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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

好きって言えたら良いのに

ボーイズラブです。最後まで読んで頂けたら嬉しいです。ハッピーエンド。

 「好き」って言えたら良いのに。


 葵は、幼馴染と言うか、頼れる相棒みたいな存在だ。

 性格は他人にサッパリ、自分はどっぷりって感じ。葵がいつも好きになるのは先生ばかり。かなり年上の、、、何ならもうすぐ定年退職しちゃうそうな人がタイプらしい。

 つまり、大人で包容力があって、葵の失敗を寛大な心で許してくれる様な人。

 で、俺の好きなタイプは小さくて、可愛くて、守ってあげたくなる様な子。

 例えて言うなら、玉井 康太。俺は、いつも玉井を見ている。



「玉井!おはよう」

「名高くん、立花さんおはよう」

玉井は笑顔も可愛い。

玉井が、俺達を通り越して自分の席に着く。

「やっぱり玉井は可愛いなぁ、、、」

「早く告白すれば良いのに」

「!そんな!告白なんて!」

「可愛い子は、すぐ誰かのモノになっちゃうよ」

「葵〜、モノとか言うなよ」



*****



 僕の好きな名高くん。いつも横には立花さんがいる。入学した時から一緒にいるから、きっと中学生の頃から付き合ってるんだ。

 二人が休み時間に笑い合ってるのを見ると、ホント、羨ましい。

 


「立花さんになりたい、、、」

名高くんの好きな立花さんに近付いたら、名高くんは僕の事、少しは好きになってくれるかも知れない、、、。

 それからは毎日、立花さんを観察した。



*****



 ???、、、玉井が、葵を見つめている、、、???

「え?どうゆう事?」

「何が?」

「玉井が葵の事見てる」

「ええ?惚れられた?」

「、、、冗談だろ。俺が先に好きになったのに、何で葵が惚れられるんだよ」

「それは関係無いと思うけど、、、」

「ほら、やっぱり葵を見ている、、、」


 葵が髪を耳に掛ければ、玉井も髪を耳に掛ける。

 葵が制服のリボンを触れば、玉井もネクタイを触る。

 葵が、調子に乗って人差し指を頬に当て

「何で?」

のポーズをすると、玉井も一人で「何で?」のポーズをする。、、、可愛い。



*****



 葵は、今、古文の八頭先生が大好きで、せっせと予習をしては張り切って授業を受ける。

「じゃぁ、誰かわかる人〜」

と黒板に向かいながら、八頭先生が言うと、葵は1番に手を上げた。そして、玉井もつられて手を上げる。

「お、玉井珍しいなぁ。じゃぁ、先生嬉しいから玉井を当てちゃおうかな」

玉井は「しまった!」と言う顔をして、おずおずと立ち上がる。

「あの、、、すみません。わかりません、、、」

教室中がワッ!と賑やかになり、笑い声やら冷やかしの声やらが響く。

(は、恥ずかしい、、、)

玉井は、教科書で顔を隠しながら俯いた。

(可愛い、、、)


葵が名高の席の前でムクれていた。

「玉井、ずるい、、、。私の八頭に気に入られてた」

「そんな事で怒るなよ。ほら、飴ちゃんあげるから」

「やだ、それ嫌い。ミルク味とか無いの?」

そう言いながら、机の向こうにいる名高のポケットを漁る。


(やっぱり仲良いなぁ、、、) 

