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アルシア  作者: senmo
プロローグ
3/5

プロローグ3

森に響く遠吠えで目が覚める。昨晩は満足に寝ることが出来なかった、薄暗い中警戒しながら探る目には隈がはっきりと見て取れる。



体力を回復させるために寝る前の準備は怠らなかった。果物で腹を満たし、手ごろな木の枝にネクタイでベルトと木を結び落ちないように工夫した。確かに木の枝の上は寝心地は良くなかったが、疲れた体で寝れないほどではない。木の上での安心感が勝る。


後は寝るだけ、そう思い木に抱き着いて瞼を落としたまでは良かった。日が沈み目を閉じることで今まで聞こえていなかった獣の声が聞こえる。遠くではあるが明らかに獰猛な獣の鳴き声。生きた心地がしない。


比較的近くで獣の鳴き声が響き渡りびくりと体を震わせる。夜は音がよく通り、闇の中では聴覚が冴える。星の光も木々が遮り何も見えない夜の闇が、獣の蠢く夜の森がこんなにも恐ろしいとは知らなかった。


昼に追いかけられたゴブリンを思い出す。あのような異形の者が存在したのだ、さっきの鳴き声の主はいったいどんな奴なのだろうか。未知への恐怖が、死への恐怖が心を侵食していく。そうして朝まで満足に寝ることが出来なかった。



遠吠えを聞きながら鈍った頭で状況を判断する。

(大型犬?まだ距離はあるけど、木の上でやり過ごそうか?薄明るくなった今なら動けるが・・・)

あたりを見回そうと体を起こすと枝に向かってぐっと引っ張られる。

(ネクタイで結んでたんだった。)

慌てて(ほど)き直ぐに動けるように凝った体をほぐす。再度遠吠えが響き渡る。さっきより近い、近づいてきている。


(あんまり時間がない。群れだとやっかいだ、囲まれたら動けなくなる。森の中、木に登るのは何時でも出来る。なら今は逃げるべきだ。)

そう判断すると木を降り、遠吠えが聞こえたのとは逆の方に足を向ける。駆けながら分かる範囲の地図を思い浮かべる。このまま行くとちょっと大きな川がある。右手側が上流で左手側が下流だった。それ以外は食べれそうな物があった場所しか覚えていない。食べ物以外ももっと見ておくんだったと後悔する。


右手に向かうか、左手に向かうか、それともまっすぐ川に向かうか。判断材料が、遠吠えと川しかない。逡巡していると右後ろから遠吠えが聞こえた。想像以上に近くなっている。慌てて進路を少し左側に変え、川へ向かって速度を上げる。


(泳げたとしても犬だ。犬かき相手だったら大丈夫)

川まで行けば逃げ切れる。


「ヴォォォオーン」


かなり近い、しかも左側から聞こえる。慌てて進路を右にずらすが立て続けに遠吠えがあちこちから聞こえる。


(囲まれている!?)


川はまだ見えないがそんなに距離はないはずだ。辺りを警戒しながら森の中を駆ける。右後ろから何かが駆ける音が聞こえる、視線を向けると狼をちょっと丸く愛らしくした中型犬サイズの狼?がつぶらな瞳で見つめながら駆けてきている。子狼だろうか、その愛らしい姿をむき出しの犬歯とうなり声で掻き消していなければ足を止めていたかもしれない。


木に登る余裕は無い、登っている最中に飛びかかられる。しかも追ってくるのは1匹だけで無く、左右後方に合わせて6匹ほど併走して追い込んでくる。明らかに俺より足が速いのに唸りながら追い立てるように隊列を組んで併走している。何処かに誘導されているような気がするがどうする事も出来ず川に向かって走ことしか出来ない。


川まであと少しという所で子狼の数が増えた。しかも進路を変えようとすると唸りながら威圧をかけてくる。明らかに何処かへ追い込まれているが足を止めるわけにはいかない。いやな予感だけが募ってゆく。


前方から進路を塞ぐように3匹の子狼が現れる。併走してきたやつより一回り大きい。完全に囲まれる前に進路を変えたいが包囲がきつく難しい。前方の3匹に合わせるように包囲を狭めてくる。


迷ったのは一瞬。川までいけば!川まで行けたら!足を止めてはいけない!


