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▷現役主人公の物語Re▷  作者: 加藤 大生
『燈和=フラデリカ』編
46/47

恩と一矢は紙一重

「ケッケっ!? 死ねッ!! 死ねッ!! ケケケケっ」


「ええい、いちいちやかましい奴だ!! 黙って戦えんのかッ!?」


 ギルバートが氷戈と別れ、こうしてラヴァルドの相手をし始めてから早数分。

 両者近接戦の実力は拮抗しており、決定打に欠けた状況が続いていた。


 何とか打開策を見出したいギルバートとは対照的に、この戦い(殺し合い)を心から楽しんでいるラヴァルドは満足そうに言う。


「黙ってても仕方ねェだろッ!? 人間の口たぁ喚くためにあるンだ、黙らせたかったら殺してみろやァ!? 『溶岩穹窿ラン・ヴォルグ』!!」


「ぬッ!? なんだ…!?」


 突如ギルバートの立つ周りの地面から溶岩が盛り上がり始める。

 湧き上がる溶岩は直ぐにギルバートを包み込むような形状となり、出来上がったそれはまるで大きなかまくらのようである。


 瞬時に溶岩に取り囲まれ、出口は目の前にひらけたドア状の穴ただ一つ。

 そこから見えるのは、ウッキウキな顔をしたラヴァルドが源術アルマを構える姿であり_


「か〜ら〜の〜? 『岩漿熱線ラーム・シュタイル』八連同時しゃすっt!!しゃしtu…っンがァっあ!! クソがッ!! 言いにくッ!?」


「ッ!!?」

 -彼奴あやつめ、ふざけおって!! いや、この際どうでも良いッ!!この状態での回避は不可能。だからといい『岩漿熱線あれ』を正面から防ぎ切る手立てを持ち合わせてもおらぬ。…仕方あるまい、多少のダメージは覚悟で弾く他あるまい!!-


「フンっ!! 『衝弾しょうだん未颪みおろし』!!」


 ギルバートは手に持った王笏状の我成ガイナを弾くように振ると、渦を巻いた小さな風の玉が出現する。

 そのままかまくらの入り口付近へと投げ捨てられた風玉は、地面に接触すると凄まじい勢いで膨張し爆風を巻き起こした。


 光速で迫り来る八発の『岩漿熱線ラーム・シュタイル』が超圧縮された風圧の壁に衝突するとそれぞれが軌道を逸らし、ギルバートを閉じ込めていたかまくらの外壁を沿うようにして通過していったしまった。

 その直後、ギルバートの放った『衝弾しょうだん』も爆散し、溶岩で作られたかまくらを内部から風圧でぶち砕くこととなる。


 激しく舞い上がる土埃を見たラヴァルドはケタケタと笑い飛ばす。


「カッカカカカっ!! オレ様のアルマを防御するためのアルマでおっちんじまったんじゃねェのか?…んな冷めたことはよしてくれよ、王様ァ!? ……ア?」


「…礼式れいしき水貫みなぬき』」

 キィィィィィィンッ__!!


「グッッフっ!!?」


 突如、土煙の中から詠唱が聞こえたと思った時にはもう遅かった。


 つんざくような音と共に、極限まで加圧された水流がラヴァルドを捉え、心臓を貫いたのだ。

 その攻撃速度や技の種類からしてまんま『岩漿熱線ラーム・シュタイル』の水バージョンと表現できよう。


水貫みなぬき』の発動によって取り巻いていた煙が晴れると、『衝弾しょうだん』の炸裂で酷い切り傷を負ったギルバートが姿を現す。

 彼は貫かれた急所を抑え、俯くラヴァルドを目視すると笑って言った。


「ふっ…どうやら、先に冷めゆくのは貴様の方らしいな。ラヴァルド・ケラー」


「グッ…テ、テンメェ…!!」


「…元より貴様と遊んでいる暇など無い故、早いところケリをつけさせてもらおう」


 ギルバートは満身創痍ながらもトドメを刺すために再び王笏を構え、トドメのアルマを放つ準備をする。


 それを見たラヴァルドはニヤリと笑うのだった。


「ケッ、バーカっ!! このオレ様がッ、これしきの傷で怯むと思ったのかッ!!?」


「っ…何ッ!?」


 猛スピード突撃してくるラヴァルドを見ると、心臓に開けたはずの穴が既に()()()()()()()()()で塞がれていたのだ。

 そしてこの赤い光は、先ほどから嫌と言うほど目にしているものと酷似しており....


「溶岩、か…? クッ!?」

 ガンっ!!


