プロローグ1 星暦1204年7月12日
御存じの方はお久しぶりです、お初の方は始めまして。
ハイブリット妖魔が行く異世界道中を完全編集した今作【世界滅ぼし軍(略)&(仮)】を始めます
お楽しみいただければ幸いです、では、どうぞ。
*あまりにもグロイので2回OVL大賞応募作は断念することにした作品となります。
主人公サイドのおよそ八割以上が狂人ばかりというこの物語に気に入ってくれる方がいましたら幸いです。
異世界アルデバラン
星暦1204年7月12日
アナハイム王国アークス伯爵領シマック村
今でも夢に見る、この光景。
今この瞬間、村は滅びようとしていた。
きっかけは分からない。
帝国との戦争もやっと終わり、冒険者たちが帰って来ると村人たちは思っていた。
そのはずだった。
戦争が終わったと思っていた村人たちは、いきなりやってきた大所帯の武装した男たちが突然家に魔法の火を放った事を、ただ呆然と見つめていた。
その瞬間から、この村に地獄が発現した。
男たちは村のみんなを殺していく。
村長のオルヴァーさん、道具屋のマサおばさん、元冒険者だったディーンおじいちゃん、友達のクルル君。
大好きだった母さんも、僕の目の前で殺された。
僕と折り重なるように、庇う様に僕を抱きしめるお母さん。
目の前には村のみんなを殺した男が剣を突き立てる。
お母さんの心臓を貫き、重なっていて気付かなかったのか、僕には剣が少し掠っただけだった。
殺したと思ったのだろう、男は確認もせずに僕の家から出て行く。
用が済んだとばかりに、男たちは村を去っていく。
笑っていた、あいつら、こんな事をしたのに、笑っていた。
焼け付く臭いだけが村を覆い尽くしていき、死んだ母さんをどかして燃え始めている家を飛び出した。
最後の言葉は今でも覚えている。
『生きて』
泣いていた、笑っていた、小さかった僕でも分かる位痛みを我慢して、それだけを言い残して、死んでいった。
誰もいない、死んだ、死んだ、みんな死んだ。
僕以外の、死体しか残っていない村が、そこにあった。
すべての村人が死んでいる、すべての家が燃えている、生きている気配が何一つ無い、死の世界が形成されている。
『ぐっ、う、うぅぅ、あぁ、ひっくぃ、うぅぅぅぅっ!!』
斬られた痛みなのか、それとも皆が死んで悲しかったのか、それともその両方なのか。
堪える様な嗚咽を流していた僕に、あの人が現れた。
『これは…なるほど、まだ戦争をしたい奴が適当な連中に命じてやったのか?
やっている事が雑すぎるな、普通に生き残りがいるじゃないか』
あの男たちの様に村の入り口からぞろぞろ入ってきたわけじゃない、まるで最初からいたかのように、僕の目の前にあの人が現れた。
不思議な格好、冒険者が着ているような粗雑さを感じられない、機能美に満ちた真っ黒な衣装。
所々を黄色の線で縁取られ、帽子の正面には何かの紋章が張り付いている。
『ふむ、どうやら大切な人たちがみな死んで、絶望しているようだな。
まぁこの状況ならば運命を呪っても仕方ない、少年にとって世界はまだ狭いからな。
その世界が破壊されたのだ、呪うのも理解できる。
さて、少年、ひとつ提案があるのだが、聞く気力はあるかね?』
この惨状を見てもあれだけの感想しか出なかった人間の言う事だ、きっと碌なもんじゃない。
それでも、僕には何もする事が無かったから、聞くぐらいしかない。
痛みで腕がジンジンするけど、これくらいならまだ耐えられる。
『ふむ、聞く気力はあるようだ、では提案をしよう。
この腐った世界を、変えたくは無いか?
何も失わない為の力が欲しくは無いか?
欲しければついて来い、すべて与えよう。
だがその瞬間、お前は闇よりもなお暗い道を歩む事になる』
難しい事は何一つとして言われていない。
この世界を変える力を。
もうこれ以上何も失わないための力を。
与えると言ったけど、それは少し違って、切っ掛けをくれるだけなんだろう、僕は思った。
『君はもうじき出血多量で死ぬ事になる。
浅くとも子供の体格からして、それ以上の出血で十分に体力と気力を奪われ、最終的に何らかの感染症により死に至るだろう。
それならば、こんな怪しい私の言葉を、信じてみないか?』
きっとこの人は悪い魔法使いだ。
そうでなければ詐欺師だろう。
選択肢なんて残っていないのに、そんな優しそうな表情で、声で僕に語りかけてくる。
僕は彼に頷くとそのまま意識を失った。
『ようこそ、我らが【夜明けの軍団】へ。
歓迎しよう、絶望せし少年よ』
運命は、その瞬間から巡り始めた。
読了頂き、ありがとうございました。
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