玉井は葵にヤキモチを妬く。



*****



「玉井!」

「名高くん」

「選択移動、一緒に行こう」

「立花さんは?」

「葵は移動無しだから」

「そうなんだ」 

「名高くん、玉井くん、移動教室?一緒に行っても良い?」 

「寺本さんも一緒?」

「うん!葵ちゃんは?」

「葵は2組の教室だから」

寺本さんは自然に名高くんの横を歩く。

 少し離れて後ろを歩くと、二人の身長差のバランスが良くてお似合いだな、と思った。

 立花さんは僕より10センチ位小さい。だから、高身長の名高くんと並ぶとすごい身長差になる。

 それはそれは、微笑ましい感じなんだ。

 名高くんと寺本さんが並んで歩くと、いかにも恋人同士って感じ。実際は立花さんが彼女なんだろうけど、初めて見る人は誤解しちゃうと思う。


 教室に入るとほぼ席が埋まっていた。寺本さんが二人分空いてる場所を見つけて、名高くんを誘う。

「ね、あそこ二人分空いてるよ」

「寺本さんは何処に座るの?」

「え?」

「寺本さんの席は?」

「あ、、、あぁ、私は適当に座るから大丈夫だよ。二人分空いてるのはあと、1番前だし」

僕は、寺本さんはあの席に、名高くんと座りたくて声を掛けたんじゃないかと思った。

「あの、、、僕は一人席で良いから」

「じゃ、1番前の二人席に行こう。寺本さんまたね」

と言うと、名高くんは1番前の席に座った。

 寺本さんは残念そうにしていた。


 席に着いて、僕は名高くんに

「寺本さんの事、大丈夫なの?」

と聞くと

「だって、玉井と来たかったのに間に割り込んで来るからさ。座席は玉井と一緒が良かったんだもん」

僕はちょっと嬉しくなった。


 移動教室の授業が終わり、廊下に出ると名高くんが

「一緒にお昼食べようよ」

と誘ってくれた。後ろから、寺本さんが

「私も一緒にいいかな?」

と話しに加わって来た。名高くんは

「葵もいるけど?」

と確認する。

「大丈夫!私、葵ちゃん平気だから!」

ん?平気だから?友達では無いのかな?

 2組に戻って、名高くんは立花さんの所に行く。立花さんは首を振っていた。あ、これは駄目なパターンだな、、、と、思うと名高くんが戻って来て

「ごめん、葵、人見知りだから急に人数増えても困るって、、、」

「そっか、、、」

寺本さんは残念そうに返事をする。僕もお昼を食べようと自分の机に戻ろうとしたら

「玉井!玉井は俺が誘ったから、一緒に食べよう」

「あ、うん」

「え、、、」

寺本さんは、小さく驚いていた。


 立花さん、やっぱり他の女の子と名高くんがご飯食べるの嫌なんだな、、、と勝手に思い込む僕。



*****



 お弁当を取って、名高くんの所に行くと三人分席が作ってあった。名高くんと立花さんが向かい合って、お誕生日席が僕だった。

「で、何で玉井くんは私の真似をしていたのかな?」

「っ!、、、」

バレてた、、、。まるで尋問されているみたい、、、。

「葵、意地悪しないの」

「だって!玉井くん、八頭に気に入られるからっ!」

「ん?八頭先生?」

「そ、コイツ、八頭先生がお気に入りなの」

「LOVEって言って、、、」

立花さんが、ウフッと笑いながら頬を染める。

「???」

「葵は、小学生の頃は校長先生が好きで、中学の時は、俺達が卒業した時、一緒に定年退職した理科の先生、今は古文の八頭先生。タイプがわかりやすいでしょ?」


「それで、何で?」

立花さんが思い出した様に聞いて来た。

「え、、、っと」

(名高くんの好きな立花さんになりたいから、なんて言えない、、、)

「あれ?待って?立花さんと名高くん、付き合ってるんじゃないの?」 

「え?」

「は?」

「、、、違うの?」

「違うよ」

「違うねぇ、、、」

「そ、、うなんだ、、、。いつも一緒にいるから、付き合ってるんだと思ってた」 

名高くんと立花さんは、同時に嫌な顔をした。


「玉井くんは好きな子いないの?」

立花さんに急に聞かれて、固まってしまった。

 だって、好きな人がすぐ側にいるから、、、。何て答えたら良いのかわからない。

「あ、いるんだ」

立花さん、鋭いな、、、。そっと名高くんを見ると、聞こえないフリをしているのか、黙々とお弁当を食べている。

「名高?」

「違うよっ!?」

思った以上に大きな声が出た。

 名高くんが、びっくりしてお箸で掴んだ玉子焼きを落とし、僕は叫ぶ。

「あの、えっと!何て言うか!、、、その、好きな人はいるんだけど、、、叶わないんだ」

(だって、相手は男の子だから、、、)

「叶わない?」

立花さんは、グイグイ来るな、、、。

「うん」

「結婚してるの?」

「違う、、、」

「じゃあ、叶うでしょ?あ、アニメのキャラとか?」

「ちゃんと人間」

(でも、同性)

「それなら努力すれば何とかなるでしょ」

「そっかな、、、。叶うかな、、、」

 名高くんのお弁当箱の蓋の上に、さっき落とした玉子焼きが置いてあって、何だか淋しそうに見えた。



 午後1番の授業は古文。名高は八頭先生の後頭部を見ながら考えていた。

(玉井は好きな人がいるのか、、、)

 いても可笑しくはない。ただ、想像できなかっただけだった。相手は同じ中学の同級生かな、、、?

