第1話:碧い海のオラショ
初めまして、あるいはいつもありがとうございます。本作を見つけていただき、本当に嬉しいです。
皆さんは「旅情ミステリー」はお好きでしょうか?本作は、あの不朽の名作『浅見光彦シリーズ』へのリスペクトを胸に、現代(2026年)を舞台にした全く新しい推理小説としてゼロから構築しました。
舞台は、美しい碧い海と深い歴史が眠る、長崎県の五島列島。
主人公は、ちょっとお調子者だけどカメラを持つと天才的なドローン作家・千影 類です。
現代の最新テクノロジーと、何百年も紡がれてきた歴史の闇が交錯する、少し切なくてスカッとする物語をお届けします。それでは、五島の潮風を感じながら、第1話をお楽しみください!
長崎・五島列島の海風には、今も数百年前の祈りと、弾圧に倒れた人々の微かなオラショが混ざり合っているように聞こえる。
「……うん、最高の光が来てる」
福江島の北端、切り立った断崖の頂。
僕はカメラのファインダーから目を離し、手元のコントローラーに視線を落とした。液晶画面に映し出されているのは、上空百メートルからの景色。
言葉を失うほどの紺碧の海と、そこに激しい白波をぶつける赤茶けた岩肌。僕の名前は千影 類。
職業は、ドローン作家兼フォトグラファー。
平たく言えば、誰も行けないような秘境にドローンを飛ばし、空からの絶景を切り取る風来坊だ。
ウィィィィン……。四つのプロペラが軽快な金属音を立てて、僕の相棒——最新鋭の産業用ドローン『ヴァルキリー』が手元に戻ってくる。そっと機体をキャッチし、データをスマホに転送した。
今回の旅の目的は二つ。
一つは、この島で始まるという「外資系高級リゾート開発」のPR用空撮。
もう一つは、東京にいる偏屈な祖母から託された、小さなミッションだった。
『類、五島にいる私の古い友人の教会へ、この新茶を届けておくれ。
それと……あの子に、よろしくね』祖母が言った「あの子」が誰なのか、僕はまだ知らない。
「さて、お茶が冷める前に、その『水ノ浦教会』ってところに行ってみるか」愛車のレトロな国産SUVに機材を積み込もうとした、その時だった。
「……そこの方。ここでドローンを飛ばすのは、控えていただけませんか」背後から、鈴の鳴るような、だけどひどく冷ややかな声がした。
振り返る。そこに立っていたのは、一人の女性だった。風にたなびく、漆黒の修道服。胸元で鈍く光る、銀の十字架。
何より目を奪われたのは、その瞳だった。
五島の海をそのまま閉じ込めたような、深く、吸い込まれそうなほどに綺麗な瞳。
「驚かせてすみません。私はこの先にある教会のシスター、聖良と申します」彼女は一歩、僕の方へ歩み寄った。その表情には、明らかな警戒の色が浮かんでいる。
「ここは……私たちにとって、ただの観光地ではないのです。この崖の底には、かつて多くの先祖が信仰を守るために隠れ住んだ、神聖な場所がある。
それを、あのリゾート会社のように荒らされるのは……」彼女の言葉が、ふっと途切れた。崖の下、リゾート開発の重機が並ぶ敷地を見つめる彼女の横顔に、深い哀愁が過る。
「荒らすつもりはありませんよ」僕はあえて、飄々としたトーンで微笑みかけた。
「僕は、隠された美しさを写すために来たんです。人間の嘘を暴いて、本当の景色を残すためにね」聖良さんは不思議そうな顔で、僕と、僕の手にあるドローンを見つめた。
この時の僕は、まだ知らなかった。この美しいシスターとの出会いが、そして僕のドローンが、翌朝、あの断崖の底で「凄惨な事件」を捉えることになるなんて。
(第1話・了)
第1話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!漆黒の修道服を纏った謎のシスター・聖良との出会い。
そして、類の不穏な予感……。
次回、第2話では、五島の美しい大自然が一転して「凄惨な事件現場」へと姿を変えます。
類の飛ばしたドローンが、断崖の底で捉えた驚愕の光景とは——?「続きが気になる!」「千影類のキャラクターがちょっと好きかも」と思ってくださった方は、ぜひページ下部にある【ブックマーク登録】や【☆☆☆☆☆(評価)】をぽちっと押していただけると、執筆の物凄い励みになります!
(皆様の応援の一票が、類を東京の怖いお兄ちゃんから守る盾になります……!笑)それでは、また次回の更新(明日の18時予定)でお会いしましょう!




