雨宿り
小学校の帰り、もう家に着くというところで雨が降り始めた。
隣を歩いていたユウちゃんは足を止め、傘を閉じた。
家の前にある小さな公園に入り、降ってくる雫を受け止めている。
『ねえ、ユウちゃん。傘ささないの? 濡れてるよ』
『コウくん、わかってないなぁ。濡れるために傘はささないんだよ』
『なんで濡れるの?』
『知ってる? 雨にはね、一粒一粒に妖精の力が宿ってるんだよ』
『なにそれ。聞いたことないよ』
『私は妖精の力を浴びてるんだ』
――小学生の頃、幼馴染のユウちゃんは雨が降るといつも傘を閉じていた。
そして雨が止み日の光が射すとまた傘を開く。
肌の白いユウちゃんは、夏でも長袖長ズボンを着ているし、運動場での体育は一人校舎の日陰で体操するだけだった。
運動場で走り回る他のクラスメイトをうらやましそうに見つめるユウちゃんは、いつも寂しそうな表情をしていた。
――そして僕たちは高校生になった。
「康太、映画なに観る?」
カーテンを閉め切った部屋で、テレビを付ける休日の午後。
天気があやしくなってきたなとカーテンの隙間から外を覗く。
やっぱり。
「ねえ優香、雨、降ってきたよ」
「うそ、やった! 遊びに行こ!」
優香はすぐにテレビの電源を切り、Tシャツにショートパンツのまま部屋を飛び出す。
僕も急いで追いかけた。
家の向かいの小さな公園。
ブランコを思いっ切りこいではしゃいでいる優香。
高校では凛々しい美人で高嶺の花だなんて言われているのに、今はただの無邪気な子どもだ。
「風邪ひくからすぐ帰るよ」
「ええー、康太のけち」
けちってなんだよ。と思いながらも僕も隣のブランコに腰掛ける。
楽しいね、と笑う優香をただじっと見つめる。
雨が降ったときにしか見られない、空の下の優香の無邪気な笑顔。
頬に纏うキラキラと輝くような雨の粒に、僕はいつも思う。
『雨にはね、一粒一粒に妖精の力が宿ってるんだよ』
この妖精は、優香を笑わせることが得意なんだろうと。