(告白する前にフラれてしまった、、、)

 玉井はどんな子が好きなんだろう。やっぱり、小さい可愛い子かな?葵はクラスでも1番小さい方だ。玉井の好きな子は、葵に似ているのかも、、、。だから、いつも葵を見ていたんだろうか、、、。

 いつから好きなんだろう。どんな関係なんだろう。同じ部活だったのかな。色々考えると授業に集中出来なかった。



*****



 1限目の授業は移動教室だった。気が付いたら玉井が教室にいない。

 寺本さんが

「名高くん、一緒に行こ」

と言うので、何と無く断れなかった。



 僕が移動教室の前にトイレに行っている間に、名高くんはいなくなっていた。

 授業の準備をして教室へ向かう。

 教室に入ると、名高くんと寺本さんが一緒に座っていて、がっかりした。僕は空いてる席を探して、出来るだけ二人から遠い席にした。



「寺本、名高、仲が良すぎ〜。授業に集中しろよ〜」

 先生に指摘されて、周りの生徒がクスクス笑う。僕は名高くんの方を見る事が出来ない。

 


「怒られちゃったね」

寺本が笑う。何が楽しいんだかわからない。俺は、一人で座った玉井を見る。

 一緒に教室に来て、一緒に座りたかったな、、、。


 寺本は先生に注意された後も、何かと話し掛けて来て、授業に集中出来なかった。話しを聞き逃した部分もあって、後で書き足さないとわからなくなりそうだ。

 何度目かの呼び掛けに、勘弁してくれと思いながら無視をすると

「名高くぅ〜ん、聞こえないのかな?」

と小さい声で言う。

 そのちょっと甘えた感じと言うか、女子アピールの強さにイラッとしながら

「授業、集中して」

と言うと

「カッコ

と呟いた。俺は、ため息をいて無視をする。


 授業が終わり、席を立つ。

「玉井!ちょっと!」

ワザとらしく大きな声を出す。

「寺本、ごめん。玉井に用事あるから先に帰ってて」

「え、、、あ、うん」

納得いかない様な返事をする。

「お昼!」

と言う、寺本の声を聞こえないフリでかわし、玉井の方に近寄る。

「どうしたの?」

玉井がキョトンとした顔をする。癒されるな、、、。一緒に教室を出て

「次から移動教室一緒に行こうよ。隣の席になりたい」

玉井はちょっとびっくりしながらも

「いいよ」

と言ってくれた。

「ノート、上手く取れなかったから、後で見せてくれる?」

「うん」

玉井の笑顔が可愛くて、今日は1日良い事がありそうだ。



*****



「玉井!こっち、席あるから!」

名高くんが呼んでくれた。昨日と同じお誕生日席。立花さんはサッサとお弁当を広げる。


「ありがとう」

ガタガタ椅子を引きながら言う。今日のお弁当はサンドイッチだった。ハムとチーズとレタスがたっぷり入っていて、僕の好きなサンドイッチだ。

「わっ!サンドイッチ、いいな」

立花さんが言うから

「一つ食べる?」

とお裾分けをする。

「じゃあ、うちの唐揚げ一個上げる」

お弁当箱の蓋の上に唐揚げを一つ乗せてくれた。

「大きいねぇ」

と言うと、立花さんは嬉しそうに

「母の唐揚げはいつも大きくて、美味しいんだ」

サンドイッチに手を伸ばしながら言う。

「レタスがシャキシャキで美味しい!」

「えー、、、俺も弁当の交換したーい!」

と言いながら、全面海苔で覆われた大きなお握りを食べる名高くん。

「食べる?」

と、食べ掛けのお握りを差し出されて、僕は照れてしまった。

「わ!シャケと昆布が一緒に入ってる!」

恥ずかしいのを誤魔化すようにお握りを見たら、中身が2種類で驚いた。

「ね、お握りの具で好きな物って何?」

「明太子」

