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▷現役主人公の物語Re▷  作者: 加藤 大生
『燈和=フラデリカ』編
43/47

九割九分九厘九毛九死

 マーべラット東部第一防衛戦線にて__


 突風が吹き荒れる荒野の中、強面の男がたった一人で佇んでいた。


「あー、眠ィ」


 その外見、体格、セリフからも見て取れるようにかなりの強者感を漂わせるこの男。

彼こそが本作主人公の無連 氷戈の槍術の師匠であり、介戦学園『茈結しけつ』で武術講師も兼任する実力者『イサギ・アーセナル』である。

 実力がものを言う『茈結しけつ』で武術講師をしているだけあって、イサギの実力は相当なものである。


 そんな彼がなぜこんな所(戦線)で一人でいるのか。それは『敵勢の確認』を一任されているからである。

 特に激戦が予想されるマーべラット東部での戦況の傾きは、この戦争そのものの戦況にも大きく響くこととなる。よって状況判断能力と純粋な身体能力の高いイサギがこれを任されたのだ。

正確には『正しい情報を後続に控える第二、第三防衛戦線の部隊へ迅速に伝える』というのが使命であり、これらは全てリグレッドの提案した作戦である。


イサギはあくびをしながら茈結を立つ直前にリグレッドから言われたことを思い出していた。

 ________________________

「あ、そうそう。イサギさん、出発前で申し訳ないんやが、ちぃとエエか?」


「あン、なんだ? 俺と変わってくれンのか?」


「もしボクが代わりに行ったとして、生きて帰ってこれると思っとるん?」


「だから言ったンだよ」


「その間接的に殺しにくるの辞めれへん? …ま、そないなことはどうでもエエねん」


「…?」


「……正直に言うで。今回の作戦、一番危ないんはイサギさんや。死なんよう気ぃつけてや」


「フンっ、何を言うかと思えば…わざわざ冷やかしを言うために来たのか?」


「そんなんちゃうて、ひっどい言いようやわホンマ」


「だったら何の用だ? さっさと出発しなきゃならねぇってのに」


「…よう聞きぃや、イサギさん? 一目見て敵わへん思う奴と出会でくわしたら、捨て身でも何でもエエ。とにかく思っきし挑んでみるんや」


「ア? いったい何の話だ?」


「もしそいつに一瞬でも本気を出させることが出来たのなら、イサギさんが殺されることも九割九分で避けられるハズや」


「安心しろ、一目見て敵わないと分かれば俺は逃げる。じゃなきゃこんな年まで生きちゃいねぇよ」


「おッ、そらそうや!! ほな死なんよう頑張ってーな!! ナッハハハハッ!!」

 _______________________


「チッ、縁起でも無ねぇこと言いやがって。1%で死ぬじゃねぇかよクソッタレが……ん?」

 バゴォォォォォーン!!!!!!!


 突如、左後方から凄まじい爆発音が響き渡り、イサギはそちらの方を向く。

 どうやらマーべラット南部では既に激しい抗争が始まっているようである。


「いきなり凄いなオイ…。南部はアイネス王直属の戦闘部隊が防衛に当たると言ってたが、あんな規模の爆発を起こせる野郎が居たっけか? それとも敵軍の急襲にでも遭っちまったか。…どっちみ_」

