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アルシア  作者: senmo
プロローグ
2/5

プロローグ2

6/5 16:00 手直し

体が重い、頭がクラクラする。薄いまどろみの中まだ寝て居たかったが、頬に雫が当たり目を開ける。


(遅刻する!!)


一気に覚醒し飛び起きる。時間を確認しようと時計を探し固まった。


「え?」

(ここは何処?)


あたりを見渡すが、木がおおい茂っていて遠くまで見通せない。朝なのだろう薄暗く、小鳥の(さえず)りが聞こえる。


(森?仕事は?ん?今日土曜だっけ)

(期限が迫ってる仕事が!いや、今日行かなくてもなんとかなるか)

(なんで森に、記憶が無いぞ。酒飲んで無いよな?)


ちょっと混乱し、しばらく思考だけがぐるぐると回っていたが大きく深呼吸し気持ちを落ち着かせる。それからゆっくり思考を纏める。


(えー直前の記憶は)

「チキンを買って、食いながら弁当屋に向かった。トンネルで・・・・・」


(うん、幻覚か悪夢だよね。最近仕事で忙しかったし。ストレスと疲れが溜まってたんだ。しかし、どうしてこんな所に居るんだ?道もないし。うむ、分からん!とりあえず状況を確認してから人を探すか。)


立ち上がって、体を確認する。特に痛い場所は無い。服は土で汚れているが争った様な後や、破れは見当たらない怪我もない。鞄も無い。携帯も無い。

(身包み剥がれた?いや、部屋に置いて来ただけだよね!)


「速く家に帰って確かめないと」


家にある事を願う。携帯には仕事関係の連絡先が、鞄には大事な資料や財布も入っている。無くした事を考えるとゾッとする。身の周りを確認し終わると、周りの探索に移る。

(広葉樹林が多い、そんなに寒くないし東北って事は無いかな。)

辺りを少し歩くと小川があった。水が澄んでいて綺麗だ、触ってみるとひんやりとして気持ちいい。手ですくって見ても、非常にきれいで変な匂いもしない。


(飲めるかな)


喉が渇いてる事に気づきゴクリとつばを飲みこむ。水がとても美味しそうだ。

(飲んでみたいけど、食あたりとか怖いし今はやめておこう。川に沿って下れば家があるかもしれない、今は我慢だ)


顔を洗うにとどめ、川に沿って下流に歩いていく。


一時間ほど歩いただろうか、その姿には疲れが見て取れる。それもそのはずで、森を歩く服装ではない。革靴にスーツ。上着は脱いで腰に巻きつけ、ネクタイは思いっきり緩めてある。白いシャツの背中の部分は汗で薄っすらと濡れている。ズボンには枝で引っかいたような後が見え、森の移動が楽では無いことを示している。

日が昇ってきて少し明るくなった森を見渡すが、森を抜ける気配は無い。小川の幅が少し広くなったような気がする程度だ。それでも家に帰るために川沿いを歩く。


数時間が経って大分日が昇り、葉の間から木漏れ日が差す中を歩き続けている。袖で汗を拭 (ぬぐ)うも、玉のような汗が頬をつたって落ちてゆく。足取りが重く、肩で息をしている。


「暑い!もう無理。喉が渇いて我慢できん」


そう言って手で川の水をすくう。目の前まで持ってきた水をどのくらい眺めていただろうか意を決したように目を閉じゆっくり飲む。


「うんめぇええ~~~」


感極まった様に打ち震えたかと思うと、すごい勢いで水を飲む。朝からずっと我慢していた事もあって、すごく美味しい。まるで天然水だ。


(うっ、飲みすぎた。気持ち悪い。ちょっと休憩しよう)


流石に吐くのは我慢し、手ごろな石の上に腰を下ろす。

(3,4時間は歩いたのに人工物一つ見当たらない。川の水は澄んでいて美味いって事は上流には何も無いよな。途中起伏が殆ど無かったし、これだけ平らで広い森って何処がある?富士の樹海?でも何でそんな所に居るわけ?まさか日本じゃないって事はないよね・・・・)