立花さんは明太子が好きなんだ。

「玉井は?」

「シャケかなぁ」

「混ぜ込みの梅も美味しいよね!」

「おかか醤油も好き」

「たまに、唐揚げが入っているときある」

お握りの具で結構盛り上がってしまった。



*****



「葵ちゃんってあざといよね」

後ろの方から聞こえた。名高くんがいない時だった。立花さんを見ると、ちょっと悔しそうな顔をして唇を噛んでいる。

 僕がそっと後ろを見ると、寺本さんのグループがいた。

「立花さん、職員室付き合って」

と言うと

「職員室?行く!」

元気になった。僕は数学のノートを取り出して教室を出る。

 二人で職員室に行き、数学の桶川先生の所に行く。立花さんは古文の八頭先生を見つけると元気になった。

 僕は桶川先生にわからない問題を見せて、教えてもらう。立花さんは、少し離れた八頭先生に声を掛け、何やら盛り上がっていた。



 二人で教室に戻ると、名高くんが寺本さんに捕まっていた。

「玉井、おかえり。あのさ、ノートの事なんだけど」

寺本さんから逃げる様に話し掛けて来る。

「今日、放課後良いかな?」

「うん、いいよ」

「じゃ、一緒に帰ろう」



*****



 三人で校舎を出て、駅に向かう。

「玉井、何処に行く?」

「お腹空いたから、ファストフードかフードコート、ファミレス、、、。何処が良いかな?」

「図書館があるじゃん」

立花さんが言う。

「図書館は飲食禁止だろ?」

「え、あそこの図書館、売店あるから休憩室で飲食出来るよ」

「そうなの?」

「座席取って、売店に行っても平気だよ」

「6時までなら丁度良いかな」

「私は塾があるから、ごゆっくり」

立花さんはニヤニヤしながら帰って行った。



 図書館に来るのは久しぶりだった。夕方の読み聞かせがあるらしく、小さな子とお母さんがたくさんいる。

 名高くんと二人並んで席を確保して、売店に行く。

 飲み物と、ちょっとお菓子を買って休憩室に入る。

「そう言えば今日、、、」

立花さんの事を話した。

「あー、、、アイツ、よくあるんだよ」

「、、、」

「中学の時もあって、それで女子が嫌いなの」

「立花さん、泣きそうだった、、、」

「マジで?」

「悔しそうで、でも我慢してるから」

職員室に行った話しをした。

「それで二人いなかったんだ。ありがとな。アイツ、凹む時はトコトン凹むからさ、、、」

「八頭先生に会ったら元気になってたよ」

名高くんが笑い、おやつを食べて席に戻った。

 僕はノートを貸して、他の教科の勉強をする。

 6時前に館内放送があって、僕達は荷物をまとめて図書館を出た。

「玉井のノートわかりやすかった!」

「ホント?」

ノート、ちゃんと取っておいて良かったな。



「もうちょっと良い?」

名高くんに言われて、ファストフード店に行く。バーガーのセットを買って、二階席に行く。


「玉井の好きな子は、中学の同級生?」

「違うよ?」

つい答えてしまった。

「誰?俺の知ってる人?」

(いえ、貴方です、、、名高くん、、、)

答えられる訳も無く、へへへと笑った。

「教えてくれないの?」

ちょっと拗ねた。教えられるモノなら教えたいけど、、、本人だから、告白になっちゃうんだよな、、、。

 そう思いながら

「ごめんね」

と謝る。

「名高くんは好きな人いるの?」

「いるよ」

「え?誰?」

(名高くん好きな人いるんだ、、、知らなかった)

「玉井が言わないから、俺も言わない」

(なんて、玉井が好きなんだよ、、、。でも、そんな事言ったら、折角仲良くなったのに嫌われそうだ)

