそうではありませんか!?
いったい、近衛騎士団は何を…ごほごほっ!!」
興奮しすぎたのか、ガイストが蒼白かった顔がさらに蒼白になっていき、後ろに控えていた従者が慌ててガイストを支えて薬を処方した。
強行軍が祟ってか、興奮しただけで咳き込み意識を飛ばすほどに衰弱していたが、それでも落ち着きを取り戻して会議の席についていた。
どうやら今日は聞く側に徹する事に決めたようである。
「ガイストお兄様の言葉を引き継ぎますが…近衛騎士団はほぼ壊滅いたしました。
あの火災が起きた直後、王宮を出るといった貴族と共に火災を消火する為、避難誘導をする為に宮廷魔導師も動員して送り出したのです。
しかし、王都ではエヴァ君…下手人と同じ組織に属する者が操る【人形兵器】と言う存在によって徹底的に殺されたのです。
高い戦闘能力を有した冒険者ギルドも標的にされていたようで、生き残った冒険者も50人と残っていません」
王都の住民を含め、低く見積もっても1万人を超える死傷者に現在は行方不明者の捜索が行われているが、結果は芳しくない。
王都を出た住民達は周辺の都市へ着く前に魔獣に襲われたり餓死したりと難民になる以前に危険が多かったが、このまま王都に居続けても生き残れる可能性を鑑みた結果、王都を出る事にしたのだろう。
「…レオンはどうなのだ?
意識はまだ戻っていないと聞いたのだが?」
この事件でレオンが倒れた事はすぐに王宮の噂として広がっていた。
エヴァンとの戦闘で、重傷を負ったレオンは現在も療養中だとの話をガイストは既に聞き及んでおり、怪我の状態を尋ねたのだが、アンジェから帰ってきたのは予想に反した解答であった。
「…いません」
「……なに?」
「だから、いないのです、レオン兄様は。
もっと正確に言うと、この王宮にはいらっしゃいません」
「…アンジェ、それは私も今知ったのだが、どういう事だ?」
アルコルとガイストが説明を求めるが、アンジェは首を横に振る事しか出来なかった。
それは最もレオンの傍にいたアンジェでさえも知らないという事実であり、2人の兄は信じられないと言った表情をした。
アンジェとレオンの母親は違う異母兄弟だ。
もちろんアルコルとガイストの母親とも違い、父であるビスマルクは正妃、側妃の4人は各1人ずつ子供を生んだのだ。
しかも奇跡的な事に、この4人は仲も良く一度として関係を拗らせた事が無かったのである。
そして一番仲が良かったのがアンジェとレオンの母親達で、よくお互いの部屋へ出入りしているほどだったのだ。
その遺伝子を受け継いでか、アンジェとレオンも関係を拗らせる事無く兄妹仲は非常に良かったのだ。
「…昨日の昼までは確かにレオン兄様はこの王宮にいました。
しかし、夕方になってからは夕食に顔も出さず、確認しようとメイドに行かせたのですが…その時には既に部屋には誰もいなかったのです」
その後捜索は秘密裏に続いているものの、レオンの足取りは一切掴めておらず、王宮から出てしまっているのではないかと推測が立っているのみなのである。
そしてレオンとは別に、ロニまでもその消息を絶っている可能性が出てきており、こちらに関しては今朝方王宮にロニから手紙が残されていたのだ。
『エヴァを追う、探さないでくれ』、それだけを書き記して、アンジェの親友は王宮から出て行ったのである。
「…可能性としては、ロニと一緒にレオン兄様がエヴァ君を追いかけようとしているのではないか、そう思っているのですが…」
「ロニ嬢か、彼女も今回の一件で家族を失っていたな。
…復讐、だろうか?」
「僕はロニ嬢と話した事が無いからね、なんともいえないな。
けど、ビスト侯爵家を始め、この事件の所為で軒並み貴族家の当主を殺されている。
……今後、この国は荒れるよ。
その為にも、まずは新たな王を立てなければならない」
ガイストはアンジェを見つめてそういった。
アルコルもガイストの言葉に賛同し、アンジェを支持する立場を表明する。
アルコルはすでに王籍から離れ公爵家の当主となっていて継承権自体を放棄している。
ガイストは身体的な問題から継承権こそあるものの、いつもその権利を放棄したがっていた。
レオンに至っては以前から臣籍へと下る事を表明しており、必然的に、次代の王はアンジェ以外にはありえなかった。
「…宰相はジャック・フォン・エチレン伯爵に継続していただきましょう。
彼は7年前の戦争後に着任した人物です。
エヴァ君が狙わなかったほどの彼ならば、逆に心配する事など無い筈です…」
今この場にいない宰相ジャックは停止した行政を何とか復活させようと王都周辺から官吏を引き抜いている最中で、事件当日はちょうど王都を離れ難を逃れていた。
アンジェは今後の王都をどう復興させようかと考えながら、ふと別の事を思い浮かべた。
(…ロニ、レオン兄様、どうかご無事で。
エヴァ君の言っていた情報が本当なら、数ヶ月しない内に今度は帝国に彼の手が…無茶はしないでくださいね)
アンジェには精精が護身程度の戦闘能力しかない。
たとえ2人についていったとしても、足手纏いにしかならなかっただろう。
だからこそ、アンジェは2人が帰って来た時、国を少しでも復興させていかなくてはと心に決めた。
(エヴァ君、貴族が、王族が、国が戦争を終わらせて喜んでいる頃、地獄を味わってしまったエヴァ君の世界は絶望しか見えていなのでしょうね。
恨まれても、憎まれても、呪い尽くしても消えない想いが心に巣食っている事に最後まで気付けなかった私達がどれほど罪深いか、少しだけど、分かった気がする。
だけど…だけど、私は負けない。
今度こそ、間違えないわ!!
この国を、本当の意味で救ってみせる。
その時こそ、エヴァ君と向き合えるのだと、そう信じて)
そして、もう一人の友人、否、敵となったエヴァンの事を思い浮かべながら覚悟を決めたのだった。
アナハイム王国はこの日、新た決意を抱いた王が生まれた。
国難にありながら最後まで民の為に心を砕き疲弊した王国を復興させた女王。
後に【白金の女王】と呼ばれる彼女の、小さくはあるが意味のある一歩だったのである。
読了ありがとうございました。