闇に飲まれた事が頭をよぎりブルっと体を震わせる。


(それにしても腹が減った。朝から、いや昨日の夜からまともに食べてない。人の気配が全くないしこのまま昼まで歩いても、誰かに会えそうにないし、そろそろ食料をどうにかしないと、飢えてしまう。知識が無いのが怖いけど、何か食べれそうな物でも見つけたら挑戦しよう)

意識的闇に飲まれた事を避けに思考を変えた。そのまま少し休憩してから食糧を探し始める。



しばらく歩くと黄色い木の実を見つけた。駆け寄ってじっと眺める。

(黄色い桃?毒はなさそうに目るけど大丈夫かな?)


慎重に一つを取って匂いをかぐ。嫌な匂いはしない。実を木に打ちつけ割ると若干黄色がかった白い果肉が見え、甘く美味しそうな匂いが漂う。

(形も中身も桃っぽいけどなんか違う)


少しだけ指先で果肉に触れる。痺れや痛みは無い。果肉に触れた指を恐る恐る口元にもっていき舐める。シュワーという刺激と共に甘さが広がる。

(お、結構いける)


(かぶ)り付きたいのを我慢し、体に異変が起きないか数分待つ。異常なし、危険な毒はなさそうだと一口かじる。

(おおお、これは美味い)

幸せそうな顔でゴクンと飲み込む。


「あっ」


口の中に含んで暫く待つ予定だったのに飲み込んでしまった、軽い毒とかあったらどうしよう。恐る恐る数分待って居たが、何も無いことに安堵する。


「ギュルギュルギュル」


安堵と共に腹の音が盛大に鳴る。周りに誰も居ないのだが、顔が赤くなってしまう。ごまかす様に咳払いをし、果実に齧り付いた。

(桃缶のように甘くて柔らかいのに、炭酸飲料のような刺激があって不思議な触感。)


そんな感想を抱き満足いくまで食べると、スーツに果実を5個ほど包み袖の先を結び簡易なバックの様に肩にかける。袖の部分にまで果実が入り込み若干持ち難いが仕方が無い。さて小川に戻ろうと立ち上がったところで、びくっと体を硬直させる。


(子供?緑?)

少し遠くよく見えないが、子供のような背丈で肌が緑色をしたもの何かを見つける。


「ギヤー」


緑色の何かは不安を掻き立てる耳障りのする声で鳴きながら走り迫ってくる。


「っ」


異様な気配に危険を感じ息を詰まらせながら、即座に小川があったほうに逃げ出した。


「ギヤー」「ギー」「ギィヤー」


甲高い奇声を発しながら、見たことの無い獣が群れで追ってくる。緑色の肌をした、子供くらいの背丈。あれは何だろうか?まさか・・・

(ゴブリン!?)


信じ難いが目の前の緑色の何かはゴブリンに見える。そのゴブリンが散発的に石を投げてくる。飛んでくる石を警戒しながら後ろを確認する。身長の割りに長い手には石や短剣、棍棒等の主に石で出来た武器を持っている。細身だが腰の位置が低く、素早く動けそうな感じだ。耳はかなり長く遠目では角の様にも見える。


(殺される。)

みかんサイズの尖った石が近くの木に当たり傷をつける。当たったらと思うとゾッとする。明確な殺意をまの当たりにし足が竦みそうになるのを必至に抑えて、被弾しないようにジグザグ気味に走る。飛んでくる石の数は多くなく、不器用なのか精度が悪いのが救いだ。


(振り切れない)


全力で走っているのに遅々として距離が開かないのだ。ゴブリンは体が小さく小回りが利くのか速度が落ちる気配も無く木々を縫うように追ってくる。追いつかれたらどうなる?殺され、食われる?

(嫌だ!捕まってたまるか。)

走る。枝を掻き分け、木の根を飛び越え、とにかく走る。大きな倒木を乗り越えさらに走る。そこでふと気づく。

(ん、投石がやんだ?)