「えぇ〜、、、」



*****



立花さんがニヤニヤしている。

「昨日は楽しかった?」

どう言う類の質問なんだろう、、、。そう思いながら

「楽しかったよ」

と答えるとニヤニヤがニマニマになり

「良かったねぇ」

と名高くんを見る。



*****



「玉井いるー?」

後ろのドア付近から呼ばれた。

「はーい!」

と返事すると

「お客さん来てるー!」

「お客さん?」

クラスの友達以外、知ってる人はいないのに、、、。名高くんと立花さんの顔を見て

「ちょっと行ってくるね」

と言う。後ろのドアを出たすぐの所に、2年カラーのネクタイを締めた人が立っていた。

 僕はこの人かな?と思いながら顔を見た。

 やっぱり知らない人だった。



*****



「玉井くん、告白されてるかもね」

「え?」

「そんな予感しない?」

「う、、、する、、、」

「そう言えば、玉井くんの好きな人、聞いたの?」

「聞いた、教えて貰えなかった」

葵がふふっと笑った。

「玉井くん、誰か他の人のモノになっちゃうのかな〜」

「嫌な事、言うなよ、、、」

「だって、玉井くん可愛いんでしょ?。準以外の人も、玉井くんの可愛さに気付いてる人、いると思うよ」

「えー、、、」



 玉井が戻って来た。

「何だったの?」

葵が聞く。

「え、、、っと、、、」

他の人に聞かれたく無いのか、玉井はオイデオイデをして俺達を呼んだ。三人で小さくなって、玉井は声を潜める。

「なんか、告白されたみたいで、、、」

「え!」

「どうするの?」

「玉井、好きな人いたよな」

「うん。でも、僕の好きな人には好きな人がいるんだって、、、」 

葵がチラッと、俺の顔を見た。

「諦めるの?」

「うーん。、、、わからない、、、。さっきの人も知らない人だから、上手く返事が出来ないし。好きな人に好きな人がいるからって、すぐ諦められるかと言ったら諦められ無いし、、、」

「さっきの人とお試しで付き合ってみたら」


ガンッ!


 机の下で音がした。立花さんが痛そうな顔をする。

「冗談でしょ?ただ、悩んでいるならそれも一つの手かな?って」

「そんなの、相手に失礼だろ?」

名高くんが少しムッとして言う。

 そうだよね、と思いながら

「どっちにしても、名前も知らない人だったから」

名高くんがホッとした様な顔になった。



*****



「玉井くん、2年生と付き合ってるの?」

結構大きな声で寺本さんが聞いた。一瞬、教室内が騒めいて注目を浴びたのがわかった。

「付き合って無いよ」

もっと大きな声で言えば良かったのに、僕はびっくりして動揺して小さな声しか出なかった。

「2年生の谷山先輩でしょ?カッコいいよね」

確かにカッコ良かったけど、僕は名高くんが好きだから、、、。

 ヒュ〜!っと冷やかしの声が聞こえて、顔が赤くなるのがわかる。

「違うよ」

誰も聞いてくれない。まだ、返事はして無いけど断るつもりだったのに。

「谷山先輩、玉井くんが入学した時から好きだったらしいね」 

どうして寺本さんがそんな事知ってるんだろう、、、。

「玉井くん、可愛いし、谷山先輩カッコ良いからすごくお似合い!いいなぁ〜、私も彼氏欲しいなぁ〜」

寺本さんが、意地悪で言っているのがわかる。

「玉井ー!彼氏ー!」

同じクラスで、谷山先輩の後輩らしい子が冷やかす。谷山先輩は

「何言ってんだよ」

と笑いながら、後輩をど突く。

 僕は緊張して歩く事が出来なかった。



*****



「準、行くよ」

立花さんが名高くんに声を掛ける。

「玉井くんも一緒に」

立花さんが、名高くんに目で合図した。

 名高くんが僕の手を握って

「大丈夫だから、葵に任せよう」

と言う。


 廊下に出て、谷山先輩に

「あの!お返事まだですよね!」

立花さんが聞く。

「あ、はいっ」

谷山先輩がちょっとビビる。

「玉井くんには好きな人がいます。コイツです!」


 ぎゃーっ!


 立花さん!何言ってるのー?!!

 

 名高くんが僕の手を繋ぎながら、ポカンとした顔で僕を見る。

 ううう、お願い見ないで、、、。どんどん顔が赤くなるのがわかる。繋いだ手に、つい力が入り名高くんの手を強く握り返してしまう。


「え?ホント?」

名高くん、、、聞かないで、、、。


「ホントです!」

立花さんが何故か敬語で返事をした。



 ブハッ!っと谷山先輩が笑う。

「だよねー!寺本に玉井くんが俺の事好きだって聞いて告白したのに、昨日来た時、玉井くん俺の事知らなかったんだよ。可笑しいなぁとは思ってたんだけど、寺本の勘違いか!」

「勘違いです!」

立花さんの変なテンションは、続いたままだった。

「ごめん、ごめん。驚かせちゃったな。俺も玉井の事、ちょっと可愛いなって思っただけなんだ。寺本にそそのかされちゃったよ。ごめんね、玉井くん。びっくりしたよね。俺の事は気にしないで、、、」