「うあああああああああ!」


己の命をチップに叫び突貫する。前方の3匹はそれに怯むことなく迫ってくる。交差する直前に大木を盾に左へ迂回するように回り込み右側の一匹を躱す。2匹はしっかりと反応し同じく木を回りこんで正面からぶつかる。


がむしゃらに振るった右腕が最初に飛びかかってきたやつの顔に当たり軌道を逸らす。その際に牙がかすり皮膚が裂けるが、しびれたおかげか痛みはあまり感じない。半テンポ遅れてもう一匹が飛びかかってくる。右腕を振った事で引かれた左半身に牙は届かないが爪が脇腹を浅く抉っていく。ワイシャツが引き裂かれ3本の浅い傷を負う。血が滲み熱を持ったように痛い。


飛びかかって来た2匹はバランスを崩し、包囲し追ってきていた子狼とぶつかる。


「ぬ゛う゛お゛お゛おおおおおお」


バランスを崩したのは子狼だけではない。飛びかかられて崩れた体制を気合と根性を総動員し踏ん張って耐える。無理やり足を前に出しつつ手を木にあて右側に倒れかけていた体制を強引に立て直す。蹈鞴(たたら)を踏む様な危なげな感じながら、何とか速度を落とさずに耐えた。包囲を突破出来たが余裕は無い、そのまま一気に川を目指す。


川の音が聞こえる木々が邪魔で見えないが確かにそこにある。


一回り大きい子狼は即座に体制を立て直し追ってくる。小さな子狼は包囲を突破されたことで焦ったであろう、隊列を歪めながらも襲い掛かってくる。


木々の隙間から川が見えた。


(後少し)


逃げきれるという所で大きな子狼が追い付いてきた。

川まであと3歩、子狼にかまわず大きく踏み込む、。靴が脱げるが気にしない。残り2歩、狼は顔の前に迫った脱げた靴に噛みつく。僅かなしかし決定的な間が生じる。残り一歩、靴が脱げた足で地面を蹴り跳躍する。子狼の牙、爪は僅かに届かない。


勢いをそのままに川に突っ込む。子狼によって作られた無数の傷に水が染みる。しかし不快感は無い、逃げ切れたのだ。痛みがその現実を主張している。


川岸を振り返ると子狼が悲しそうにこちらを見ている。私という獲物を逃したからからだろう。少し視線をずらすと大きな狼が居た。追ってきた子狼の倍以上は大きく、木の上からこっちを見ている。距離があるのに凄い威圧感だ。あれに襲われていたら一溜りもないと確信できる貫禄があった。


子狼の親なのだろう、私への興味を失ったように子狼の方へ去っていく。追ってこない、ほっと一息つきつく。さて、対岸へ泳いで行こう。


(おおう?)


服が水を吸って重い。手足を思うように動かせない。川の流れが速い、流れに揉まれる。足がつかない、焦りが生まれる。


水の流れとは恐ろしいものである。激流であれば30㎝の深さで人が溺れてしまう程に。


この川は激流とは程遠い、それでも人を押し流すには十分な流れを持っていた。大きく緩やかなに見える川は恐ろしい力となって流れていく。服を着たままでなければどうにかなったかもしれない。ここが滝の手前で無ければまだ流れは緩やかだっただろう。


現実とは非常だ。水を被りながらも何とかバランスだけはとり、顔を水面から出した私の目に映るのは朝日。それを遮るものは何も無く、絶景の先に朝日だけが見える。滝だと気付いた時にはもう遅く、一瞬の浮遊感の後私は意識共々滝壺へ落ちて行った。

誤字脱字等、お気づきになりましたらご指摘お願いいたします。


・次から第一章になります。

・次の投稿は1~2週間後。

・設定考えるだけでも難しい。

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