 互いのガイナがぶつかり合い、大きな衝撃音が鳴り響く。

 相も変わらず、ラヴァルドはギルバートにゆっくり考察する隙を与えさせてはくれない。


「おらァ!! おらァ!? 早く終わらせたいんじゃねェのかよ!? …ならテメェが先に死ねやァ!!」


「おのれッ…馬鹿の一つ覚えのように吠えおって」

 -そもそもだ。先ほど高所から地面へ叩きつけてやった時に死ぬどころか、骨一つ折れている素振りをも見せんのは何故だ?…仮に開けた穴を溶岩によって修復したのだとすれば合点はゆくが、その再生能力に際限が無いのだとすれば_-


「_否、そのようなことがありえるはず…」


「さっきから独り言が多いんじゃねェかッ!?」


「貴様が余に考える暇を与えんからだろうッ!? 少し黙っておれッ!! …ハァッ!!」


 防戦一方なギルバートは互いのガイナの次なる接触点に『衝弾しょうだん』の最小火力である『風』を生成する。

 単体の威力はそれほどでも無い『衝弾しょうだん・風』でも、先ほどラヴァルドを思いっきり上空へ吹き飛ばしたように、打撃と組み合わせることで相乗的な効果が期待できる。加えて最低ランクのアルマなので発生速度も早く、ガイナ同士がぶつかる直前での生成も可能と小回りが効くのもポイントだ。


 スパァァン‼︎

「ッんグ!? またこれかっ!!」


 予想外の風圧に弾かれたラヴァルドは後方へ10m程吹き飛ぶ。

 ギルバートはそこへすかさず追撃を入れる。


「『水貫みなぬき』ッ!!」

「チッ…『岩漿熱線ラーム・シュタイル』ッ!!」


 ラヴァルドは飛ばされた状態からアルマを放ち、相殺を試みた。

 水とマグマで出来た二つのレーザーはぶつかった瞬間、大爆発を引き起こす。


 ドォォォッオオオオンッ!!!


 互いが互いの姿を確認できないほどの白い煙、正しくは水蒸気が立ち込め、斬り合いは一旦落ち着くこととなる。


 気は抜かないまでも、ギルバートは一つため息をついた。


「ふぅ…」

 -余の王笏ガイナで威力を底上げした『水貫みなぬき』と相殺とは…。やはり技を充てがう以外に『岩漿熱線あれ』を防ぐ手段は無いと見た方が良い。……それはともかく、だ。地面へ叩きつけても、急所を貫いても死な_-


 『死』

 ザグッ!!