谷山先輩は、僕と名高くんの繋いだ手を見ながら、くすりと笑い

「彼と仲良くね」

と言った。

 そして、立花さんの頭をポンポンと叩くと

「お疲れ様」

と微笑んだ。

「ありがとうございます!」

立花さんは相変わらずのテンションだった。



 谷山先輩が帰って行ってから

「はぁ〜、緊張した、、、」

と倒れそうになった立花さんを責める事も出来ず、、、。

 丁度チャイムが鳴り、次の授業の準備をしに教室に入る。



 その後の授業は全然頭に入って来なかった。

(名高くんにバレちゃったな、、、)

出来れば最後まで隠し通したかったのに、恥ずかしい。

 それでも、名高くんは僕の事軽蔑するとか、嫌がる様な態度を取らなかったから良かった、、、。

 名高くんには嫌われたく無いから。



*****



 ホームルームが終わり、みんなが部活に行ったり、帰ったりする中で僕も早く教室を出ようと立ち上がった。

「玉井、話しがあるんだけど、、、」

名高くんだった。


 僕はさっきより緊張して、気分が悪くなりそうだった。



 名高くんはしばらく考えて

「飲み物、買いに行こうか、、、」

と誘ってくれた。僕は頭を振って、いらないと言う。

「じゃあ、ちょっと待ってて。買って来るから」

「うん、、、」

僕は椅子に座り、暫く待っていた。

 みんながどんどん教室から出ていき、最後の一人になった。

 教室のルールで、1番最後に帰る人が戸締りをする事になっている。僕は廊下側の窓を、端から鍵が掛かっているかチェックをして、教室の前方のドアの鍵を閉める。

 グランド側の大きな窓の戸締りをして、カーテンも閉める。

 最後の窓を閉めようとした時、風が入って来て気持ちが良かった。

 カーテンが風になびき、何と無く外を見た。

 グランドの、校舎から離れた場所でサッカー部が準備体操をしていた。



 僕に掛かっていたカーテンがそっと引かれた。

「鞄があるのに、いないから探しちゃった」

カーテンの内側にいたから、見つけられなかったんだ。

「はい」

「ありがとう」

コーヒーでも紅茶でも、無い。ココアをくれた。

「図書館で飲んでたから」

覚えていてくれたんだ。

 ちょっと嬉しかった。


 二人でサッカー部の練習を見る。


「玉井さ、、、。葵が言ったの本当?」

僕は、どの話かわからないフリをした。

 だって、やっぱり怖いから。

「え、、、っと、俺の事好きって話しなんだけど、、、」

僕は何を言われても傷付かない様に、ギュッとココアの缶を握った。

「うん、、、ごめんね。バレちゃった」

笑って誤魔化す。

 名高くんには好きな人がいるから、フラれるのはわかっていた。ただ、出来れば嫌いにならないで欲しいな、、、。

「好きな人に好きな人がいるって」

「、、、名高くん、好きな人がいるって言ってたから、、、」

「、、、玉井の事なんだ、、、」

僕は、サッカー部を眺めていた視線を名高くんに移す。

「葵は知ってる」

名高くんが笑う。



「ずっと好きだった。可愛いなって思って、葵にも相談した」


 うそだ、、、。


 そんな都合の良い話なんて無い。


「葵に早く告白しろって言われてたけど、なかなか出来なくて、、、」

名高くんは恥ずかしそうにする。


「いつ、葵に話したの?」

「いつ、、、?」

「その、、、俺の事、好きっていつ話したのかな?って、、、」

「、、、話してない、、、」

あれ?僕は誰にも話して無いのに、、、なんで?

「え?」


「あれ?何で立花さんは知ってたの?」

名高くんは、ちょっと困った様に笑った。

「あいつ、勘が良いからな。葵に騙されたのかも」

「でも、確かに僕は名高くんの事、、、す、、、、、、、。す、、き、だけど、、、」

自分から自分の気持ちを伝えるのがこんなに恥ずかしいなんて知らなかった、、、。

 指先が震えて、正気でいられない。思わず、目をギュッと閉じると、名高くんが、、、

「可愛い、、、」

と言ってくれた。


 

*****



「玉井の事ずっと好きだった、本当だよ。いつも見てるだけだったんだ。葵に、まだ告白してないのか?準が可愛いと思うなら、他にも可愛いと思っている人はいる、他の人のモノになっても良いのか?って、いつも言われてた」