「それで言うと、後者の方が正しいな」

「ッ!?」


 気配も無く、いつの間にか目の前に居る何者かに軽口を阻まれ驚くイサギ。

 爆発の方法に目をやっていたとはいえ、その存在に気づけずにこの距離まで接近を許した時点で凡その場合は死に至る。

 ところが、どうやら首はまだ繋がっているらしい。この幸運を噛み締めると共に、イサギはゆっくりと振り向いた。


「誰だおま…ッ!? て、テメェは_」


 この上ない幸運が瞬間、この上ない不運へと変わる。


「アウスタッシュ=アルムガルド…」


「ふむ、まさかフルネームで呼ばれるとは。私のことを知っているのか…」


 -知ってるも何も、今のフラミュー=デリッツNo.1兼元首様じゃねぇか…。敵国のトップ様がなんでこんなところに居やがる?-


「へッ、そいつは嫌みか何かか? 敵さんのトップを知らないはず無いだろう....?」


「失敬、確かに愚問だったな。……それにしてもこのようなところで一人、何をしているのだ?」


 -だからそれはこっちのセリフなんだよ。…さてはこいつ、天然入ってるか?-


「あー、えーっとだな。…それはそっちも同じだろ? お前も教えてくンなきゃフェアじゃあ無ぇってもンだ」


 アルムガルドはポーカーフェイスで首を傾げる。


「同じ…? 教える…? 念の為聞いておくが、貴殿はマーべラットを我々から守るために居るのだろう?」


 イサギは調子を狂わされながらも応じる。


「あ、ああ。その通りだ」


「…? ではいったい、何を教える必要がある?」


 純粋な疑問。純粋な答え。

 それらを、純粋過ぎるまなこで言うのだから恐ろしかった。


「攻め落としに来たのだ。このマーべラットを」


「ッ...」


 -こいつッ!!まさかとは思ったが、たった一人でマーべラット東部の防衛線を突破しようって言うのか? …バカげてやがる!! バカげてると、そう一蹴してやりたいが…-


イサギは再び彼の透き通った目を覗き込む。


-この様子じゃあ冗談ってことは無いんだろうよ、骨まで見えちまいそうだぜ-

「こちらも念の為、聞いておこう。お前さん一人で東部戦線ここを突破しようとしてンのか?」


「『ここ』が何を指すかによるが、マーべラット東部開通の任は私個人で受けもっている。…さて、これで私の質問には答えてもらえるだろうか?」


 イサギは予想したくもなかった予想通りの答えに、冷や汗をかく。


「フンっ、化け物めが。…が、しかし。これで俺は目的を果たせたって訳だ。あンがと…よッ!!」


 そう言い残し、イサギは目にも止まらない速度で踵を返して走り始める。

 彼の目的は敵の殲滅では無く、あくまで敵勢情報を後続に伝える事。この判断は極めて正しいと言えよう。


 もっとも、対峙した相手が彼で無ければの話だが。


「話の途中にどこへ行く?」

「ッ何だと!? グッ!!」


 ザアアアァァッーー!!


 突如として目の前に現れたアルムガルドに驚き、急ブレーキを掛けるイサギ。

 何とかアルムガルドとの衝突を回避し、急いでバックステップで距離を取る。


 -クソったれめ、足の速さには自信があったんだがな。全く…これじゃあ返して貰えそうに無ぇか-


「あーっと、何が知りたいんだっけか?」


「いや、もういい。これまでの言動と、今の行動で凡そ見当は付く。…偵察に来たのだろう?」


「流石は親玉だ。幾ら天然ちゃんでもそっちの頭はキレるってか? …ツイて無いぜ」


「? …何を言っているのか分からないが、貴殿を返して面倒ごとを起こされては困る。ここで切らせてもらおう」


「くッ…」


 アルムガルドは腰に下ろした厳かな刀を鞘から引き抜き、構える。

 イサギも戦闘は免れないことを悟り、武器を顕現させる。


「ふんッ!」


 突然、イサギの両手に二つの舶刀はくとうが現れる。これにアルムガルドは不思議がる。


「ん…?我成ガイナ…では無いのか?」


「へッ…さて、そいつはどうかな?」


「斬り合えば分かる…か」


 短い会話を挟み、両者は構えの姿勢を取る。

 彼らの間合いは約五メートル、然れど数メートル。


 ガキンッ!!!


 甲高い、金属同士のぶつかった音が辺りに響き渡る。

 仕掛けたのは意外にもアルムガルドの方だった。


 敵国No.1の剣撃を見事受け止め、もう片方の舶刀で反撃に出るイサギ。

 これをしゃがんで交わしたアルムガルドは、流れで足払いを試みる。

 対するイサギは、必要最低限のジャンプで回避し、この隙を狙う攻撃へ備えた。


 ここでアルムガルドは攻撃の手を止め、一旦距離を取ってから言った。


「なるほど、一人で偵察へ出てきただけのことはある」


「なんだ、また嫌みか? …嫌われて無ぇか、お前?」


「嫌われる? 何故そうなる…?」


「ああ!! ッたく…お前さんと話してると調子狂うぜ」

 -うーん、なんだかな。当然こいつは本気を出していないんだろう。が、俺を追ってきたあの速度で攻められると思ってたから、腑に落ちないと言うか何と言うか…。仮に、もの凄い手を抜いているのだとしたら攻め時は今か?-


「ッ…はァッ!!」


 そう思い立ち、今度はイサギから仕掛ける。


 キンッ!! キンッ! …カキンッ!!


 激しく斬り合う二人。

 恐らくこの戦場で最もレベルの高く、それでいて最も純粋な技量の応酬。

 互いの太刀筋を全て最善手で受け流し、その中にも僅かに生じる隙を狙って攻撃に転じるという最高峰の斬り合いである。





 そしてこの斬り合いが一分も続くと、次第に戦況の優劣が見え始めたのだった。


「ハッ!!フン!!」

「ッ...」


 押されているのはアルムガルドであり、現在はほぼ防戦一方を強いられていたのである。

 イサギはその手を緩めることなく攻め続ける。


 -俺よ、油断はすンなよ。…油断はしねぇが、攻めるなら今が好機。このまま押し切る!!-


「ダアァァァァァァっ!!!」

「くッ…!?」


 カンッ!!


 一瞬、防御に構えたアルムガルドの剣がブレる。剣撃を受ける際の刃の角度が甘かったのだ。


 -逃さん!!-

「ぬんッ!!」


「ッ!!?」


 イサギは生じた隙をものにしようと、もう片方の手に持った武器をアルムガルドの喉元へ差し向ける。

 ところがその武器は、今まで使っていた()()()()()()()()


 瞬間的にリーチを伸ばされたのを認識したアルムガルドは、流石にそのポーカーフェイスを崩し驚きの表情を浮かべ__


__()()()()()


サァン……



 ()()()が空を貫いた。



「くっ!! また()()かッ…」


 イラつき、振り返るイサギ。

 そこには変わらずシケた面のアルムガルドが立っていた。


「あの二刀といい、その槍といい、やはりガイナでは無いな。どうなっている…」


「ふんッ、こっちの渾身の突きを危なげも無く交わしやがって。…さっきから見せている一時的に早くなる能力、そいつがお前さんのカーマだな?」


「…その一部とでも言っておこう」


 アルムガルドはそう言うと、静かに持っていた剣を鞘へ納めた。

続けて、唱える。


「帯びせよ…『白月ヴァ・モルテ』」


 熱を帯びたまばゆい光が緩やかなしなりを見せ、やがて実体化する。


疾風吹き荒ぶ戦場を月光が照らした。

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