「急所は、いただきましたよぉ? 陛下(へ〜いか)っ!」

「…ッ!!? グボっ…!!? な…ぜ」


 突如背後から心臓部を貫かれ、吐血するギルバート。

 そこへ、撫でるような声を添える我が腹心の声。


 顔を確認せずとも分かる。分かるはずなのに。

 毎日のように聞いた、溌剌とまっすぐな声からは想像もできないほどに湾曲していたから疑った。疑いたかった。


 しかし、嫌でも感じる痛みがこれを事実だと主張する。


「な…ぜだっ…!? ヴェルナーよっ……」


「なぜ…? 私はただ、()()()()()()()()()()()を遂行したまでですよ」


「な、何を…グっ!? ぐあァッ!!?」


 ヴェルナーは刺したダガーナイフを再度執拗に差し込み、ゆっくり左右へ動かしてみせる。


「ほーれほれぇ!?」


 まるで興味本位な行為は悲痛な叫びを呼ぶ。


「くッ!! ガアァアアっ!!!」


「あっはは!! 痛そうですねぇ陛下ぁッ!!? …だがッ!! 私の受けた痛みはこんなものでは無ァいッ!!」


「グッ…!?カッハっ……」


 項垂れ、立つ力さえも残されていないギルバート。

 ヴェルナーはそんな彼に膝をつくことさえも許さない。

 手に握るナイフに力を入れ、それだけで彼の身体を支えてみせる。一国の王が、今は見るも無惨なハンガー状態である。


「…覚えていますか? 貴方と私が、初めて出会った日のことを」


「っ……」


 ギルバートは言葉こそ返さなかったが死の間際、その言葉を放った真意が無性に知りたかったので、朦朧としながらも記憶を探った。


 -はて…あれは何年前のことだったか。……国で引き取った戦争孤児たちの集う修練施設で、一際の異才を放つ青年が居ると聞きつけた-

 ______________________

「…ところでエミルよ、其方の言っておったその青年は何処だ?」


「ん?ああ、ヴェルナーのことですね。彼ならこの先の第三訓練場で稽古に励んでいるかと。…あ、ちょうど居ましたよ…って、おや?」


 エミルの指差した先にあったのは、四人に取り囲まれている十五歳程の青年の姿だった。


「クソが!! 新入りのくせに調子乗りやがって!!」

「へッ、いつまで済ました顔してられっかな…?」

「テメェが来てから飯が不味いんだわ、責任取ってくれるよな?」

「空気もなッ!! へへへっ!!」


「…」


 嫌味を言われているのにも関わらず、青年の目は澄んでいた。


「はぁ、何をやって…。陛下、お目汚し失礼いたしました。直ちに_」

「待て」


「は、はい? しかし陛下、このままでは…」


 余は青年たちの間に入ろうとしたエミルを瞬間的に引き留めた。

 彼の実力を見たかったからか、どのような行動に出るのか気になったからか、それともまた別の理由だったのかは今だに分からない。


「けッ、いつまでスカしてんだよ? …いちいちイライラさせんなよなァッ!?」


「…」


 痺れを切らした一人が稽古用の竹刀で殴りかかる。

 それを皮切りに、少し遅れて他三人も動き出す。


 しても尚、青年の足は微動だにしなかった。

 ただ一つ、その澄んだ目がこちらを捉えて離さなかったのだ。


「ッ…」


 余の身体は、気づけば動いていた。


 パシっ…

「ンなっ!?」


 竹刀を止められた悪童は驚き、他の者もたじろぎ足を止める。


「な…なんてったってウィスタリアの王が…ここにッ!?」


「いやはや、どうにも修練施設ここで提供されている食事の評判が悪いらしいのでな? どのようなものかと試食がてら、施設内を視察をしておったのだが……確かに空気の方はとても吸えたものでは無かったらしい」


「いッ…」


「エミル、この者らを管理局室へ連れてゆけ。何故なにゆえの行動であったか、詳しく聞き取らせよ」


「しかし、それでは陛下が…」


「エミルよ」


「し、承知いたしました。直ちに」


 エミルは意気消沈した四人を連れ、その場から去った。


「_さて、これで其方を脅かす存在は消え去った訳だが…」


「…」


「どうしてあれを交わそうとしなかった?」


「どうしてか、ですか? んーと、そうですねぇ…王様あなた()()()()()()()、ですかね?」


「? …ふむ、余が邪魔であったか?」


「い、いいや!! そんなんじゃあないですって!! ただ今日お会いするとは思って無かったので…」


「おかしな言い回しをする奴だ。それではまるで余と其方がいずれ出会っていたと、そう確信していたようではないか」


「ええ、してますとも。…だって、その為にここに居るんですから_」


 またもや青年の瞳が余を捉える。

 異様にまで澄んだ、その瞳で_


「_私を拾って下さった王へ報いる為に」

 ______________________

 間も無くヴェルナーはその圧倒的な実力で修練施設を後にし、ウィスタリアの誇る王立校『モルヴィナス』の実技入試を主席通過。

 それからウィスタリア国正王騎士団の入団試験すらも主席で合格し、彼の放った『ギルバートへ報いる為に再会を果たす』という言葉が実現するまで三年を要さなかった。


 彼の有言実行は余の記憶に強く焼きついた。

 カーマを持たないながらも、その持ち前のセンスと行動力、何より他の追随を許さない膨大なまでの努力が彼をそこまでにさせたのだと考えた。


 だからこそ、彼を準王騎士団副団長の座へと就かせたのだ。

 だからこそ、大切な妹(ラミィ)の目付け役を命じたのだ。


 彼が勝ち取った信頼が余にそうさせたのだ。


 だのに、何を今更『出会った時』などと宣うのか。

 其方にとって、それからの時間に価値は無かったとでも言うのか。


 教えてくれ、ヴェルナーよ。

 あの時、曇り無きまなこでいったい誰を見つめていたのかを__





 彼との出会いに自身を刺し殺す理由があるのかと考え、その他多くの記憶を巡らせるも一向に思い当たらない。


 すると、ヴェルナーは気味悪く()()()


「いいえ…()()()()()、陛下? ()()()前です」


「…? な…にを…?」


 まるで見透かしたかのようなヴェルナーはニヤリと笑い、串刺しのギルバートを地面へと叩き落とす。


 ドサっ!!

「グはっ…!!」


「よいのです、思い出せずとも。…貴方の後味が悪ければ悪いほど、それはそれで良いというもの……地獄で是非、貴方のお父様に伺ってみて下さいな」


 ヴェルナーは左手を前にかざして、唱える。


「さぁ、長年()()()が欲していた獲物ですよッ!? たんと味わいなさいッ!! 偽れ、『裏切リ(ヴェナイデッツ)』」


「っ…!」


 すると、少し刀身の長細い直刀が出現する。

 見た目こそありふれたただの直刀であるが、特筆すべきはヴェルナーの構えである。

 彼は刃の備わっている側では無くその反対側、つまりむね(刀身に於いて刃とは反対の背の部分)の方を前にして刀を握っているのである。


 普通であれば構え間違いを疑うような光景であるが、当然彼は普通では無い。

 寧ろ刀の背をギルバートへ向けて構えるヴェルナーの姿は、王に背いた臣下という状況をこの上なく体現しているとも言えよう。


 皮肉を極めたようなこの絵を狙ったか定かでは無いが、それでもヴェルナーは満足そうな面持ちでガイナを振り上げ、告げる。


「我が偽りの君主、ギルバート・ウル・ウィスタリアよ。…それでは永遠に、ごきげんようッ…!!」


 弑逆の刃は何を捉えるか_

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