「、、、」

フッと息が上がって来て、涙が滲んで来た。

「でも、告白する程仲良く無かったから、、、。言えなかった。少しずつ仲良くなって、もっともっと仲良くなったら告白出来るかもって思ってたんだ」

僕の瞳から涙があふれそうになる。僕は告白する事を最初から諦めていたから、、、。

「でも、玉井が他の人に告白されて、、、。しかも、葵が試しに付き合えばなんて言うから、、、」



 グランドの方から、サッカー部が練習している声が聞こえる。

 遠くの方だからか、僕達と少し違う空間で練習をしているみたいだ。

 僕は今、世界に僕達しかいないみたいに感じる。



「俺、もう少し、もう少し。もうちょっと仲良くなったら告白しよう、、、。もっと、たくさん一緒に過ごしてから告白しようって、告白する事から逃げてたんだ」


 名高くんは、僕の手からココアをそっと取り上げ、窓際に置く。

 そして、僕の両手の指先を、名高くんの指先で優しく握ると、しっかり僕の目を見て

「玉井、好きです。付き合って下さい」

と言ってくれた。

 僕の涙が、こぼれ落ちそうになる。名高くんが両手で、僕の頬を包む。

 あったかい。名高くんの手が、僕の頬を撫でてくれた。すごく、大きくて安心する。ずっとこうしていたい、、、。


 名高くんは優しい顔で僕を見ていた。

「名高くん、僕も名高くんの事が好き。付き合って下さい」

と言うと、名高くんの瞳にも涙が滲んで来た。

 間近で見ると、本当に涙があふれて来るのがわかる。

「良かった、、、」

瞬きをした瞬間、涙がこぼれた。

「あ!」

僕は手を伸ばして、名高くんを抱き締める。よくわからないけど、僕の全身で名高くんを抱き締めたかった。

 名高くんはびっくりしながら、僕の肩で涙を拭いた。

「ごめん、つい、、、」

(抱き締めちゃった、、、)

 名高くんの顔が近付いてきて、僕の頬に名高くんの頬を重ねる。

「玉井、、、」

少し唇が当たる。

「なぁに?」

頬を寄せたまま、名高くんの唇がホンの少しずつ移動して来る。

「玉井、、、」

後、数ミリで唇にキスする距離、、、

「うん、、、」

僕はドキドキする。このまま、キス出来たら良いのに、、、。

「玉井、、、大好き、、、」

ほんの少し、唇の端と端が触れ合い、僕達はゆっくり離れた。おでことおでこをくっつけて、お互いふふふと笑う。

「ちょっとキスしちゃった」

名高くんが言う。

 僕は、名高くんが可愛くて、鼻と鼻を擦り合わせた。

 もう一度、二人でふふふと笑うと、名高くんが僕を抱き締めてくれる。僕はすごく幸せな気持ちになった。



*****



「え?谷山先輩?」

「そ、めちゃくちゃカッコ良い、、、」

三人で頭をくっつける様にして、コソコソ話す。

「だって、お前、今まで髪の薄い年配の人が好きだったじゃん」

、、、確かに、八頭先生もちょっと髪が薄い、、、。

「だって、谷山先輩が気になるんだもん」

「谷山先輩、あの時怒る事も無かったし、なんか余裕があったからな、、、」

「立花さんの頭、ポンポンして子供と大人みたいだった」

「谷山先輩は大人だよ〜。寺本さんの事も御咎め無しだったし」

「康太はどう思う?」

「康太?、、、いつから康太呼びなの?」

「あ〜、、、昨日から」

「ちょっと!聞いて無いけど!」

「話そうとしたら、葵が谷山先輩の事話し出すからっ!」

「はぁ〜、、、私と谷山先輩のお陰だね」

「そうそう」

「あ、谷山先輩!」

「どこっ?!」

「今、後ろのドアの前通った。前のドア見てて」

谷山先輩が友達と歩いていた。ドア一枚分の距離しか見えなかったのに、立花さんは嬉しそうだった。

「追い掛けないの?」

「そっか!」

立花さんは急いで谷山先輩を追い掛けた。


「あいつ、絶対話しかけないよ。ビビりだから」

名高くんがクスクス笑いながら、僕の手をそっと握った。立花さんが谷山先輩にバレない様に後を付ける所を想像して二人で笑う。


 チャイムが鳴る、ギリギリで立花さんは帰って来た。

「谷山先輩、移動教室だった!来週もこの時間は谷山先輩を見なくちゃ!」

と張り切っている。


 今度は、僕と名高くんで立花さんを応援する番だ。

葵ちゃんも頑張れ!

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