石を投げつくしたのだろうか、疑問に思い様子を(うかが)う。距離が少し開いている。群れの後ろを見ると子供のような背丈で倒木を越えるのに僅かに手間取っている。


周囲を見渡すが使えそうな倒木は見つからない。森とはいっても大きな倒木が都合よくありはしなかった。木の根程度の障害では体格差を利用して逃げる事はできない。しかし投石が止んだのはありがたい。これ幸いとジグザグ走行を止め、ゴブリンを引き離すために真っ直ぐ森を駆ける。


体力を犠牲にしばらく走るとゴブリンを大分引き離せた、もう一押しで()けそうだ。

(小川で行けるか?)

残り少ない体力で確実に逃げ切ろうと策を思いつく。すぐそばの小川へと進路を変え最後の体力を搾り出すように駆ける。少し前からわき腹が痛い。心臓が張り裂けそうだ。ゴブリンは未だにしつこく追って来ている。小川で一気に撒いてやろう。


逃げている間に思ったより川幅が広くなっている小川へと飛ぶ。川の中ほどにある岩を足場にし一気に向こう岸へ飛び移れなかった。尻が痛い。水を飲む。濡れた岩に革靴が滑り、尻を岩にぶつけて川へ落ちたのだ。幸い川は深くなくおぼれることは無いが。


(うあああ)


声が出ない。急がないと追いつかれてしまう。痛みと衝撃で思考がまとまらない。パニックに陥り、慌てふためく。それでもなんとか這うように川を越えるが、その間にゴブリンが川近くまで迫ってきている。慌てて立ち上がり走るが服が水を吸って重い、速度が出ない。数匹のゴブリンが川を渡って追ってくる。

体力の限界近い、足がつりそうだ。


「ギャルワギャウギィ」


一際大きなゴブリンの甲高い泣き声が響き渡り、群れの足が止まる。


(どうなってる?)


川を渡って来たゴブリンが慌てた様に戻っていくのを疑問に思いつつも、逃げる足を止めはしない。出来るだけ遠ざかる。



暫くたってもゴブリンが追ってこないことを確認し速度を落とて歩く。

(諦めたのか?あの川に何かあるのだろうか)

分からない事ばかりだ。


濡れた服は気持ち悪いが替えの服は無い、そのまま軽く絞って手ごろな石に座る。分かる範囲で現状を整理しよう。革靴がボロボロになっている。ズボンやシャツも枝で引っかいたような後が無数にある。体に傷が無いのが不思議なくらいだ。持っていた果物と上着は何処か落としてしまった。回収したいがゴブリンに追われた所に戻るのは怖い、諦めよう。後あるのはネクタイ、ベルト、靴下とハンカチくらいだ。


(これでサバイバルとか無理だろ、はやく人を見つけないと。ん?ここに人いるの?ってかここ何処?日本?日本にゴブリン居ないよね。日本どころか地球に居るわけが。。。。ぁぁぁぁっ)


頭を抑えて悶える。確認すればするほど絶望的な状況しか身に染みる。

(別の星?異世界?帰れるの?どうなるの?死ぬの?死んじゃうの?嫌だぁあああああ。)


暫く身に降りかかった不幸を嘆き悲しんでいたが、今は少し落ち着いている。まだ帰れないと決まったわけじゃない。それに人が居る可能性も高いはずだ。なぜならゴブリンの中で比較的デカいやつの一匹が金属制のボロボロの短剣を持っていたからだ。つまり金属を加工する知能を持ったものが存在する。ゴブリンの服とかぼろきれでそれほど技術を持っていないように見えた。なら人間がいてもおかしくない。


(ここに居るゴブリンが持ってたんだそう遠くない所に人が居るはずだ)

人が近くにいる、そんな僅かな希望だけを頼りに平静を保ち方針を決める。明日人を探すとして、今の問題は今夜をどうやって乗り切るかだ。


あれこれ考えながら食料と寝床を確保に取り掛かった。


誤字脱字等、お気づきになりましたらご指摘お願いいたします。

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